ラグビー

みんなの力でがんを治せる病気へ フィールドを超えてめざすゴール

秩父宮ラグビー場のスタジアムビジョンに映し出された「丸の内 15 丁目+deleteCマッチ」のロゴ

今季から始まったラグビーの新リーグ「NTTジャパンラグビーリーグワン2022」ディビジョン1。2月5日に行われた第5節、NTTコミュニケーションズシャイニングアークス東京ベイ浦安(シャイニングアークス)対埼玉パナソニックワイルドナイツ(埼玉ワイルドナイツ)の一戦は、「ラグビーの力を、社会の力に。~この試合を通じて、みんなの力で、がん治療研究を応援しよう!」をテーマに掲げたチャリティーマッチ「丸の内15丁目+deleteCマッチ」としても開催された。このチャリティーマッチは、新たなラグビーの魅力を発信するプロジェクトとして三菱地所株式会社が運営する、「丸の内15丁目PROJECT」と、“みんなの力で、がんを治せる病気にする"プロジェクト「deleteC(がん治療研究支援の取り組み)」、「deleteC」に積極的に参画しているシャイニングアークスの3者が協力し実現したものだ。このマッチを開催した「丸の内 15丁目PROJECT」とシャイニングアークスに思いを聞いた。

ファンのため、がん治療研究のために1点でも多く

シャイニングアークスは2019年から「deleteC」プロジェクトに積極的に参画している。ピンク色の練習ジャージーを作成したり、試合会場に募金箱を設置したり、練習場にピンクの自動販売機を置いたりと活動しており、トップリーグ時代から数えて「deleteCマッチ」自体も3試合目となった。今回の対戦相手だった埼玉ワイルドナイツの協力も仰ぎつつ、1つ目のチャリティーとしてトライやキックで挙げた両チームの合計点数×1万円ががん治療研究へ寄付されることになっていた。試合は5-48という結果だったため53万円が寄付されるという。

試合は5-48で埼玉ワイルドナイツが勝利、両チーム得点の合計53万円が寄付される

昨年、日本代表でデビューを飾ったシャイニングアークスのCTB(センター)シェーン・ゲイツ主将は「チームの活動として地域や社会の人々を助けるということはチームとして重きを置いています。今回の試合を通じて53万円という大きな金額をがん治療研究に寄付ができ、そこに関わることができてうれしい」と話した。
また期待の若手である2年目のCTB本郷泰司は「『deleteCマッチ』ということは選手たちもわかっていて、1点でも多く取ろうと試合に臨んでいました。リーグワンになってより注目度も増しているので、今回も私たちがラグビーをすることで、『deleteC』の活動をファンに知ってもらえるきっかけになったのではないでしょうか」と振り返った。

「DAEN UNIV.(楕縁(だえん)大学)」で生まれたアイデア

2018年、「ラグビーの新しい魅力に出会える街」をコンセプトに生まれた架空の街「丸の内15丁目 PROJECT」。試合会場でも「丸の内15丁目」の“住民"となるための会員登録が行われていたが、ラグビーファンの中には、すでに、その“住民"となっている方も多いはずだ。

「丸の内 15丁目PROJECT.」のブースでは、がん治療研究の啓発や住民募集を呼び掛けた(提供・三菱地所)

「丸の内15丁目」では昨年9月、15人制ラグビー日本代表元主将廣瀬俊朗さんが学長となりラグビー選手が起点となり社会課題について学ぶバーチャル大学「DAEN UNIV.(楕縁大学)」を開講。その第1回目のテーマが「deleteC」だった。すでに「deleteCマッチ」を行っていたシャイニングアークスの内山浩文GM(ゼネラルマネージャー)をゲストに迎えて、「カジュアルに参加するソーシャルアクションについて考えよう」と議論したときに受講者から出たアイデアをなんとか形にしょうと今回の試合が実現した。

三菱地所の担当者の一人である広報部ラグビーマーケティング室の出雲隆佑さんは「『楕縁大学』を受講されたファンから出たアイデアや意見に、廣瀬学長も感動し心を動かされて、是非、実現しようと企画が動き出しました。『deleteC』さんも、シャイニングアークスさんも是非、やりましょうと快諾していただき、2月4日が、世界的にもがんについて考える『ワールドキャンサーデー』で、その翌日にシャイニングアークスさんのホストゲームがあるということで、5日にチャリティーマッチを開催することができました。『deleteC』がきっかけで今回、ラグビーを観戦されている方も多いと思います。そういった方々にラグビーを好きになってもらうことも大事なことです」と話した。

