野球

慶應大・渡部遼人 「走守」だけじゃない、磨いた「攻」を全国の舞台で発揮

外野陣を迎え入れる歓喜の輪

全日本大学野球選手権決勝、福井工業大戦。最後の打者から三振を奪うと、守護神・橋本達弥(3年、長田)は拳を突き上げ、ナインが笑顔でマウンドへ。中堅手・渡部遼人(はると、4年、桐光学園)は自慢の快足を飛ばすことなく、両翼を守った橋本典之(4年、出雲)、新美貫太(4年、慶應)とともにゆっくりと歓喜の輪へ加わった。

全日本大学野球選手権ギャラリー 初代王者の慶應が復活

チームを救う守備職人

リーグ戦では安打性の打球を幾度となく好捕し、チームのピンチを救ってきた渡部遼。一歩目の速さ、打球へのアプローチ、球際の強さ。時に両翼までカバーしてしまうアマチュア球界トップクラスの守備には目を見張るものがある。最高の守備を生む要因は徹底した準備。「打者のデータと投手の球質を考えてポジショニング」することを心がけ、打球を予測しているという。

淡々と打球を処理し、ベンチへ戻る

全国の舞台でも渡部遼の美技が神宮を沸かせるかと思われたが、初戦から決勝まで打球を難なく処理。多少難しい打球でも簡単そうに見せてしまうところに、渡部遼の凄(すご)みを感じる。

悔しさを糧に磨いた打撃

渡部遼が全国の舞台で見せた凄みは、守備ではなく打撃だった。3年秋のリーグ戦で打率1割9分4厘と苦しんだことを受けて、オフシーズンは打撃改造に着手。「冬はほぼ打撃に関してだけ取り組んだ」と、リーグ戦の悔しさを糧に黙々とバットを振った。春季リーグ戦では自身初となる本塁打を放つなど、長打力がアップ。リーグ戦で放った9本の安打のうち、2本塁打、2二塁打と力強さを増した打撃に確かな手応えを掴んだ。一方で、打率は2割6分5厘。「率にもこだわりたい」と、全てが満足できる成績とは言えなかった。

リーグ戦優勝を果たして迎えた全国の舞台で、渡部遼は躍動した。初戦の和歌山大学戦こそ1安打だったものの、続く関西学院大学戦では猛打賞(3安打)を記録。準決勝・上武大戦では3打数3安打2四死球と、全ての打席で出塁した。3戦で驚異の打率7割を記録した渡部遼。俊足を生かした内野安打だけでなく、芯で捉えた鋭いライナーや球足の速いゴロで内野の間を破れるようになったことが打率向上に繋(つな)がったのだろう。

バント技術にも定評がある

先頭打者が出塁した時にはきっちりとバントを決め、走者がいなければ出塁を狙う。全国の舞台でも、理想とする「欲しいときに欲しいプレーができる選手」を体現し、チャンスを演出し続けた。決勝・福井工業大学戦では5打数1安打と苦しむも、9回表に打線がつながり2死満塁で最後の打席が回ってきた。打てば単独首位打者、打たねば福井工大・木村哲汰(4年、沖縄商学)との同時首位打者。プレッシャーのかかる場面で鋭く振り抜いた打球は右翼手の前に弾み、二者が生還。16打数9安打、打率5割6分3厘。目覚ましい活躍で見事首位打者に輝いた。

三拍子揃った外野手へ

大会には多くのスカウトが詰めかけていた。慶大では正木智也(4年、慶應)が注目を集め、最高殊勲選手賞に選出されるなど評価を高めた。正木ほどではないにしろ、渡部遼もインパクトを与えたことだろう。社会人野球が既定路線だと考えられていた進路だが、もしかしたらと思わずにはいられない。福岡ソフトバンクホークスの周東佑京を始め、足のスペシャリストに注目が集まる昨今のプロ野球界。昨年のドラフト会議では足が武器の並木秀尊(獨協大卒)が東京ヤクルトスワローズから5巡目指名を受けるなど、俊足選手の需要は高まっている。

鋭いスイングで安打を量産した

「走守」に加えて「攻」が急成長を遂げ、三拍子揃った選手になりつつある渡部遼。秋季リーグ戦の結果次第では、とっておきのサプライズがあるかもしれない。

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