ラグビー

特集:第57回全国大学ラグビー選手権

天理大学が悲願の初優勝、平尾誠二さんの同志社大学以来、関西勢は36大会ぶり

初の大学日本一になり喜びを爆発させる天理大の選手たち(撮影・全て朝日新聞社)

第57回全国大学選手権大会

1月11日@東京・国立競技場
▽決勝
天理大学(関西1位)55-28(前半29-7)早稲田大学(関東対抗戦2位)
▽これまでの優勝校と回数(両校優勝含む) 早稲田大16▼明治大13▼帝京大9▼関東学院大6▼同志社大4▼法政大3▼大東文化大3▼慶應義塾大3▼日本体育大2▼天理大1

ラグビーの第57回全国大学選手権大会決勝が1月11日、東京・国立競技場であり、関西リーグ王者の天理大学が、連覇を目指した早稲田大学を55-28と圧倒して初優勝を飾った。歴代10校目の優勝校となった。関西勢が頂点に立つのは第19~21回大会(1982~84年度)に3連覇を果たした同志社大学以来36大会ぶり。

決勝最多得点で早稲田大学を圧倒

天理大は序盤から接点で早大を圧倒し、計8トライなどで55得点。第51回大会の帝京大の50点を上回り決勝での最多得点だった。コロナ禍による緊急事態宣言下、決勝は有観客で実施され、観客11411人が集まった。政府はイベントの観客について原則5000人を上限としているが、すでに販売済みのチケット保持者に関しては入場を認めていた。

前半31分、天理大のCTB市川(右)は早くも自身2本目のトライを挙げた

天理大の方が人数が多いのではないか。キックオフ早々、そんな錯覚すら覚えた。ボール争奪の場面での選手の集まりがあまりに速い。開始直後、早大の選手にFW第一列の選手が2人でタックルを仕掛け、ボールを一気に奪って逆襲。3分のCTB市川敬太(4年、日新)の先制トライに結びつけた。その後も攻撃でのサポートが素早い。防御の場面でタックルをしても、倒れた選手がすぐに起きあがり、またボールに絡む。しつこさで早大を圧倒した。

ボール争奪局面で常に上回り、前半だけで4トライ。勝負をほぼ手中に入れた。この試合で計4トライを奪った大活躍の市川は「1試合で4トライは初めて。それはうれしいが、チーム全体が体を張ってくれたおかげです」と話した。

地道なプレーの積み重ねでつかんだ初優勝だ。スーパーラグビーのサンウルブズでも活躍したCTBシオサイア・フィフィタ(4年、日本航空石川)も「自分勝手なプレーではなく、周りを使うことを意識した」と話す。なんともまじめなメンバーたちだ。小松節夫監督(57)の人柄が投影されたチームのようにも思えた。

花開いた小松監督の指導

ちょうど40年も前になる。記者は、小松監督と高校日本代表でチームメートとして一緒にオーストラリアで戦った。天理高の小松監督はCTB、大分舞鶴高の私はフランカー。あの平尾誠二さんが主将を務めた代だ。大阪工大(現・常翔学園)の東田哲也さん、秋田工の土田雅人さんら個性的な選手がたくさんいた。

天理大を初優勝に導いた小松節夫監督

チームの主力はその年の決勝を争った伏見工(現・京都工学院)と大工大のメンバー。監督はあの山口良治さん(青春ドラマ「スクール☆ウォーズ」の主人公モデル)で、基本的にチーム構成の柱を変えない方針だった。平尾さんら数選手は全8試合(7勝1敗)に起用された。当然、他のメンバーは出番が少なく、私は先発3試合、小松監督は2試合だけの出場だった。ただ、起用された試合での小松さんのまじめさは光った。ボールを生かすプレーに徹した。タックルでは体を張った。そしていつも冷静だった。

今回は1984年度に平尾さんらを中心に同志社大が3連覇して以来の関西勢の優勝だ。平尾さんは、神戸製鋼で7連覇するなど何度も日本一を経験した。同期の星は輝かしい実績を残し、2016年、53歳の若さで早世した。短い間に大輪の花を咲かせてきた平尾さんとは違い、今度は長い間地道な指導を続けていた小松監督が、やっと日本一をつかんだ。

今季の天理大はコロナ禍の苦難もあった。昨夏にクラスター(感染者集団)が起き、感染は部員168人のうち60人以上に広がった。活動休止を強いられ、寮は閉鎖された。そんなことも乗り越えての日本一だけに、喜びもひとしおだろう。優勝した瞬間の気持ちを聞かれると「日本一になったな、日本一や、と思いました」と、ちょっとはにかみながら答えた。40年前と変わらない表情をみせた。

大学日本一に輝いた天理大学(日本ラグビー協会提供)

天理大の小松監督 「今までのチームは東京の大きな試合でなかなか実力を発揮できなくて悔しい思いをしてきた。今日は『実力を出し切ろう』と送り出した。強い早稲田のアタックに対して、崩れかけたところで踏ん張って、走って、起き上がって、早稲田にプレッシャーをかけられたことが勝利につながった。学生たちが実力を発揮してくれた。素直にうれしい」

早大の相良監督とあいさつする天理大の松岡主将(日本ラグビー協会提供)

天理大の松岡大和主将 「ディフェンス部分でしっかり前に出てプレッシャーを与えようと。しっかり体を張り続けたので、ディフェンスで全員が我慢した結果の勝利だと思う。(スクラムは)レフェリーとしっかりコミュニケーションとれて、修正できた。詳細を明確にできて押せた」

再三、好機を作った天理大のCTBフィフィタ

天理大のフィフィタ 「すごくうれしかった。(早大)強かったですね。僕も久しぶりにミスたくさんありました。みんながカバーしてくれて助かった。できるだけ敵陣に入ることを意識した。昨日、寝る前に2年前の(敗れた)決勝を急に思い出した。明日、自分がいらんことしたら負けるから、できるだけボールを回そうと思った」

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