バレー

特集:全日本バレー大学選手権2020

近大・森愛樹 西の王者として挑んだ早稲田戦、リベロができる最大級の攻めの守りを

自分が1本でも多く拾い続ける。その思いで森は東の王者・早稲田に挑んだ(撮影・全て松永早弥香)

第73回 全日本大学男子選手権 準々決勝

12月3日
近畿大学 0(13-25.15-25.18-25)3 早稲田大学

出場校の全てが3連覇中の早稲田大学を倒そうと士気を高める中、並々ならぬ思いで準々決勝に臨んだのが、関西リーグの覇者・近畿大学だ。昨年も同じ準々決勝で対戦したが、0-3で近大は敗れた。全国制覇を狙う度、いつも立ちはだかる早稲田の壁。東の王者と西の王者。最終学年の今年、リベロの森愛樹(4年、市立尼崎)は最後のチャンスにかけていた。

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いっつも負けてきた村山豪に最後こそは勝ちたい

まず警戒すべきは早稲田のサーブ。リベロの自らが中心となり、ジャンプサーブやコート前方を狙うジャンプフローターサーブを巧みに織り交ぜる早稲田に対し、いかにレシーブから応戦できるか。主将の東野朋慶(4年、近大附)とともに、森が守備を固めるべく奮闘するも、第1セット序盤から早稲田のルーキー水町泰杜(鎮西)のジャンプサーブが走り、3-11と早稲田が8点をリード。予想していたとはいえ、サーブは遥かに想像の上だった、と森は苦笑する。「あんなに強いと思いませんでした。めっちゃ強かった。サーブの威力がハンパなかったです」

終盤にも水町のサーブで連続得点した早稲田が第1セットは25-13で先取。大差をつけられる形となったが、近大のベンチでは誰ひとり下を向くことなく「まだまだ、いけるぞ!」と前向きな声が飛び交った。

同じ相手に何度も負けるわけにいかない。近大の選手たちの多くがそう思っていたが、ひときわ強く「また負けてたまるか」と思っていたのが森だ。なぜなら大学時代にとどまらず、さかのぼれば高校、さらには中学時代。いつも日本一をかける大事なところでそびえ立つ相手。それが早稲田にいる村山豪(4年、駿台学園)だった。夢前中でも、市立尼崎高でも、負けるのはいつも村山擁する駿台学園。

早稲田の村山は中学、高校、そして大学で負け続けてきた相手だった

「いっつも豪に負けてきたんです。僕は企業でバレーボールを続けはしないので、豪と戦えるのもこれが最後。中学、高校からのリベンジを果たせる最後のチャンスやし、とにかく後悔を残さないように戦いたいと思って臨みました」

点数が離されても、やるべきことを最後までやり抜く

第2セット以降も早稲田のサーブが効果を発揮し、連続得点してもすぐに返され、近大はなかなかリードが奪えない。相手より1点でも多く得点しなければ勝つことはできないのだが、裏を返せば相手の攻撃を1本でも多く防げば得点も与えない。自らのプレーで直接得点を取れないリベロにとって、まさにそれこそが腕の見せ所だ。

13-15と2点差に迫る場面でも、早稲田の主将でエースの宮浦健人(4年、鎮西)がノーブロックで放ったバックアタックを、ストレートのライン際で構えた森が好レシーブ。「威力がすごすぎて吹っ飛ばされた」と笑うが、攻撃力で勝る早稲田を封じるにはブロックで封じるコースと、レシーブで拾うコースを明確にしなければ対応できず、そのためには自分が1本でも多く拾い続けること。

苦しい場面でも、だからこそ、森は率先して仲間を鼓舞した

強烈なスパイクは体を張ってレシーブし、サーブで前衛やコート中央を狙われた時は自ら取りにいく。自分が1本目を取り、正確なレシーブでセッターにつなげることはもちろんだが、アタッカーが攻撃に入りやすい準備をするためにサポートする。決して派手なプレーではないが、それこそがリベロとして果たすべき役割であり、大学での4年間、森が徹してきたことでもあったと言う。

「自分がレシーブしてスパイカーが攻撃しやすくなるのももちろんやし、自分なりに範囲を広げてレシーブするスパイカーを助ける。苦しい状況でもいかにサポートできて、質のいいレシーブができるか、というところにはずっとこだわってきました」

スパイカーが果敢に攻めるも、高さや個の技術だけでなく組織力にも長けた早稲田のブロックはまさに“鉄壁”というべきもの。当然ブロックされることもあるが、そのボールが床につくまでは得点にならない。落ちそうなボールも懸命に手を差し出し、時にはコート後方まで追いかけ必死でつなぐ。点数が離されても、自らのサーブやスパイクで得点することはできなくても、やるべきことを最後までやり抜く。今できることは、全て出し尽くそうと懸命にボールを追い続けた。

時には吹っ飛ばされながらも、森は懸命にボールを追い続けた

「僕らに勝った早稲田に、絶対優勝してほしいです」

だがそれでも、早稲田は強かった。第2セットは15-25、第3セットは18-25、昨年に続いて0-3で敗れ、近大の、森の大学生活最後のインカレが幕を閉じた。

リベンジを果たせなかったのは残念で、悔いがないと言えば嘘になる。ただ、それ以上に思うのはやりきった、という充実感。「今年の早稲田は本当に強い。穴がないし、この早稲田に負けたのなら仕方ないと納得させてくれるチーム。僕らに勝った早稲田に、絶対優勝してほしいです」

かなえられなかった夢は、中学から戦い続けたライバルと後輩たちに引き継いで。森は笑顔で大学最後の試合を終えた。

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