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眼鏡で小太りの少年は、アメフトの本場で心に火をつけた オービック庄島辰尭(上)

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威圧感のある風貌とは裏腹に、庄島は物腰の柔らかい男だ(提供写真以外は撮影・北川直樹)

アメリカンフットボールの本場で挑戦を続けてきた男が日本に戻ってきた。名門UCLA(カリフォルニア大学ロサンゼルス校)でプレーしたOL(オフェンスライン)の庄島辰尭(しょうじま・たつあき、26)。アメリカでプロフットボーラーとして生きる夢を追いながら、今年は社会人Xリーグの強豪オービックシーガルズの一員として戦う。10月のリーグ開幕へ向けて準備を始めた庄島のストーリーを2回に渡ってお届けします。

名門UCLAの一員として戦った

UCLA時代の試合後。「ファンがあってのフットボール」と庄島は言う。©UCLA Football

庄島は2016年9月、UCLAの58番を着けて初めて公式戦に出た。NCAA(全米体育協会)1部校で日本生まれの日本人がフィールドに立ったのは始めて、と報道された。NCAAには約1100校が所属しているが、1部の中でも「パワー5」と呼ばれる五つのカンファレンスに所属する約70校はメジャー中のメジャー。その一つであるUCLAで、庄島はOLとしてはレギュラーになれなかったが、キッキングゲームには常時出場を果たした。 

18年6月にUCLAを卒業。ここ2年間はNFLを初めとしたアメリカのプロリーグでフットボールを続けるという目標に向かって活動してきたが実現せず、今年に入って日本に戻ることを決めた。「UCLAのコーチをしながら大学院に通うという選択肢もあって、応募もしてたんですが、やっぱりまだフットボールがやりたかった。フットボールは人生の限られた時間しかできないものなので、いまやめてしまったら後悔するんじゃないかと思って。親とも相談して、いま自分にとって正しい道は日本でフットボールをやりながら仕事をすることだと決めて、この道を進みました」。身長188cm、体重137kgの大きな体に、幼いころからの長髪。威圧感満点の風貌(ふうぼう)とは裏腹に、庄島はにこやかに、丁寧に言葉を紡いでいく。 

日本で仕事をしながらフットボールに取り組む

体育が大嫌いな少年が9歳でアメリカへ

庄島の父の辰大さんは、獨協大アメフト部と社会人の伊藤ハムハスキーズ(当時)でディフェンスの選手だった。1993年8月、その父と母の浩子さんの間に長男として生まれた。東京のど真ん中、渋谷で育ち、小学1年生から少林寺拳法と水泳を始めた。ただ球技は苦手で、体育の授業は大嫌いな少年だった。「運動神経も、まったくもってなかったので、体育が本当に嫌でした。夏のプールの時期だけでしたね。楽しかったのは」 

彼の人生に一大転機が訪れる。小4になる前に、父の仕事の関係でアメリカに渡ることになった。「もちろん小学生なんで、友だちとお別れになってしまうという残念な気持ちはあったと思うんですけど、いい意味でも悪い意味でも深く考えないタイプだったんで、『アメリカ行くんだ。いいね』ぐらいの気持ちでした」。西海岸はロサンゼルスでの暮らしが始まった。現地の小学校に入った。「アルファベットさえ分からない状態で行ったので、最初は何も分からなかった。でも、これも深く考えずにのんびりとやってました。気づいたら英語がしゃべれてたので、若いうちから行けてラッキーだったのかなと思います」。日本ではクラスで頭一つ出ていた身長は、海を渡ると平均かそれ以下だった。 

アルファベットも分からないまま現地の小学校に入ったが、気づけば英語が話せるようになっていた

レドンド・ユニオン高校に入った14歳のとき、アメフトを始めることになる。父がかつて選手だったことで、頭の奥深くには「アメフト」という言葉はあった。それでも家庭内の話題でアメフトの話が出てきたこともなく、高校に入るまで意識もしていなかったという。「アメリカなので小学校や中学校の体育でやりましたけど、とにかく球技が嫌いだったので。でも、高校に入るときになぜか『アメリカの高校=フットボール』だろ、という思いになったんです。父もやってたので『せっかくだからやってみるか』という感じで決めました」 

遅れた入部、つらい目にもあった

高校では最初につまずき、いじめられもしたが、へこたれなかった

最初につまずいた。高校は9月から始まるが、フットボール部の新入生は入学前の6月の合宿から参加することになっていた。庄島はそれを知らず、9月になってコーチに「フットボールやりたいです」と言いに行った。入部はできたが、支給用の防具はボロボロのものしか残っていなかった。練習用のユニフォームもビリビリに破れたものを渡された。「もうチームが出来上がっていて、仲間も出来上がってました。そこにのこのこ、眼鏡をかけた小太りの運動神経ゼロの日本人がやってきたんです」。チームメイトは庄島が練習で身につけるグローブやウェアを指さし、「おい、それ貸せよ」と言ってきた。毎日、そんなことが続いた。「思い返すと、あれはいじめみたいなものだったのかと」。ポジションすら確定しないまま、高校での1年目が終わった。 

