相撲

古豪の相撲部主将は体育会委員長!? 立教大・玉真拓雄の秘めたる思い

2020年度相撲部の主将を務める玉真(左)

大学スポーツも新型コロナウイルスの影響を大いに受けており、多くの大会が延期や中止に追い込まれた。その中でも煮え切らない思いを持つ相撲部の主将がいた。玉真拓雄(4年、都竹早)は3年次からの途中入部で相撲部に飛び込んだ。相撲部入部以前は学生記者として体育会員を取材していた。その経験を生かした体育会への貢献が認められ、今年度から体育会委員長に就任。チームとして結果を残しつつ、体育会全体を盛り上げようとしていた矢先に未曾有の事態に直面した。

100年のこった、のこった 「シコふんじゃった。」の立教大相撲部

いつの間にかシコふんじゃった。

入学当初、何をして学生生活を過ごすかさまよっていた玉真。高校時代に軟式野球をしていたこともあり、野球サークルに入ることも考えたが、「スポーツが好き」との理由で「立教スポーツ」編集部へ入部した。

大きく目立つシルエットと持ち前の明るさを生かして取材先の部員とすぐに溶け込み、敏腕学生記者としてのキャリアを着々と進めていた。選手が喜びの表情を見せればともに喜び、選手が引退する時にはともに涙を流すなど、常に対等な関係で取材先に寄り添い続けた。

学生記者時代の玉真(右から2人目)

転機は2年次の春だった。「相撲の大会に出てくれないか」。部員不足に悩む相撲部からのオファーが届いた。立教大学相撲部は1919年創部。アマチュア横綱・堀口圭一氏(1967年卒)を輩出するなど学生相撲黎明期の強豪校として知られており、映画『シコふんじゃった。』(92年)のモデルにもなっている。しかし近年は部員不足に悩まされており、体育会各部で助っ人を探していた。そして体格のいい部員が編集部にいると聞いた部員が、玉真のところに来た。歴代の先輩も助っ人として出場していたという先例もあり、快諾。意外な形で土俵デビューを果たした。

結果は強豪の相手にまったく歯が立たず1回戦敗退。「やってみて楽しかった」。初めて味わった相撲の楽しさに魅了された。その後も稽古に通い、大会に助っ人として年間を通して出場し続けた。その時、相撲に取り組み続ける中で一つの迷いが生じていた。

「このまま助っ人として出るよりも、相撲部に入部して本格的に取り組みたい」。編集部の同期や先輩と何度も話し合った。「自分が抜けたら周りの負担が増えて迷惑なのではないか」。常に周りの心配をする性格ゆえの懸念があった。それでも本格的に相撲に打ち込みたい。

2つの思いに挟まれる日々。そのような状況でかけられた言葉は「こっちは任せろ。いってこい」。編集部の仲間に背中を押されて、玉真は相撲部に入部した。入部後は当時の主将・小佐野陽(2019年度卒)にトレーニング方法や食生活のアドバイスを受け、成長を続けた。入部当時に比べて体重は20kg近く増量。いつしかチームの主力になっていった。

誰もが認める体育会への愛

「より体育会を盛り上げていきたい」。学生記者時代に出会った様々な体育会員に刺激を受け、体育会の組織運営を担う本部員としても活動することを選んだ。立大体育会は大学体育会でも稀な自治組織。運営はすべて学生に委ねられている。

行事の運営や会計業務を担った。活動して1年ほど経った今年の冬、編集部時代に培った選手やマネジャーに寄り添って対等に接する姿勢が評価され、次期体育会委員長に任命された。「体育会員一人ひとりが、それぞれ誇りと自覚を持って立大の模範となってほしい」。その思いから「誇れる体育会」をスローガンを掲げた。

今年1月の体育会総会にて就任のあいさつをする玉真(提供:立教大学体育会本部)

毎年にぎわいを見せている各部の新歓活動も、今年度は対面での実施が禁止された。何かできることはないかと考え、SNSの新歓アカウントを作成。オープンチャットの開設や合同説明会の開催も実現させた。部員の目線に立って最善の策を考えることで、各部に救いの手を差し伸べた。これからも愛を持って体育会に尽くす日々が続く。

遠く離れた土俵

誰よりも今季にかけていたのは玉真だった。負ければ4年生が引退という昨年のインカレ。先鋒として出場した。勝利は確実だろうと思われた1回戦で格下相手にまさかの敗戦。その後の選手たちも敗れ、唯一の4年生である小佐野の取り組みを前にして、立大の1回戦敗退が決まった。

玉真は土俵を離れると涙があふれた。小佐野から「ありがとう」と感謝の一言をかけられ、さらに頬を濡らした。また17年度主将のOB・野口昌利にも「悔しい気持ちはここで絶って、その思いをパワーにして来年ぶつけよう」と声をかけられた。先輩やOB、監督からの叱咤激励を受け、玉真は来季への巻き返しを誓った。

昨年のインカレ敗退直後、玉真(左)は悔しさと申し訳なさで胸がいっぱいだった

雪辱に燃える新主将に未曾有の事態が待ち受けていた。新型コロナウイルスの感染拡大。相撲部を含む体育会団体すべてが活動自粛を余儀なくされた。予定されていた大会も相次いで延期。相撲は常に体の接触を伴うコンタクトスポーツであり、飛沫のリスクが高い。そのため、今現在も活動再開の目処が立っていない。

「このまま土俵に立てずに引退かもしれない」。ただ過ぎていく時間と一方的に近づく引退に嫌気がさし、自暴自棄になった時期もあった。しかしこのような状況でもチームとしてできることを監督やコーチなどと話し合い、模索した。

今はオンラインミーティングを活用して、四股を踏むなどトレーニングをしている。延期された大会がいつ行われるかは分からない。行われないかもしれない。ただあの日の雪辱を果たしたい。土俵に戻る日を信じて、玉真は日々、鍛錬を惜しまない。

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