陸上・駅伝

特集:第101回関東学生陸上競技対校選手権

長距離だけじゃない 関東インカレで野口航平ら4年生が示した新生・明治大学

男子1部400mで野口は6位入賞を果たした

第101回関東学生対校選手権大会

5月20、21日@国立競技場(東京)
野口航平(明治大4年)
男子1部400m決勝     6位 47秒08
男子1部4×400mリレー予選 7着 3分13秒26

関東インカレ男子1部400mで、明治大学の野口航平(4年、洛南)が6位入賞を果たした。野口以外の4年生2人も入賞し、例年の長距離、競歩頼りのチーム状況ではなく「短距離も戦える」ことを証明してみせた。今までとは別物の“新生明治”が今、新しい風を吹かせる。

「自分で強くならないと」 屈辱から変えた空気

3年前、古豪・明治大は屈辱の関東インカレ2部降格を味わった。当時短距離部門からの入賞者はゼロ。1年生だった野口も400m、4×400mリレーに出場したものの、どちらも予選落ちで終わっていた。

「もっと緊張感のあるチームづくりをしていかないとだめだ」。名門・洛南高校(京都)の主将を務めていた野口は1年生の時にこう話していた。「先輩が絶対」「やる人はやるけどやらない人はやらない」。そんな空気を変えたいと感じたが、下級生にはなかなか難しい。しかしただ失望するだけでは終わらせなかった。他部門の主力であった阿部弘輝(長距離・現住友電工)や古賀友太(競歩・現大塚製薬)から話を聞き、「強い選手は自分の考えをしっかり持っている」と1年生ながら吸収する姿勢をみせた。もともと明治大を選んだのも、強い先輩に頼っていた高校時代に対して大学では「自分で強くならないといけない」から。下級生の頃からの当事者意識の高さがその先へつながるきっかけとなった。

新体制になり最上級生としてチームを引っ張る立場になると、「絶対にいい循環を、成功体験を俺たちの代で積もう」と伝えた。今まで疑問に感じていた雰囲気に対して、小林枚也(八王子)、鈴木憲伸(明大中野八王子)、丹治友伽マネージャー(吉祥女子)の短距離部門4年生4人で変えることを決心した。「誰かに強要するんじゃなくて自分の背中で見せていくしかない」と自分たちの姿を後輩に見せることで“新生明治”をつくり出す。短距離部門の人数が少ないからこそ悪い方向へ引きずられないように、向上心を持って頑張る人が当たり前になるような環境を目指した。

「自分たちの背中みせる」 短距離で体現

野口は、昨年10月に右足のすべての指が疲労骨折に見舞われた。ラストイヤーは競技を諦めることがよぎるほど、自分に失望する時期が続いた。しかし大学内外問わず多くの人に背中を押され、再び心を奮い立たせた。「大学3年間は自分だけの戦いだと思っていたが、いろいろな人にお世話になって自分だけの負けじゃないし、自分だけの勝ちじゃない」との思いを強くした。

今年の関東インカレでは、価値観の変化と周囲への感謝の気持ちが思い切ったレースに結びつき、400mで予選、準決勝をともに突破し決勝進出を果たした。「短距離の決勝のスタートラインに当たり前のように明治のユニホームがいることを見せられた」。決勝では惜しくも高校時にマークしたベストには届かなかったが、47秒08と自身の大学ベストであり明大歴代3位タイムでゴールした。

4×400mリレーでは唯一の4年生メンバーとして出場した野口(右から2人目)

さらに野口は4×400mリレーにも出場。唯一の4年生メンバーであることから後輩たちに「自分を踏み台にトッププレーヤーと肌を合わせて何が足りないか、目だけでは分からないものを肌で感じてもらいたい」と伝えた。レース前スタート地点からは明治大の陣地が目に入る。走りたくても走れない人がそこにいる。だからこそ後輩へ「俺たちがここで走れるのは幸せものなんだぞ」。たとえ強豪校と走ることに不安を感じたとしても「1人じゃなくてみんなで走る」。ケガを通じて学んだことを話した。

野口は2走を務め、前との差を詰めるも、最終的には3分13秒26で予選敗退となった。レース後1人電光掲示板を見つめる姿。高校時代、4×400mリレーで負けることは一度もなかった。その中で今回、「負けて仕方ないと思うのか、悔しいと思うのか。このメンバーだから仕方ないと思うなら、このチームに未来はない」。悔しさを忘れないためにスクリーンに映る文字を目に焼き付けた。

入賞した4年生の野口(右)と小林

今回の関東インカレでは野口以外に鈴木、小林の4年生が短距離部門から出場。鈴木は三段跳びで2位、自己ベストとともに明大新記録である15m90をマーク。4×100mリレーメンバーの小林は7位入賞し、予選では明大記録の更新。4年生全員が入賞という目に見える形でチームに貢献した。新体制になり決めた「自分の背中を見せていくしかない」。この言葉を体現してみせた。

「まだ腐るには早い」 大学ラストイヤーへ執念

今回の結果に対し、野口は「『これだけ頑張ってこれか』と腐りたくなるが、まだ腐るには早いかな」。3カ月後の日本インカレへ向け、ここで慢心することはない。執念とも語る強い思いが「長距離だけじゃない」新しい明治大を動かす。

日本インカレで自己ベスト更新を目指す

日本インカレでは400mで高校生ぶりの自己ベスト更新、そして大会最終種目の4×400mリレーで決勝進出を目指す。明治大が「マイルの決勝に残ったらこの上なく幸せ」と野口。自身にとっても後輩にとっても、今まで支えてくれた人たちにとっても最高の瞬間へ。昨年の日本インカレ後、「陸上競技を終える日に『俺はやり切ったんだ』と胸を張って言える選手になりたい」と話したように、残りの大学ラストイヤーを駆け抜ける。

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