立教大・ミラー千本真章が関東インカレ1500m2部優勝 「超前向き」な未来へ
雨が降りしきる相模原ギオンスタジアム。2年連続で無観客となった関東インカレで、ミラー千本真章(みらーちもとまっくす、3年、立教新座)はゴールラインの上で両手を空に、大きく広げた。舞台は男子2部1500m決勝。接戦が続いたこのレース、最後は脅威的なラストスパートで、2位に2秒以上の差をつけて圧倒した。
念願の「1番」へ
創立100周年の節目に箱根駅伝出場を目指す「立教箱根2024」プロジェクトが始動して3年目。年始の箱根駅伝では中山凛斗(当時1年、九州学院)が関東学生連合の一員として4区に出場し、区間18位相当。まずは目標の舞台に爪痕を残した。今年の春も上野裕一郎監督のスカウトが実り、都大路を駆け抜けた実力者たちがRのユニホームに袖を通した。
強い後輩が続々と入ってくることに、「最初は戦えないのかな、と思っていた」とミラーも不安を感じていた。お世辞にも強豪とは言えない立教大を「箱根路へ導く」という信念を持った後輩たちに気圧され、練習についていけないのではないかと考えていた。しかし、その心配は杞憂だった。
「勝負で勝っている部分もあるって分かったし、いま一度自分の強さも分かった。後輩は強いので、負けたりすると自分はまだまだだなって思ったり、本当に刺激し合える存在」
練習では先頭でペースを作り、寮生活では多くの後輩に慕われる。先述の中山も仲のいい先輩にミラーの名を上げ、彼の取材中にミラーが「乱入」する場面も。だが練習では「練習やレースでは目の色が変わる」(中山)という声の通り、本気で鍛錬に打ち込んでいる。
「1年目と比べると走行距離は増えていますし、目に見えないところで対応、距離を詰められるようになってきたんだなって思います」
その努力は、今年の春ついに花開いた。まずは3月28日の東海大記録会で3000mを8分3秒57。自己ベストを大きく更新し、立教大記録を塗り替えた。「自分はいつも2番手以降だったので、1番になれて嬉しい」と素直な感想を口にした。
4月10日の金栗記念は1500mに出場。スタートから先行し、ラスト200mで一気に差し切って1着。タイムは3分44秒30で、1学年上の斎藤俊輔(4年、秦野)の持つ立教大記録を更新。目標とする日本選手権にも大きく近づいた。
続く4月18日の東京六大学対校戦では、オープン参加ながら1500mで1着(対校選手の1着は同じ立教大の加藤駆)。ここまで好タイムを連発し、大きな注目を集めた。ネットニュースやTwitterでも、この頃から彼の名前をよく見るようになった。春のレースで部内最高の記録を残したミラー。数字の伸びは明らかだが、彼の成長はそれだけではない。
そして5月20日の関東インカレ男子2部1500m決勝。スタートから先頭に立ったミラーは、190cmの長身を生かしたダイナミックなフォームで周回を重ねていく。800mを過ぎてチームメートの加藤駆(2年、学法石川)がミラーの前へ。残り1周となり青山学院大の山内健登(2年、樟南)が飛び出すが、ミラーはバックストレートでぐんぐん加速すると山内を抜き去り、2位以下に大差をつけて初の大舞台での優勝をつかんだ。
実のところ、レース前に上野裕一郎監督からは「追い風を使ってラスト切り替えろ」と言われていたこともあり、後半で仕掛けようと思っていた。しかし想定よりも早く先頭に出され、自分が引っ張ることになってしまった。「そしたら後輩(加藤)も反応してくれたので、あのままひとりで引っ張っていたらあやしかったんですけど、うまく乗り越えられました」と仲間への感謝の気持ちを込めた。
高い目標も、口に出して超えていく
昨年の箱根駅伝予選会前、ミラーに自分の性格について尋ねると「すっごいネガティブ」という答えが返ってきた。その言葉通り、他のインタビューでもミラーは「不安」や「苦手」といった言葉を口にすることが多い。しかし、金栗記念後のインタビューではかなりポジティブな言葉が増えていた。
「まずは、3分50秒を切ればいいなって思う所を、47秒は切れると思うって同期に言ってみたりしました。そしたら同期が『こいつ、本当は45秒切るから』って言ってくれた」
目標を高く持ち、それを実際に口に出す。たとえそれがウソみたいな目標でも、高らかに超えると宣言する。それが、彼なりの強い気持ちの持ち方だ。同期の言葉も、そんな彼をより奮い立たせるための言葉だろう。さらに、その高いはずの目標を軽々と超えていってしまうことは、彼がまだまだポテンシャルを秘めていることの表れとも言える。
「日本選手権では表彰台を狙います。決勝に行って、収穫があるように」
さえぎる物は何もない。日本最高峰の舞台へ、その先にある箱根路へ。彼の誰よりも高い視界はどこまでも遠く、そして広く開かれている。