陸上・駅伝

東洋大・渡辺早紀 富士山へチームを導き、鉄紺女子を笑顔でまとめた主将

下級生の頃からメンバー入りし、チームを支えた渡辺(左)

かなわなかった9年連続、全日本大学女子駅伝の本戦出場。再起に燃える東洋大学を率いたのは主将の渡辺早紀(4年、新潟中央)だった。インタビューでは必ず部員の名前をあげるなど、常に全体を見守った渡辺。持ち前の温かさでチームの足並みを揃え、富士山女子駅伝で見事全国の舞台へ復活させた。

高みを目指し、ハードルから長距離へ異例の転向

陸上競技の入り口は小学生の市内の陸上大会だった。しかし出場したのは長距離ではなく、なんとハードル。中学生から本格的に全中を目指し、競技にのめり込んだ。県大会で入賞を果たすなどハードラーとしての人生を送っていたが、全国の舞台への憧れは強まるばかり。そこで高校進学の際に、種目の転向を決意。もともとマラソン大会やシャトルランを通して興味を持っていた長距離で上を目指すため新潟中央高校の門を叩いた。そこからは長距離ランナーとして活躍。東洋大学で念願の舞台へ羽ばたいた。

3秒39差で途絶えてしまった連続出場記録

5000m3組のタイムレースが行われ、各チーム6人の合計タイムが4位以内で本戦出場が決まる方式で開催された、全日本大学女子駅伝の関東地区選考会。東洋大学は4位の中央大学にわずか3秒39届かず出場を逃した。常連校であった東洋大学が出場を逃したのは実に9年ぶり。「1人1秒縮められていたら」と部員の誰もが肩を落とし、悔しさをにじませた。

例年とは異なるこの結果を受け、渡辺を中心にミーティングを行った。共通させた認識は「練習のうちから1秒を意識して」。3カ月後の富士山女子駅伝に焦点を合わせ、選考枠通過に対して余裕を持ったタイムを目標に課した。またコロナ禍により部員同士の接触も予断を許さない状況下、わずかなチャンスで後輩とコミュニケーションを心がけ、仲間意識をより強固なものにした。

そして迎えた出場校の発表日。5000mのタイム7名の合計により10チームが出場できる中、最後まで全選手が健闘し、東洋大は6番目で通過。8年連続富士山女子駅伝の本戦出場を自分たちの手でたぐり寄せた。

富士山で見えたチームの成長「着実に力がついている」

迎えた当日、晴天のもとに富士山と鉄紺の襷(たすき)が輝いた。1区の下里芽依(2年、白鵬女子)が区間4位の好走で流れを作ると、その後の走者も区間順位1桁を連発。当日、4年生で唯一の出走となった渡辺は、後輩の走りに奮起させられながらも「成長したな」と思いをめぐらせスタートをきった。

東洋大は今回大会は13位。渡辺はチームを鼓舞し続けた。写真はアンカーの江口(撮影・M高史)

強風の影響が大きくペースを掴むことに苦労するも、群馬の強風に吹かれる板倉キャンパスでの練習が力となる。「みんなは着実に力がついている」と後輩の実力に安心感を覚え、6区区間16位、完全燃焼で鉄紺ユニフォームでのラストランを終えた。

東洋大学女子長距離部門は、雰囲気は柔らかく意志は強い。その伝統は全日本女子駅伝の予選敗退を経てさらに明瞭になった。「渡辺さんがいてくださったからこそ、富士山に向けてもう一度チームの士気があがった」と後藤藍子(3年、須磨学園)は語る。一度沈みかけた空気を回復させることは、記録を伸ばすことよりも難しい。渡辺主将の温かくも力強いけん引により、鉄紺の襷は順風に次世代へとつながれた。

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