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特集:あの夏があったから2022~甲子園の記憶

近畿大学・阪上翔也 右ひじ癒えた夏に本塁打 「二刀流」だから見える甲子園の景色

神戸国際大付時代は投打の「二刀流」だったが、大学ではまず打者で勝負する(撮影・沢井史)

阪神甲子園球場では、第104回全国高校野球選手権大会の熱戦が続いています。4years.では昨年2年ぶりに開催された舞台に立ち、その後、大学野球の道に進んだ1年生の選手たちに、高校時代のことや、今の野球につながっていることを聞きました。「あの夏があったから2022~甲子園の記憶」と題して、大会の期間中にお届けします。今回は近畿大学の阪上翔也(神戸国際大付)に、右ひじの状態が癒えた最後の夏について語ってもらいました。

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心配された右ひじ、6月ごろから投球再開

「昨年の甲子園からもう1年が経つのはすごく早いです」

盛夏の空の下で、紅白戦を終えたばかりの阪上の表情が緩む。

神戸国際大付では1年夏からチームの軸となり、投打にわたって高いセンスを見せつけてきた。50mを6秒0で駆ける快足と、最速147キロの速球を併せ持つ本格派右腕として、最上級生になるとドラフト候補と称されるまでになった。

だが2年秋に右ひじを痛め、投手としてマウンドに立つ機会が激減した。ひじの状態が回復しつつあった翌春の選抜高校野球大会は、開幕戦となった北海(北海道)、2回戦の仙台育英(宮城)との試合で先発マウンドに立ったが、いずれも長いイニングを投げることができなかった。二回途中でマウンドを後輩左腕・楠本晴紀(現3年)に明け渡していた。

「特に仙台育英戦は、自分のせいで大量失点につながってしまって……(5-13で敗戦)。もう、悔しさしかなかったですね」

右ヒジの状態が癒えた夏は1人で投げきった試合もあった(撮影・田辺拓也)

選抜後もひじの状態の先行きが見えず、打者に専念していた。「投手・阪上」の姿はもう見られないのだろうか。そんな周囲の不安をよそに、阪上は6月ごろに徐々にピッチングを開始。試行錯誤を繰り返しながらも、夏の兵庫大会に何とか間に合わせた。

4回戦の武庫荘総合戦で先発マウンドに立ち、復帰を果たすと、5回戦の明石商戦は完投勝ちを収めた。決勝の関西学院戦では九回に登板し、3人で締め、春に続く甲子園を決めた。

夏は打撃が絶好調

夏の甲子園初戦は、選抜と同じ北海(南北海道)との対戦が決まった。「マジかって思いました」と当時を笑顔で振り返るが、先発のマウンドに立ち、5回を1失点。選抜で見せた本調子から程遠い姿は、夏のマウンドにはなかった。再び聖地で投げられたことに感謝を込めながら1球、1球を投じたが、手放しで喜べない白星でもあった。

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「相手がいい投手だったので打ちたいと思いすぎて、結果はノーヒットだったんです(3打数無安打)。ピッチングでも良いところを見せたいと思いましたが、夏はどちらかと言うと打つ方に集中していました」

夏は打撃が絶好調だった。夏の大会前の練習試合で5試合連続ホームランを放ち、兵庫大会も打率は4割を超えていた。甲子園でも2回戦の高川学園戦(山口)でホームランを放ち、チームは準々決勝までの全3試合を1点差で制している。

打撃が絶好調だった最後の夏は、甲子園で本塁打も(撮影・白井伸洋)

「接戦ばかりで正直苦しかったですが、厳しい試合を一つひとつものにできたからこそ、チームは強くなっていったかもしれません。準々決勝の近江戦も接戦でしたが、終わってみると相手の粘りに負けてしまったような……。甲子園での4試合で一番印象に残っているのも、その試合です」

「テレビでしか見たことがない展開」

近江戦は先発マウンドに立ったが、2イニングでマウンドを降りた。4点を追う九回の攻撃、先頭打者は阪上だった。センターフライに終わり出塁することはできなかったが、直後、仲間の粘り強さを目の当たりにすることになる。2死走者なしから武本琉聖(現・龍谷大)が四球で出塁し、代打攻勢で連打が生まれた。気が付くと、4点差があっという間に同点になっていた。

「こういう試合はテレビでしか見たことがない展開だったので、自分たちの試合でこんなことが起きるのかと、正直ビックリしました。野球は最後まで何が起こるのか分からないと、改めて思いました。自分のせいで選抜は仙台育英に大量失点して、だらしない試合をしてしまったけれど、あの負けでチーム全体が夏に向けて引き締まっていたのはありました。最後はサヨナラで負けてしまいましたけれど、ずっと勝ちにこだわってやっていたので、選抜の悔しさを生かせた夏だったと思います」

2度立った大舞台。例年のような大観衆ではなかったが、阪上の中でも甲子園はやはり特別な存在だ。

近江戦はふがいなさが募ったが、最後に仲間が驚異の追い上げを見せてくれた(撮影・瀬戸口翼)

「自分たちの大会は無観客でしたが、甲子園は球場内に入った瞬間に圧倒される雰囲気がありました。マウンドに立つとバックネットが近いんです。観客席が同じ目線にあるからですかね。打席から見るとポール際は狭く見えるのですが、外野の守備につくと広く見えるんです。特に外野は守備についたら広さがすごく分かります」

ひじの状態が思わしくない時や、調子が悪くて心が折れそうになることもあった。だが落ち込まず、高校時代は自分がやってきたことに自信を持ってやれていたと胸を張る。「特に高校では、走塁など細かいプレーなどを詰めてやってきたので、それは大学で生かせていると思います」

現在は野手としての練習に重き

近大では1年春からメンバー入りし、公式戦でもベンチ入りを果たした。代打や代走などで出場機会にも恵まれ、レギュラー格の先輩を脅かす存在となっている。

「関西学生リーグはピッチャーのレベルが高いです。150キロを超えるピッチャーが多くて、リーグ戦では何度もバットを折ってしまいました。今日の紅白戦もバットを折ったんですよ」と苦笑いを浮かべる。速球に振り負けないミート力、力負けしないスイングを身につけることが今の大きな目標だ。

近大では野手としての練習に重きを置いている。チーム事情によって投げる機会がめぐってくれば「投げてみたいのはありますね」と意欲を示すが、最後の夏に見せたシュアな打撃にさらに磨きをかけたいところだ。

2回戦の高川学園戦では、勝ち越しタイムリーを放った(撮影・田辺拓也)

「早いうちにレギュラーを獲(と)って、タイトルを獲れる選手になりたいです。ボールの見極めなども、もっと上げないといけませんが、足を生かした走塁も見せたいですし、打率も残しながら長打も打てるバッターが理想です」

打者・阪上の真の姿を見せるのは、大学野球の大舞台に立ってからだ。

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