規格外73ydのFG成功、練習ながら本場でも話題 オービック山﨑丈路(下)
日本選手初の米ナショナルフットボールリーグ(NFL)入りを目指すオービックシーガルズのキッカー山﨑丈路(やまさき・たける、26)を紹介する後編です。関西学生2部の大阪大学でアメフトをはじめ、キッカーとして頭角を現した山崎は、大学4年生の冬に本場へ挑戦する機会をつかむことになりました。
JKAと出会い、本場への挑戦
それは、ある組織との出会いから始まった。日本の優秀なキッカーをNFLに――。米国の国技とも言えるアメリカンフットボールは、その競技への米国人の誇りは半端ではない。なかでも、NFLは最高峰で別格。どのポジションも大切だが、キッカーは得点に直結する重要な役割だ。それを外国人には任せられない、という風潮が少なからず存在する。そんな領域に日本選手を送り込もうという、ある種無謀とも言える夢に本気で取り組んでいる組織がある。ジャパン・キッキング・アカデミー(JKA)という。
JKAの代表を務める丸田喬仁さん(31)は自身も法政大学でキッカーとして活躍し、NFLに挑戦した経験を持つ。挑戦の過程で、過去にNFL選手を育てた実績を持つ米国人のマイケル・ヒューステッドコーチと関係を作り、JKAは今もヒューステッドコーチからサポートを受けている。現在、所属選手は29人で、丸田さんは「社会人、大学生のトップレベルの選手はほぼ所属していると思う」と語る。
山﨑は大学3年の冬、SNSでJKAの存在を知った。すぐにダイレクトメールを送った。丸田さんや日本のトップレベルの選手たちとともに練習し、「姿勢、ボールにコンタクトする時の足の形とか、今まで自分のエラーが出ている部分を根本的、本質的に解決できた。エラーの根拠を明確に示してくれた」と指導を受け、キックを磨いていく。自分で理解し、自分で修正する力もついた。メキメキと成長し、「日本で1番になれるかもしれない。世界に挑戦できるかもしれない。自分がどこまでできるのか知りたい」という思いが止まらない。そして、JKAの協力もあって、米国挑戦の機会をつかんだ。
糸口つかめなかったが、「キックで勝負を」
米国のセレクションでは、本場の選手たちと対等に渡り合った。なのに、別の選手はNFLのキャンプに呼ばれていったが、山﨑はNFL入りの糸口をつかむことはできなかった。17年、日本に帰国し、留年した阪大でコーチを務めながら、社会人チームに練習生として参加。一時は就職活動をした時期もあったが、「キックをあきらめて人並みの生活をすることはしっくりこなかった。キックを極めたい」と強い思いは消えることはない。高校時代の同級生が亡くなった時のことも思い出し、「自分のやりたいことをできなくて生涯を終える人もいる。自分はありがたいことに挑戦したいこともあるし、できる環境にいる」と決意は固まった。阪大を中退し、キックで勝負することを決めた。
強豪へ移籍し、追い続ける夢
社会人Xリーグでは、エレコム神戸ファイニーズで2シーズン活躍し、強豪のオービックシーガルズへ移籍した。「自分のために必要な環境がある」と決断した。今季はカナダのプロリーグ「カナディアンフットボールリーグ(CFL)」のセレクションやドラフトに参加する権利も勝ち取った。新型コロナウイルスの感染拡大の影響もあって、CFLの開幕は延期されているが、山﨑にはCFLの複数チームから個別に「君の獲得を考えている」というような連絡が入っているという。
7月にはオービックの練習場で73ydという前代未聞の距離のFGを決めた。ちなみに、FGの日本記録は58yd、NFLでも64yd。練習とはいえ、その距離は規格外の数字だ。73ydを決めた動画はSNSを通じて拡散され、米国のメディアも取り上げるほどの反響を呼んでいる。JKAをサポートするヒューステッドコーチは山﨑ら日本のトップキッカーについて、「技術は(米国の選手と)遜色ないレベルにまできている」と評しているという。山﨑も「キックを極めるという目標の過程にNFLがある」と語る。夢の扉は開かれるのか。オービックでのデビューを待つ26歳のキッカーから目が離せない。