野球

慶應義塾大学が34年ぶりの日本一、初代王者が70回の節目に4度目の頂点

34年ぶりに優勝した慶應義塾大学。笑顔でマウンドに駆け寄る正木智也(撮影・全て朝日新聞社)

第70回全日本大学野球選手権記念大会最終日

▽決勝
慶應義塾大 200 312 005|13
福井工業大 000 020 000|2
【慶】増居、生井、橋本達―福井【東】南大、祝原、立石、谷―御簗、安田 【本塁打】正木(南大)、下山(谷)
【二塁打】北村、朝日、新美(慶)佐藤(福)
▽慶大の今大会 ▼2回戦 4-2和歌山大▼準々決勝 5-3関西学院大▼準決勝 10-6上武大
▽最高殊勲選手賞 正木智也(慶大)
▽最優秀投手賞 増居翔太(慶大)
▽首位打者 渡部遼人(慶大)16打数9安打、打率.563
▽敢闘賞 木村哲汰(福井工大)
▽連盟別優勝回数 1位 東京六 27度▼2位 東都 24▼3位 関西学生 6▼4位 首都 4度▼5位 仙台六 3▼6位 愛知、九州地区、阪神、関甲新学生、東海地区 1(第69回=2020年は中止)

福井工大、北陸初制覇ならず

第70回全日本大学野球選手権記念大会の決勝は6月13日、神宮球場であり、慶應義塾大学(東京六大学)が福井工業大学(北陸大学)を下し、34年ぶり4度目の優勝を飾った。慶大は第1回(1952年)、12回(63年)、36回(87年)大会に続く大学日本一。初の決勝に挑んだ福井工大は北陸勢初の頂点には届かなかった。

MVPは正木智也

試合中、笑顔をみせなかった慶大一塁手の正木智也(4年、慶應義塾)が破顔でマウンドへ駆けてくる。九回に登板した抑えの橋本達弥(3年、長田)が福井工大の代打攻勢を三者連続三振で抑えると歓喜の輪が広がった。

34年ぶりに優勝した慶應義塾大学

準決勝、決勝で先制本塁打を放つなど文句なしの最高殊勲選手賞に選ばれた正木は振り返った。「勝ち切るまでは本塁打を打っても大げさには喜ばないと自分の中で決めていた。最後、優勝した時には喜びがこみあげてきた。九回のスリーアウト目を取るまでは、勝っていないので、気を抜かないという意味もある。ホームランを打った後も次の1点、次の1点とやっていこうと、チームの中でも話している」

一回2死一塁、正木は1ボールからの外角直球を中堅右へはじき返した。読み勝ちの一発だった。「昨日(準決勝)、インコースをホームラン打っていたので、今日はアウトコース攻めかなと思っていた。アウトコースに目付けをして、うまく打てた」。一塁を周り小さくガッツポーズをしたが、淡々とベースを回った。

一回2死一塁、慶大の正木は中越え本塁打を放ち三塁を淡々と回る

初めて決勝の舞台を戦う福井工大にはこれが、強烈な先制パンチになった。福井章吾主将(4年、大阪桐蔭)は「キャッチャーとして振り返ると、初回の攻防ですね。こっちは2アウトからしっかり点を取ることができた。相手の打線がいいのはわかっていた。初回、ピンチを招きましたけど、増居がよく投げきった」。先発の増居翔太(3年、彦根東)は一回2死一、三塁と攻められたが、5番の田中翔馬(3年、鳥取商)を右飛に打ち取った。

最優秀投手賞の慶大・増居翔太

慶大の堀井哲也監督は「福井工大さんはバッティングがつながるので、3~5点の勝負になればいいと思っていた。シンプルに好球必打と追い込まれてからどれだけ粘れるか。二つのことを目指してきた」と言う。九回には下山悠介(3年、慶應義塾)の3点本塁打などで5点を奪い最後まで攻撃の手を緩めなかった。2011年にJR東日本で都市対抗野球を制した経験がある堀井監督は就任2年目で母校を日本一へ導いた。「学生の若さゆえの情熱、成長に驚き、勉強の連続。社会人(野球)は会社のいろんなバックアップがあり、スタッフもたくさんいるが、手作りで選手と一緒になってチームを作ってきたので感慨深い」とひと味違う喜びに浸った。

日本一は「通過点」

34年ぶりの歓喜だったが、堀井監督はミーティングで選手たちに「通過点」と伝えたと言う。「目標はリーグ優勝、日本一というのはあるが、学生です。4年間で自分を表現する場面を野球で作っていく。1年、1年、チーム作りであったり、個人を表現していったり、その目的という意味では日本一というのはまだ通過点、夏の練習もあるし、秋もある。そういう風に考えようと伝えました」

決勝で2安打、投手も好リードした福井章吾主将

攻守でチームを引っ張った福井主将は「新型コロナウイルスの影響もある。野球をさせてもらっていることが当たり前ではない、という現状でしっかり戦おうという話をチーム全体でしている。今年のチームスローガン(繫勝~Giving Back~)にギビング・バックを入れている。多くの人に還元するということを心に留め、そういった思いが結果につながった」と言った。プロ野球ドラフト候補に挙がる正木も「ドラフトもあるんですけど、大学野球をしっかり全うした上でのドラフトだと思う。ここは通過点だと思い、秋に向けてもっとチームとして強くなれるようにやっていきたい」とさらに先を見据えた。

意義ある復活優勝

34年前の日本一はチーム内に風疹がはやったという。エースの鈴木哲もかかり、春のリーグ戦では3年生の志村亮が大活躍。全日本大学選手権はこの2枚看板を中心に制した。3-2で逆転勝ちした決勝の相手は東北福祉大学だった。今や毎年、優勝候補に挙がる強豪は、この時、東北勢として初の決勝進出だった。

もう、クールダウンも必要ない 志村亮・1

今回の福井工業大も北陸勢として初めて決勝に進んできた。慶大より1試合多く戦ったこともあり最後は力尽きた。下野博樹監督は選手たちをねぎらいながら、「出直したい。道は厳しい」と巻き返しを誓った。70年の歴史となった選手権で、地方勢の活躍は珍しくなくなった。北陸からの日本一もそう遠くないはずだ。

コロナ禍、初代王者が伝統校の底力をみせ、大学野球の未来も照らす復活優勝だった。

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