ビーチバレー

アスリートの盗撮被害、競技の未来のために声を上げる 坂口佳穗2

武蔵野大学卒業後は、ワールドツアーを転戦した(2020年FIVBワールドツアーランカウイ大会にて、撮影・平野敬久)

ビーチバレーで東京オリンピックを目指している坂口佳穗(25)は2018年に武蔵野大学卒業後、プロフェッショナルのビーチバレープレーヤーとなった。少しずつスポンサードしてくれる企業が増え始めた同年5月、坂口は自身のメインスポンサーである株式会社マイナビの冠大会「マイナビジャパンツアー東京大会」で初優勝を果たしている。

武蔵野大で学びクラブに打ち込む、スポンサーの存在が覚悟になった 坂口佳穗1

バレー部経験者の同級生を飛び越え

大学時代はバレーキャリアのある同級生たちが先に国内ツアーで結果を残し、その背中ばかり見ていた。その活躍を横目に「自分は高校3年間、本格的にバレーをやっていない(中学のみバレー部所属)。だからその倍は練習しないといけない」と悔しさばかりにじませていた。それでもなかなか結果は出ない。ペアも固定できない。踏んだり蹴ったりの大学時代だったが、そんな坂口を支えていたのは「日本一練習すれば、日本一になれるよ」という言葉だった。

「その言葉があったから、4年間頑張れました。今の事務所の社長、瀬戸山(正二・元アトランタ五輪ビーチバレー日本代表)の言葉です。下手くそな私にビーチバレーを教えてくれた。苦しい時もあったけど、やっぱり強くなりたい、うまくなりたいという気持ちが勝っていました。だから私はやるしかなかった」

瀬戸山さん(左)からはビーチバレーだけでなく、様々なことを学んだ(撮影・ビーチバレースタイル)

坂口は19年のマイナビジャパンツアーでも5戦中2勝を収め、ツアーファイナルでも優勝。いつの間にか同級生たちを飛び越え、着実に階段を上ってきたことを証明した。

選手たちが水着を選ぶわけ

今年3月には25歳を迎えた。ビーチバレーを始めた大学時代から数えると今年で8年目となるが、その当時から坂口を悩ませていたものがある。それは、アスリートに対する性的画像を狙った盗撮や、画像の悪用行為だ。

昨年、ひとりの現役アスリートが被害に対して声を上げた。これをきっかけに同年11月、日本オリンピック委員会などは「アスリートの盗撮、写真・動画の悪用、悪質なSNS投稿は卑劣な行為」という声明文を発表した。盗撮防止策、SNS上で身を守る方法を呼びかけていくという。水着を“戦闘服”としている坂口も、メディアの取材を通じて被害に対し手を挙げたひとりだ。

女子ビーチバレー選手のユニホームは、2人が同じものを着用すれば、水着や長袖、タンクトップ、ショートパンツから選手は好きなものを選択できるという規定がある。しかし、多数の選手たちは水着を選択している。

「天候にもよりますが、湿度が高かったり雨が降ったりする時は、水着が一番動きやすいですね。タンクトップは汗をかくと水分を含んで砂ももつくし、重くなります。競技中に気になることもあるのでそこがストレスになります」

競技に適したユニホームを着てプレーに集中している選手たち。そこに魔の手が襲いかかる。ビーチバレーの大会会場では、スチールカメラやビデオカメラなどの撮影は一切禁止。携帯電話によるカメラのみ許諾されているが、競技中に胸や下半身などを狙った撮影をする観戦者がいるという通報はいまだに絶えない。

犯罪に近い行為にひとりで悩まないで

この問題がネットなどで取り上げられるたびに決まって議論になるのが、「水着だから撮られても仕方ないだろう」「撮られて嫌なら、ユニホームを変えるべきだ」という点だ。本人が望んでいない撮影行為や写真・動画の流出は、肖像権及び人権侵害に当たる。盗撮目的でカメラを向ける、服の上からでも執拗(しつよう)に撮影する行為は、迷惑防止条例違反として処罰の対象になるという

「犯罪に近い行為はやめてほしいと言っているのに、どうしたら伝わるんだろうって思います。悪質かそうじゃないかの線引きを分かってもらいたいのですが……。競技に集中できないような撮影の仕方だったり、悪質な画像をネットに無断でアップしたりするのは断じて許せません。一方、会場でファンの方と一緒に撮影した写真や応援が伝わってくるような投稿はうれしいので、その線引きをより明確にした方がいいですね。会場では全て撮影禁止、ファンサービスの時間を設けて写真撮影するというのも、ひとつの方法かもしれません」

水泳、陸上、体操など多岐にわたる競技、大学スポーツ界でも長らくの間、盗撮、透視撮影の被害は問題視されてきた。学生アスリートという立場上、この問題とどう向き合ったらいいか分からない選手たちもいるはずだ。そんな選手たちに坂口は親身になってこう言う。

「悩んでいる学生さんがいても、好きで頑張っている競技だけは本当にやめないでほしいですね。今これだけ報道でも話題になっている問題ですから、必ず周囲に助けてくれる人がいると思います。解決に向けて動いてくれる人がいると思います。ひとりで考えず勇気を出して周囲の人に話してみることからまずは始めてほしいです」

ビーチバレーの発展のためにも、声を上げ続ける

東京オリンピックの開催を目前に控え、人気と実力を兼ね備えた坂口は、ビーチバレー界のアイコン的存在になりつつある。それゆえに取材も多い。自分という被写体を通じて、ビーチバレーという競技の存在や魅力を伝えられるなら、「それがビーチバレーの発展のため」と練習や試合の合間を縫ってリクエストに応じる。だからこそ、余計に自分の意図しない画像や競技のイメージを損ねるような悪質な行為に、決して目をつぶらない。「競技のイメージダウンにもつながりかねない」と語気を強める。

ビーチバレーの未来のためにも、自分が発信することに意味があると坂口(右)も感じている(撮影・松永和章)

「私がビーチバレーを始めた時はトップ選手たちの水着姿はカッコよく見えましたし、早く水着をカッコよく着こなせる強い選手になりたいと思っていました。自分がメディアに出ると『その撮影はOKなのか』という意見も飛び交うことがあっても、お受けしている取材は全て競技視点のものです。人によって受け取り方が違うのでその辺りはすごく難しい問題かもしれませんが、悪質な撮影行為と画像の悪用はやめてほしい、とずっと言い続けるしかありません」

自分の信念を伝え続けることで、世の中の捉え方が変わってアスリートが競技に集中できる環境が整っていけばいいと強く願っている。「だから学生アスリートの方には、自分の好きな競技に夢を抱き続けてほしいと思います。続けていけば、いつかきっとそれは自分の力になるので」

そう学生へメッセージを送った坂口自身も、ずっと目指し続けてきた夢の舞台がすぐそこまで迫ってきている。

「5月22、23日には東京オリンピックの出場チームを決める東京2020ビーチバレーボール日本代表決定戦に出ます。そこに向けては、やり続けてきたことを信じてやるしかないと思っています。今の目標は『このチーム強いだろうな』って思ってもらえるようなプレーやオーラを自分たちでつくり出し、世界で勝てるチームになること。アグレッシブに攻めていきたいと思います」

継続は力なり。自らの道のりで証明してきた坂口は、迷うことなく突き進む。

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