つらい目にあっていたときも、庄島は「フットボールなんかやめよう」とは1度も思わなかった。「家庭内で『始めたことはあきらめないで最後までやりきれ』と言われてきましたので、やめるってのは頭の中になかったです。むしろ、やめたら負けだなと。『自分に嫌なことをしてきた者たちに尊敬されるために、自分はここで戦わなくちゃいけない』という気持ちが芽生えました」。庄島家の長男はたくましい。ここでへこたれていたら、UCLAもなかった。そして高校の2年目を前にして、彼はフットボーラーとしての先輩でもある父に言った。「強くなりたい。アメフトで強くなって見返してやりたい」。自主練習を始めた。映像で研究もした。「そこから、自分のアメリカンフットボールに火がついたという感じです」 

自分に嫌なことをした人から、尊敬される立場になろうとした

センターがいない。「やります!」

2年生になる前の6月の合宿で、2年生と3年生でつくる「ジュニアバーシティ」と呼ばれるチームのセンターがおらず、「誰かやってくれないか?」という話になった。センターとはオフェンスの最前線で5人が並ぶOLの真ん中に陣取り、QB(クオーターバック)にボールを渡してから相手にぶつかりにいくポジションだ。庄島はコーチの問いかけに迷わず手を挙げた。ラッキーに積極性で応じた。この日から、いまも続くセンター人生が始まった。「まったくやったことがなかったので最初はてこずりましたけど、ポジションを勝ちとって、信頼も勝ちとりました」。4年生のときにはチームを代表して戦う「バーシティ」のチームでも、センターではなく右タックルではだったが、レギュラーになれた。しっかり見返した。 

高校でのラストシーズンが終わるころ、庄島の胸には「大学でもフットボールがやりたい。パワー5カンファレンスのチームでプレーしたい」という思いが募っていた。ロサンゼルスで暮らしてきただけに、カリフォルニアの州立大学であるUCLAのユニフォームで戦う自分を思い描いていた。 

両親の前で日本に戻るための「プレゼン」

ただ、高校からUCLAのフットボール部に奨学金をもらって入学できるのは、たった25人。奨学金なしの「ウォークオン」での入部も相当の実績がないと難しい。現実的にストレートで入るのは無理だと考え、2年制大学を経て編入する道を模索するようになった。それにしても、まだ体も小さいし、実績も残せていない。「自分を目立たせるために何ができるのか、いろいろオプションを探していて思い浮かんだのが、日本の高校でフットボールをすることでした」 

日本に戻るなら、両親に金銭的な負担を強いることになる。そこで庄島は資料を作成し、「家庭内プレゼン」を敢行した。日本の高校に入ってフットボールをやりたい。第一の理由が小学生からアメリカに住んでいるので、思春期のうちに日本の文化を体験したい。日本での学業だったり青春だったりを経験したい。第二の理由が日本の高校でフットボールをやることで、もう少し成長する時間稼ぎができる。三つ目が時間稼ぎとともに、日本でいいプレーをすれば自分のハイライトビデオづくりに役立つのではないか。このプレゼンで両親に納得してもらって、編入先を探した。ラッキーなことに進学校でフットボール部もある都立西高校がこの年から編入を受け入れていた。渡りに船と編入試験を受けて合格。レドンド・ユニオン高校を卒業する3カ月前に退学して帰国。2011年4月に西高の3年生として入学した。 

U-19日本代表に滑り込み

日本の文化と青春を経験するため、1年だけ都立西高校に通った

この年の西高は強く、春の都大会で3位に入って関東大会に出場。秋は都大会で準優勝して、全国大会の準々決勝まで勝ち上がった。「とても頭のいい学校で、優れた学生たちに囲まれていたので、結構面白い体験ができました。アメフトもすごく優れたメンバーに恵まれた年だったので、すごくいい経験になりました」。12年の3月に西高を卒業し、その年の6月末から7月にかけて第2回U-19世界選手権に日本代表の一員として参加。トライアウトと強化合宿を経て発表された代表メンバーには入っていなかったが、庄島と同じセンターで選ばれた選手がけがをして滑り込み、カナダ戦に出場した。 

そして9月、UCLAのレギュラーのセンターになるという大きな目標に向かって、2年制大学のサンタモニカカレッジに入学した。

UCLAでのプレーを目指し、まずは2年制大学に入った

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あこがれのUCLAで戦い抜き、芽生えた夢 オービック庄島辰尭(下)

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