ラクロス

立教大・佐藤壮HC、「主体性」から始まったチームが持つ無限の可能性

立教大学女子ラクロス部は2019年に初めて日本一になった(撮影・全て松永早弥香)

佐藤壮(たけし)さん(44)は2000年より母校である立教大学で女子ラクロス部のヘッドコーチ(HC)を務め、女子日本代表HCを経験した後、11年より再び立教大女子ラクロス部のHCとして学生たちと向き合っている。「学生たちは僕の言うことなんて聞きませんからね。良くも悪くもじゃなくて、良くも良くもです」と佐藤HCは笑う。自主性ではなく主体性を育ててきた組織だからこそ、学生たちは皆、“自分のゴール”を目指して考え、行動している。

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主体性があるからいいとは限らない

主体性について話すにあたり、佐藤HCは「主体性があるチームが必ずしも競技性が高いわけではない。目標に向けて最短のことをするのも悪くはないかもしれない。だからどっちがいい、どっちが悪いという議論ではない」と強調する。

例えば甲子園を目指すのであれば、そのために何に取り組み、日々何をしていけばいいのか、正解を示された方が皆迷うことなく突き進むことができるだろう。「“自主練”という言葉は聞くけど、“主体練”という言葉は聞かないですよね。自主練は組織としてやることが決まっていることに対して積極的に取り組む練習であって、日本のスポーツ界がそういう文化だったということだと思うんですよね」。特に高校の部活動は体育としての教育的側面がまだ強く、指導者は大なり小なり管理意識を持って学生たちに接する傾向があると考えている。

正解が分からない中で、一人ひとりが考えて行動するのが主体性であり、主体性で突き進んだからといって、必ずしも正解にたどり着けるわけではない。「主体性って管理されていないところで、何が正解か分かっていないことを、自分で仮説を立ててやっていくことで、うまくいかなかった結果も受け入れて次に生かす能力だと思っています」。特定の誰かが正しい答えをもっているわけではない。自分も分からないからこそ、人を巻き込みながら正解を求めようとする。自然と互いに互いを必要とする雰囲気になっていき、より主体性が生まれやすくなる。逆に言えば、絶対的な力を持つ人がいると、主体性を育むことは難しい。

正解が分からないからこそ、チームメートの存在が必要になる

日々の練習も学生自身が目標を立て、振り返りをする

佐藤HCは新入生に対してまず、自分で自分のゴールを決めさせている。「うちの部活動は優勝して終わりではなくて、『社会で活躍する女性を輩出する』という目標を掲げています。むしろ後者の方がサステナブルで、今後に生きてくると思うんですよね」

その取り組みのひとつとして、学生自身に日々の練習の目標を立てさせ、実践した後に振り返りをするという癖(くせ)をつけさせている。今日の練習はなんのためにするのかを理解した上で練習に臨む。その結果、今日一日で何が達成できて何が達成できなかったのか、やったことが自分の目指すことにうまくアプローチできているのか、何を改善したらいいのか。自分の現在地と目指すところを明確にさせることで、自分で考え、行動することを促していく。

佐藤HCは指導者として、そのサイクルをうまく回せているかを常に確認している。「学生たちが意見を欲しそうにしている瞬間を見逃さないようにしています。でも学生たちは『私はこう思うんですがどうでしょうか?』という聞き方をしてきますし、僕も『こうしなさい』とは言いません。僕の意見だって正解とは限らないですから。だからこんな考え方もあるんだなって、僕も学生たちから勉強させてもらっていますよ」

主体性が育つほど、指導者の言うことを聞かなくなる

立教大女子ラクロス部では例年、新入生を迎えるにあたり、上級生たちは自分たちがどんなチームなのかを改めて考えている。代が変わろうとも、その話し合いの中では必ず主体性という言葉が出てくる。そんなチームで4年間を過ごすと、学生たちがどのように変化していくのか。

「変化はいっぱいあるんですけど、まずもって僕の言うことを聞かなくなります。上級生になればなるほど。僕に聞く必要はないですよね。自分で考えてやっているわけなので。もちろんアドバイスを求められることはありますけど。指導者として主体性のある組織を作ろうと思っている人は、寂しさに打ち勝てないといけない。選手に影響力を与えたいというのが人の常なので、『もっと言うこと聞け!』となりがちですよね。幸い、そのステージは抜けました」

佐藤HCも学生から学ぶことが多いという

佐藤HC自身、選手だった時は監督に対して「こうした方がいいんじゃないの?」と、あまのじゃくな考え方をすることもあった。しかし指導者になった当初は、「指導者たるもの、カリスマ性を発揮して思いっきり引っ張っていかないといけない」という“妄想”にとらわれてしまったという。指導者として年数を重ね、学生と年が離れていくうちに、「そんなかっこつけなくていいし、分からないことは分からないでもいいんだ」と気づけるようになった。今は学生から学ぶことも多く、自分の言うことを聞かない学生を「面白い」と素直に思えるようになったという。

分かりやすい正解はない。この道が必ずしも正しいとは限らない。だからこそ、思いもしない道につながる。時には失敗もしながら、一人ひとりが唯一無二の成長を遂げていく。

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