今回のチャリティーマッチ実現を推進してきた、三菱地所広報部ラグビーマーケティング室の出雲さん

出雲さんは、かつて慶応義塾大学でプレーしていた。ラグビーが持つ多様な魅力を信じているからこそ、今回の企画の実現を推進してきた。

シャイニングアークスの内山GMは「2年前、ラグビー部として、企業スポーツをアップデートしよう、チームとして勝つこと以外の多面的な価値をどう世の中に発信していくかということがスタートでした。ホストタウンである千葉県浦安市もがん対策に積極的でしたし、NTTグループとしてもがんを患っていた従業員や、がん患者を持つご家族に対してサポートしようと『deleteC』に参画しています。今回は三菱地所さんとコラボレーションすることができましたし、『楕縁大学』から発信したことが実現できたのも良かった」と笑顔で話した。

選手だけでなく、ファンも参加できる社会貢献活動

シャイニングアークスの選手たちは試合をプレーするだけでなく、SNSや場内のラジオで積極的情報を拡散して試合を盛り上げた。また試合の得点による寄付だけでなく、他のチャリティー活動もあった。会場で販売されていた、編まない・縫わないで作れるマフラー「モフリー®」の購入者の売り上げの一部もシャイニングアークスを通じて「deleteC」に寄付される。このマフラーはFL(フランカー)栗原大介のアイデアでシャイニングアークスカラーである青色、黄色をベースにされたオリジナル商品だ。

シャイニングアークスカラーで仕上げられたオリジナルモフリー

さらにスポーツ観戦アプリ「SpoLive」では、今回の試合のために「丸の内15丁目+deleteC マッチ」の“スーパー応援(=スタンプ)"が作成され、ファンがそのスタンプを購入した金額の一部もがんの治療研究に寄付される。コロナ禍ならではのアイデアだろう。

試合当日「SpoLive」で行われた“スーパー応援(=スタンプ)”購入金額の一部が寄付される

試合に出場した選手のサインが入ったボールや「丸の内15丁目」グッズが当たる抽選も行われたこともあり、スタンプ購入者は通常の試合よりも多かったという。

“スーパー応援”購入者の中から選手のサイン入り公式球やグッズが当たる抽選も行われた

ラグビーを通じた社会貢献活動の可能性

リーグワンという新リーグ自体、「ファン、チーム、企業、地域とひとつになり、社会に貢献し世界に羽ばたく人間を育てる」ことをミッションの一つにしている。今回のチャリティーマッチ自体、リーグワン、三菱地所、シャイニングアークス、「deleteC」が共創して行われたもので、新リーグの理念に沿ったものと言えよう。

「シャイニングアークスには選手たちから自主的に地域活動や社会貢献活動に取り組む文化がある」と感じている4年目のSO(スタンドオフ)喜連航平は「試合前は101-100で勝てばたくさん寄付されるからいいなと言っていましたね。ホストチームとしては望む結果ではなかったですが、リーグワンが社会性を求めている中で、会社とチームが一丸となって地域やファンを巻き込みながらチャリティーマッチを行うことができた。今後もラグビーでどんな社会課題を解決できるかをヒアリングしつつ、ファンに笑顔になってもらいつつ自分たちも成長できればいい」と目を細めた。

「1点でも多く」 後半トライを決めたイズラエル・フォラウ

三菱地所の出雲さんも「今回のチャリティーマッチは、ファン、チームと一緒に新しい価値を作っていく取り組みになった。今後も『丸の内15丁目』の”住民”のアイデアを実現するため、拠点である東京・丸の内にとどまらず、全国の試合会場なども活用しながら取り組みを継続していきたい。社会課題の解決までは難しいかもしれませんが、ラグビーを通じて、ファンの方々に社会課題を知ってもらうきっかけを作ることができればいい」と熱く語ってくれた。

チャリティーに賛同したファンからも多くの募金が集まった

シェイニングアークスでビジネスデザインを担当している磯田金吾さんも「今回は、三菱地所さんの協力で、ファンだけでなく、選手が実際にプレーすることが社会貢献につながったのはいい取り組みだったと思います。今後も、リーグワンがクラブに社会性、社会貢献を求める中で、シャイニングアークスがラグビー界のトップランナーとして、ラグビー以外の活動を推進し、他のクラブに良い影響を与えていくクラブになっていければいいですね」と先を見据えた。

三菱地所、シャイニングアークス、「deleteC」という違うフィールドの3者がラグビーという共通点で協力、共創してファンを巻き込みながら、今後もラグビーの力を、社会の力に変えていく。

in Additionあわせて読みたい