ラグビー

特集:ジャパンラグビートップリーグ

街と人と共に進む 環境が変わってもラグビーの魅力を日本中に伝えていきたい

「ラグビーの未来を見据えて活動したい」と高田晋作さん

2019年秋、アジアで初めて開催されたラグビーワールドカップ(W杯)に日本中が熱狂し、スタジアムのみならず、さまざまな場所がラグビー色に彩られた。東京駅前の丸ビルでのイベントを皮切りに「丸の内15丁目PROJECT」が始動した。ラグビーを通じた“街づくり”を仕掛けたのはラグビーワールドカップ2019のオフィシャルスポンサーの三菱地所。そのプロジェクトの中心にいたのが慶應義塾大学時代にキャプテンとしてチームを大学日本一に導いた、三菱地所ラグビーマーケティング室の高田晋作さんだ。高田さんに同社のラグビーにかける思いを聞いた。

高田晋作さんの大学時代から社会人までの軌跡はこちら

「街づくり」で2019年ラグビーW杯の盛り上がりを支えた

W杯開幕からさかのぼること1年前の2018年9月、三菱地所は、まずラグビー専門のバーチャルタウンを展開するウェブサイト「丸の内15丁目PROJECT」をオープン。その後はオンラインだけでなく、美術館、映画館、ビジネススクールなど街にある多様な施設とラグビーを掛け合わせた企画で、新たにラグビーの魅力を体感できるイベントを実施し、好評を博した。

2019年9月、W杯が始まると丸の内エリアに「MARUNOUCHI RUGBY PARK」を設け、パブリックビューイングを開催し、多いときには1500人ものファンが訪れた。さらに、京都市の世界遺産「下鴨神社」の境内にあり、ラグビーとゆかりの深い「雑太社(さわたしゃ)」の神様をお祀(まつ)りした「丸の内ラグビー神社」を建立。ファンだけではなく、ラグビー日本代表の選手たちも参拝に来たという。

「楕円(だえん)のご縁」丸の内ラグビー神社も設置された(現在は「釜石ラグビー神社」として、釜石鵜住居復興スタジアム隣接地に移設済み)

大会後の19年12月にはベスト8に入った日本代表選手たちのパレードが丸の内仲通りであり、5万人の観客で大いに盛り上がりを見せた。「ラグビーと街づくりを掛け合わせて丸の内に新しい風景を作れた」という高田さんは「選手たちの頑張りのおかげもあり、ファンの皆さんがうまく参加できる場をつくることができたと思っています。スポンサーとして微力ではありましたが、ラグビー人気を下支えすることができてよかったです」と満足そうに話した。

「GO WITH JAPAN」に込められた思い

2020年、三菱地所は男女15人制と男女7人制のラグビー日本代表のオフィシャルスポンサーについた。ちなみに、女子7人制ラグビー日本代表候補の鈴木彩夏選手は三菱地所のグループ会社である三菱地所プロパティマネジメントの社員でもある。そして「ラグビー日本代表と共に進み、社会を元気にしていく」という思いと、「日本中のみんなが、ラグビー日本代表と共に進もう」という思いを込めて、ラグビー協賛の新スローガン「GO WITH JAPAN」を掲げた。

三菱地所が日本代表全体をスポンサードした経緯について、高田さんは「2019年W杯で、ラグビーの価値や面白さを日本中が実感しました。その輪を絶やさず、広げていきたいと思いました。誰もが共感するのは、やはり日本代表の活躍にあります。私たちも日本代表と共に、より一層ラグビー人気を盛り上げていきたいと思っています」と説明した。

さらに「当社が開催したオンライン企画の中で、日本代表ナンバーエイトの姫野和樹選手(トヨタ自動車ヴェルブリッツ)が『ラグビーを国技にしたい』と話していて、とても共感し、素晴らしい視点だと思いました。当社も、街づくりを通して、多くのファンの皆さんが再び、心からラグビーの魅力を感じられる様々な『場づくり』を行うことによって、その実現をサポートしていくことができるのではないかと思ったのです」と続けた。

高田さんはもうひとつ、あるエピソードを教えてくれた。「ラグビー日本代表のスタッフにいた友人が、2019年のW杯期間中に『お互い、戦う土俵は違えども、ラグビーの魅力を日本中に伝えていく仕事に取り組んでいく気持ちは一緒ですね、頑張りましょう!』と言ってくれて、とても嬉(うれ)しく、日本代表と共に進みたいと思いました」

こういった「ONE TEAM」の精神は、ラグビー協賛のスローガンである「GO WITH JAPAN」にも通じている。

新聞やテレビCMで展開されたスローガン「GO WITH JAPAN」

2020年はオンラインでイベントにトライ

ラグビーW杯の盛り上がりを受けて、高田さんは「2019年は新しい“街の風景”を作ろうとやってきて、2020年はそれをさらに発展させていくためにラグビー日本代表とコラボレーションし、踏み出していこう」と意気込んでいた。しかし昨年は、コロナ禍の影響もあり、思うようにイベントが開催できるような状況ではなかった。それでも高田さんは「ラグビー人気のためにも、『丸の内15丁目PROJECT』のためにも、オンラインでもやれることをチャレンジしていこう」とさまざまな試みにトライした。

