野球

特集:2021年 大学球界のドラフト候補たち

中央大学のエース皆川喬涼、チームの柱となるために変わらなきゃ

中央大学の皆川喬涼。最上級生になりさらに進化をとげている(撮影・全て笠川真一朗)

史上初めて7校でしのぎを削る東都大学野球1部で中央大学が開幕から4連勝と勢いに乗っている。その中心にいるのが4戦連続で登板しているエースの皆川喬涼(みなかわ・きょうすけ、4年、前橋育英)だ。既に3勝を挙げるなど、今季から「18番」を背負った開幕投手は、昨季までとの覚悟の違いを姿勢と投球で見せている。リードする古賀悠斗主将(4年、福岡大大濠)とともに秋のプロ野球ドラフト候補。4years.応援団長の笠川真一朗さんが迫ります。

公式戦初完封

4月9日に先発した亜細亜大学との試合では完封勝利。被安打5、与四死球2、奪三振9と力強い直球を軸に丁寧に丁寧にコースに集め、キレのあるスライダーも冴(さ)え渡る。「大学に来て一番良かった」と本人も振り返る安定感のある投球を見せた。甲子園でも名をはせた前橋育英高時代を含め、公式戦での完封は初めてだと言う。中大の清水達也監督も「要所、要所しっかり粘って投げてくれた。すごくバランスが良くなった。下半身の力がボールに伝わっている」と成長を認める。皆川が最も成長したのは技術面よりも精神面だった。清水監督は「自覚かな。考え方や取り組み方が変わりました。最上級生になって『自分が引っ張っていかないといけない』という自覚が出てきた」と皆川の変化を口にする。

チームのために、自分のために本気で挑む

1年春にデビューしてから4年生になるまで28試合に登板。通算で2勝8敗と歯がゆい時期が続いた。その原因を皆川はこのように話した。「練習をあまりしてこなかった。だから自信が無くて、逃げの投球ばかり。腕が振れてませんでした。今までの自分がダメだったんです」。最速149kmのストレートを持ちながらリーグ戦で勝負していけない。不安を抱えながら投げていた。変わりたくても変われない。自分できっかけをつかめなかった。

しかし、最上級生になったことで皆川は本気になった。「力のあるすごい先輩達が一気に抜けて、新チームに柱、要となる人間が少ないなと実感しました。捕手の古賀がいるけど、古賀ひとりだと足りない。前からずっと『中大は投手陣が課題』と言われていましたし、『自分が変えていかないと』と本気で思いました」。プロに進んだ牧秀悟(DeNA)や五十幡亮汰(日本ハム)などを中心にチームの大きな柱がごっそり抜けた中大。そこに大きな危機感を抱いた皆川はこれまでとは違う姿勢で練習に取り組むようになった。もちろん、皆川自身がさらに上を目指すためにも。絶対に変わらないといけなかった。

「誰かに言われるんじゃなくて自分から積極的に取り組むようになりました。今までタラタラ走っていたのをピシッと1本、1本、丁寧に走り、トレーニングにしても、どういう風に取り組めば投球につながるか。目的や意図を持って考えながらやりました」。意識を変えたことで投球にも変化が表れた。「重心の位置や力を入れるタイミングや場所が良くなりましたね。自然に良い方に変わっていきました」。普段から「何が悪いのか」を捕手に聞いて確認して自分でも考えてみる。ダメな球には必ず原因があって、その原因に対して正面から向き合う。それを修正していく作業を習慣にしていくと、今まで不安を感じていた「何かを変えること」に挑戦できるようになった。すべては「自分を変える」という覚悟を決めたからだ。

当然、人間だから調子の良い時も悪い時もある。それでも極力、左右されないようにうまく順応していくための工夫もできるようになった。

古賀とともに成長

そこで大きな存在になっているのが主将で正捕手の古賀悠人(4年、福岡大大濠)だ。「古賀は良いですよ。ものすごく信頼できる捕手。自分が言うのはおこがましいかもしれませんが、キャッチングも更にうまくなってますし、古賀が捕手だと走者もあまり走ってきません。落ち着いて投げれます」と信頼の言葉を口にした。良い捕手は良い投手を育てる。逆もしかりだ。成長してしっかりと試合を作れるようになった皆川と柱のような捕手・古賀の息がピッタリと合っている。

今の中大の躍進を支えているのは課題だった投手陣を含めたバッテリーの奮闘が大きいのかもしれない。そして野手陣も燃えている。「昨年は個人の力が大きすぎました。今年は一人ひとりに力が無いことをみんなが自覚しています。だからこそ良い雰囲気で全員が必死に戦えてると思います」。皆川はこのチームの印象を語った。

今季のチームに欠かせない古賀悠斗主将

皆川はこれまでの3年間の経験と自分自身と向き合うことで勝つための投球スタイルを導き出した。「いくら速いストレートがあってもリーグ戦では打たれる。変化球でカウントを取れないとリーグ戦はしんどいです。140km前半、中盤でもノビのある球を。先発投手として試合を作ることが一番大切。今は全部のボールでカウントが取れて、勝負できています」

亜大戦の完封勝利はまさにその象徴だった。「引いたらそこにつけこんでくる。亜細亜には技術うんぬんよりもそういう力がある。前まではそれにやられていました。だからこそ向かっていく。その気持ちで1球、1球投げました」。亜大に勝ったことが皆川にとって大きな価値があったのかもしれない。そして自身が語る「四球を出してそこから崩れていくのがダメなときの自分のパターン」を払拭(ふっしょく)するような投球を見せられた。この春は自信を持って腕が振れている。勝てなくて負けを重ねた過去が力になっているからだ。「今まで全然勝ててなかった悔しさを持っている。投手の自分がしっかりやっていかないと」。その言葉からは頼もしさを感じた。

「楽しいとは思わない」

皆川は言う。「野球自体はもちろん好きですけど、投げてるときは楽しいとは思いません。自分も高校時代に野手をしていたのでわかるんですけど、『打者は打てたらラッキー、打てなくても仕方ない』とけっこう割り切れる。でも投手は違います。しっかり抑えないと試合自体が崩れます。責任を感じます。だから楽しいとは思えない。でも試合に勝つその瞬間はめちゃくちゃうれしいです。その瞬間のためだけに頑張れてます」。正直な気持ちを口にした。だからこそ勝負から逃げない。もう負けたくない。勝ちたいからだ。チームを自分の投球で勝たせたいからだ。

「チームを勝たせたい」

「引かない気持ち。逃げない気持ち。自分がボールを持って自分が投げてスタートする。そこで引いてしまったら投げるボールも悪くなってしまう。だから絶対に引かない」
投手としてひとりの人間として一皮むけて春を迎えた中央の18番。かつて抱えていた不安を置き去りに、確かな成長と自信をマウンドで堂々と見せつけている。

※ここからは余談です。
前橋育英高の弟、岳飛(がくと)もドラフト候補として注目を浴びている。走攻守にわたって素晴らしいセンスを見せる外野手。雑誌などで「兄に負けたくない」と書いてあるのを見た喬涼は「何言ってんだ。兄として負けれるか」と燃えているようです。兄弟揃っての大活躍を楽しみにしています。

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