近畿大学のムヤ・フランシス、「二刀流」でバレーとバスケのインカレに挑む
バレーとバスケのインカレに続けざまに挑もうとしている近畿大学の「二刀流」留学生がいる。コンゴ民主共和国出身の1年生ムヤ・フランシス(19)はバレーボール部とバスケットボール部を掛け持ちし、双方で今秋の関西学生1部リーグの優勝に貢献した。もともとはバスケット部員として強豪の宮崎・延岡学園高に留学、近大バレー部からの熱心な勧誘にほだされて大学で両方プレーすることになった。二つの関西王者の称号を手にしたフランシスは11月30日からバレーの全日本大学選手権、12月7日からはバスケットの全日本大学選手権に出場予定だ。
同じ日に2競技の関西学生リーグで「連勝」
10月下旬の土曜日、バレーの関西学生リーグ、立命館大学戦が行われた奈良県桜井市の芝運動公園総合体育館にフランシスはいた。身長206cm、体重100kgの巨漢は、長身選手が多い会場でもひときわ目を引く。主にブロッカーとして立命館の攻撃を防いでいった。
翌日曜日は忙しかった。まず午前中は大阪府吹田市に向かった。バレーの龍谷大学戦に出場し、夕方からは大阪市内であったバスケットの京都産業大学戦へ。第2クオーター途中からコートに入ると、ゴール下で相手留学生と競り合うなど守備面で存在感を放った。違う競技の関西学生リーグで龍谷大、京産大に「連勝」した。「疲れもなくやれた」と涼しい顔で言った。
関西大学バレーボール連盟の黒田進会長代行と関西学生バスケット連盟の北波(きたば)正衛(しょうえい)理事長は「両方で出場する選手は見たことがない」と口をそろえる。選手登録上の問題はないという。近大のバレー部は全日本大学選手権で準優勝1回、バスケット部も同4強などの実績がある強豪だ。米国などでは複数競技の掛け持ちは一般的だが、日本で、しかもトップレベルの大学の体育会では極めて珍しいだろう。
フランシスは15歳で延岡学園高に留学し、3年生の時は全国高校選手権で8強入りした。二刀流挑戦のきっかけをつくったのは、近大バレー部の光山秀行監督だ。高1のとき、近大であったバスケットの練習会に参加したフランシスの最高到達点355cmを誇るジャンプ力にほれこんだ。近大バスケット部に所属する延岡学園の卒業生から「彼はバレーもうまい」との情報も得た。
高校バスケで活躍、近大バレー部監督が口説く
「大学ではバレーをやらんか。実業団への道もあるぞ」。光山監督は宮崎まで出向き、近大のOBが実業団で競技を続け、引退後も活躍している例などを説明し口説いた。母国でバレーの経験もあったフランシスは「そういうチャンスがあるなら」と決意。バスケットへの思いも断ち切れず、実業団入りをめざすバレーに重きを置きつつ、兼部することにした。
「バスケとは人数も違うし、試合時間も読めない」。ともに高身長やジャンプ力が有利に働く競技とはいえ、当初はバレーへの戸惑いがあった。支えてくれたのは大学のチームメートたちだ。レシーバーの4年生、吉田裕哉からは全体練習後、身ぶり手ぶりを交えながらパスの基本を教わった。吉田は「未熟な部分もあるが、吸収するスピードが速い」と言う。光山監督は「入学して半年で試合に出られた。高い適応力がある。技術はまだこれからだが、ブロックの高さなどは十分通用する」
「聞く方が得意」という日本語に加え、英語やタブレットの翻訳機能も使いながら、周囲とコミュニケーションを取る。シャイな性格とみられており、本人も「元々、静かな方」とはにかむ。ただ、バレーでスパイクを放つときの雄たけびは迫力があり、試合前円陣では「ワン、ツー、スリー」の声かけ役を務めるなどムードメーカーにもなっている。
高校2年生だった2018年6月、バスケットの試合中に同郷の留学生が審判を殴る騒動が起きた。このとき、興奮する留学生を真っ先に落ち着かせようとしたのがフランシスだったという。騒動に揺れるチームの大黒柱として、その年の全国高校選手権出場の原動力にもなった。
バスケット部の禿(かむろ)正信監督も「高さと強さがあって特にディフェンス面では欠かせない戦力」と言い、期待は大きい。フランシスは「技術はまだまだ。もっと練習を頑張って、将来はバレーで実業団に入りたい」と夢は膨らむ。二刀流への挑戦を母国の家族に伝えると「あなたならできる」とエールを送られたそうだ。
基本的に週6日はバレー部、1日はバスケット部の割合で練習するという。違う競技に親しむことで自分でも気付かなかった体の使い方など新たな発見があるかもしれない。同じ体育館で隣り合う両部のコートを股にかけ、大きな成長を目指す。