東海大・大屋祥吾は最後まで諦めない 県リーグ降格の悔しさを力に変えて全国で勝負
アミノバイタルカップ2020 第9回関東大学サッカートーナメント大会 5・6位決定戦
11月3日
東海大学 2-1 立正大学
11月3日、アミノバイタルカップ2020の全日程が終了した。この大会の上位5チームは来年1月に行われる全国大会に挑む。最終日の5・6位決定戦で、東海大学は立正大学に2-1と逆転勝利を収め、全国大会への最後の切符を獲得。神奈川県リーグを戦う古豪が下克上した格好だが、この勝利には明確な「理由」があった。
先制を許した4分後に投入、2分で同点ゴール
「試合の大半を支配されていましたからね。勝ちにも負けにも必ず理由があるよ、と選手たちにはいつも言っているのですが……」。リーグのカテゴリーでは2つ上の立正大に苦しめられながらの逆転勝利に、答えを探そうとする今川正浩監督は、そう言って苦笑した。
この10年で、両チームの立場は大きく変わっていた。多くのプロを輩出してきた東海大は2010年から関東2部暮らしが続いており、昨年ついに神奈川県リーグへと降格。対する立正大は東京都リーグからの昇格後、2年間で2部を「卒業」し、昨年から関東1部へと戦いの場を移している。
立ち位置の違いそのままに、東海大が立正大に押される展開が続いた。サイドを広く使ったスピードある攻撃にさらされ、ゴール前で冷や汗をかく場面が散見された。前半は何とか無失点で持ちこたえていたが、ついに後半22分に陥落する。引き金を引いたのは、立正大の平松昇(4年、清水ユース)。湘南ベルマーレ入りが内定しているレフティが送った正確で長いフリーキックを、孫大河(3年、正智深谷)に頭で決められたのだ。
ゴールは試合を動かす。東海大は反撃に出ざるを得なくなった。その手負いのタイガー軍団の背中を強く押したのは、交代で入った4年生だった。「こぼれ球がくるような気がしていました」。先制された4分後に投入された大屋祥吾(4年、東海大相模)は、そう振り返る。
ロングスロー、スローインと続いた攻撃で、ボックス内に7人がなだれ込む。ゴール前へのボールは何度か跳ね返されたが、ペナルティアークへと走り込んだ大屋が、右足ボレーで強烈にボールを叩いた。次の瞬間、ボールはゴール左隅へと突き刺さった。ピッチに入ってから2分後、大屋のファーストタッチが同点ゴールに化けた。
ゴールは、やはり試合を動かす。追いついた3分後、東海大が勢いのままにボールを前に運ぶと、ボックス内でフリーで受けた本多翔太郎(3年、東海大高輪台)は冷静にループシュートを選択。ゴールキーパーの頭上を抜く逆転ゴールは、そのまま決勝点となった。
どんな時もチームや他者を思いやる気持ちを大切に
立正大の反撃をしのぎ切って試合終了の笛を聞くと、主将の米澤哲哉(4年、湘南工大附)の涙腺が決壊した。「OBの方から、『今、県リーグなの!?』って驚かれることが多くて。悔しさを感じていました」と涙の理由を語った。
関東リーグからの降格は、確かに大きな屈辱だったに違いない。だが、自分たちを見つめ直すいい機会になった。いや、考えを改めざるを得なかった。
まずは、目標を明確にした。県リーグ降格という未曽有の事態に、関東2部復帰は、まさに命題となった。そして全国大会出場。総理大臣杯はコロナ禍により中止となったが、来年1月開催の全国大会に向け、選手たちは気持ちを切らさなかった。
目標に到達するためには手段が必要だ。今年、指揮官に復帰した今川監督が振り返る。
「去年までも頑張るという基本的なことはできていたので、そのいい部分をチームでどう発揮したらうまく力につながるかを考えるようにしました。他者の意見を尊重したり、サッカー以外のところでもチームや他者を思いやる気持ちを持つということです。誰でも調子がいい時はできるものですが、試合に出られない時とか負けた後とか、そういう時に真価が問われると繰り返し言ってきました」
主将の言葉は、監督の考えが浸透していることを裏付ける。
「それぞれの中でチームとしてやりたいことと、個々がやらないといけないことがはっきりしました。それを全員が全うできたというのが、一番変わったところだと思います」
苦しんだ3年、ラストイヤーも負傷、それでも諦めなかった
大屋の同点ゴールは、変化の象徴だ。長身FWの背番号は33。入学当初から試合に出場してきた実績のある4年生にしては、大きすぎる番号だ。今川監督が、その舞台裏を明かす。「実は、この大会では追加登録した選手なんですよ。最後にグループA(1軍)に入った選手なんです」
大屋にとって、平坦な4年間ではなかった。1年生から起用されると、目の前の試合でがむしゃらに頑張るだけだった。2年生になると自分のプレーが出せるようになってきた。試練は昨年だった。「チームとうまくいかないことやけがが重なって……。3年生のシーズンが一番思い通りいかない、きつい1年間だったと思います」と振り返る。
最後のシーズンも負傷した状態で迎え、30人ほどのグループAの枠に入ることができなかった。それでも、大屋の気持ちは切れなかった。「今までは自分のことしか考えられなかったんですけど、4年生という引っ張る立場だし、チームのためにという思いが一番強くなっていました」
この日のスタメンにも、1年生と2年生が2人ずつ入るなど、若い力の融合も進んでいた。一方で、最終ラインで体を張った米澤や佐藤颯人(4年、東海大相模)と、チームの背骨は4年生が力強く担っていた。そして、今大会まだ出番がなかった大屋。「合流が遅れて難しい時間が続いたのですが、気持ちを切らさず、最後の1試合でも出られたら全国にチームが出場できるように手助けできたらなと思っていました」
1点を追う苦しい場面で、自分のすべきことは見えていた。「負けている場面だったから点を取ることだけを考えていたので、意外と楽な気持ちで試合に入れました。だから、あの場面でもすぐにシュートを選択できました。シュートもきれいに当たったし、準備段階から力んでいなかったことが、得点につながったんだと思います」。今大会初プレーで自身の、そしてチームの努力を結実させた。
「今年はTeam TOKAIとして全員で戦うという思いを持ってやっています。今までも声かけやミーティングもしていましたけど、これまで以上にチーム全員でという思いを強く持っています。全国大会出場と関東復帰という目標に向けて例年以上に厳しい練習もありましたが、チームで声をかけ合って乗り越えられました」。大屋は堂々と語った。
関東リーグ復帰、そして全国の舞台で勝負
涙を流した主将が、殊勲の同期に感謝する。「1年生のころからトップで出ていたのに今年はグループB(2軍)からスタートになった悔しい思いを、プレーで表現してくれました。4年生として、後輩の鑑(かがみ)になる姿。素晴らしいプレーだったと思います」
試合終了の瞬間、泣き崩れた米澤を見て、ゴール脇でウォームアップをしていた選手たちがこうつぶやいた。「まだ泣くのは早いぞ」「スタートラインに立っただけだからな」。全員で戦うチームの姿は、はっきりとその輪郭を現しつつある。
関東リーグ復帰への戦いは続く。来年1月の全国大会も、目標は出場から次のレベルへと切り替わった。大屋の活躍を喜ぶ今川監督は語る。「何とかグループAへという欲を持っている大屋の姿を、神様が見ていたんでしょうね。関東昇格に向け、今のメンバーを脅かす人が出てこないと難しいと常々話しているので、選手たちがどう気持ちを切り替えてくれるか楽しみです」
下克上を狙うTeam TOKAIの冒険は、まだまだ続く。