まず、W杯開幕からちょうど1年後の9月20日から「ONE TEAM FES @ONLINE0920」を開催し、日本代表選手や対戦相手の海外の代表選手を呼んでオンラインセッションを行った。また、かつて日本代表を率いたイングランド代表ヘッドコーチのエディー・ジョーンズ氏などが参加した「オンライントークラグビー世界大会 2020」など、オンラインでのイベントを精力的に行った。

高田さんは「当社はリアルでやることを強みとしている会社なので、オンラインで何かをやるという経験が少なく、試行錯誤でした」と吐露する。それでも「海外にいる代表選手や日本代表の選手、そしてファンの方々を繋(つな)ぐ場というのはオンラインでなければ成立しない部分もあった。我々は『楕円のご縁』と呼んでいますが、元日本代表の山田章仁選手(NTTコミュニケーションズシャイニングアークス)が動いてくれて、選手が一緒に思いを伝え語る場をつくることができました」と振り返る。

オンラインだけでなく、パレードが実施された丸の内仲通りを舞台に「ONE TEAM STREET」として、W杯を振り返る写真展やフォトスポットなどを設置する取り組みも行った。

ライトアップされた東京・丸の内の「ONE TEAM STREET」

高田さんは「『丸の内 15 丁目』はラグビーをテーマにしたひとつの街なので、その街に『ラグビー×ストリート』が出現したという位置づけの企画でした。これまでの振り返りを含めて、リアルとオンライン、両方やっていけたらいい。ラグビーW杯の感動など、過去を振り返る取り組みもそうですが、やはり未来を見据えてやっていきたい」と、今後はリアルとオンラインを融合させる企画を前向きに考えている。

街や空間を通してラグビーの魅力を伝えていく

2021年、三菱地所はラグビー日本代表に加えて、ラグビートップリーグもスポンサードしている。「ラグビー日本代表の試合がないときもトップリーグの試合の場で、ファンの人たちと接点を持てるようサポートしていきたい」という強い思いからだった。「ラグビー×街」のみならず、試合を楽しんでもらう場を作っていくことを目的としている。

さらに2月8日には「丸の内15丁目PROJECT」のウェブサイトがリニューアルオープンした。「リアルな場での臨場感と少し違うかもしれないですが、オンラインでもたくさんの人に届けられるし、時間や場所を超えていけるプラスの面もある。ラグビーを通してオンライン上での街づくりにも取り組み、家の中でも街にいるような体験ができる、ファンが集まれるような場になればいい。そして、実際にリアルな場所でのイベントも合わせて、日本全国、さらには世界中でラグビーを楽しむことができればと思っています」(高田さん)

ラグビー日本代表の試合が行われる際には、三菱地所としてファン参加型の企画を考えており、そのほかにも街づくりのプロフェッショナルとしていろいろなイベントを仕掛けていく予定である。

高田さんは「三菱地所は街づくりが本業で、そのプラットフォームを作っています。いろいろな人たちとコラボレーションすることによって街は盛り上がる。同じように、丸の内15丁目もいろんな人に関わってもらって街づくりをすることで、結果としてラグビー自体の盛り上がりにつながる。そういういい循環を作れたらいいですね」と先を見据えた。

大成功に終わった2019年ラグビーW杯後、高田さんは「W杯によってラグビーの良さを知ってもらって、取り巻く環境は大きく変わった」と感じている。「ラグビーと街づくりには親和性がある」という思いは実感に変わり、大きな手応えとなったという。

ラグビーに対する思いは現役時代も今も変わらない。高田さんは「ファンの皆さんの中に残っているラグビー熱を失わないような、思い出してもらえるようなこともやっていきたいし、さらに新たな熱を起こす取り組みをしていきたい。私たちは三菱地所として街や空間を通してラグビーの魅力を伝えて、ラグビーの裾野が広がっていけばいいですね」と今後の取り組みに自信をのぞかせている。

 

プロフィル
高田晋作(たかだ・しんさく)
1978年生まれ、東京都出身。慶應義塾大学時代は創部100周年に主将としてチームの大学選手権優勝に貢献。卒業後、NHKを経て2005年に三菱地所に。ラグビーの魅力を丸の内から発信する「丸の内15丁目PROJECT」などを通して、日本ラグビーのサポートを担っている。

 

丸の内15丁目PROJECT

“迫力だけではない“ラグビーの様々な魅力に着目し、丸の内を舞台に今までにない新たなラグビーの魅力を体験できるイベント等を展開するプロジェクト。2019年ラグビーW杯開幕1年前の2018年9月に始動。
https://marunouchi15.com/

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