野球

青山学院大・佐藤英雄 日大三から変わらぬ律義さ 4年ぶり再会に「お久しぶりです」

試合中は投手に寄り添う場面が印象的だった(撮影・滝口信之)

今春に引き続き、地方での開幕となった秋の東都大学野球は、9月3日に福島市の福島県営あづま球場で開幕した。普段は福島を拠点に取材している私は、久々に再会する選手たちの雄姿を楽しみにしていた。第100回全国高校野球選手権大会に、西東京代表として出場し、ベスト4まで勝ち進んだ日大三高の選手たちのことだ。その一人、青山学院大学の佐藤英雄(3年)は、今回の開幕戦でスタメン捕手として出場した。

日本大学・河村唯人 4年前と同じグラブ、当時から変わらない、道具を大切にする心

活躍よりも、自らのミスを責める

100回大会当時は背番号12の2年生捕手として、3年生の中村奎太(現・明治大学4年)と河村唯人(現・日本大学4年)、同級生の井上広輝(現・埼玉西武ライオンズ)らをリードし、甲子園では全5試合でスタメン出場した。当時の印象を一言で表せば「真面目」。試合前夜には週刊朝日に載っているデータとにらめっこをしていた。私にも対戦相手の「公式スコアを見せてください」と何度も話してきたので、よくスコアを渡していた。ミーティングが終わっても、1人だけミーティング会場に残り、対戦相手の試合の映像を何度も何度も見て、研究していた。

佐藤で一番印象に残っているのは、金足農(秋田)との準決勝前夜のことだ。ミーティング後に、木代成(現・創価大4年)とバットを振っていた。「甲子園後の新チームが不安です。これで初戦負けしたらどうしましょう」と吐露していた。甲子園4強まで勝ち進んでいるということよりも、佐藤自身が当時のチームのように自分たちの世代をまとめきれるかどうか、不安に思っていた。

日大三の頃から第一印象は「真面目」だった(撮影・朝日新聞社)

佐藤を語る上では、甲子園でのエピソードがもう一つある。奈良大付と対戦した2回戦。この試合で2安打2打点と活躍した佐藤は試合後、お立ち台でインタビューを受ける選手に指名された。それを伝えられると、「え」と驚き、「僕でいいんですかね」と話していた。インタビュー中も、打ったことよりも、リード面での自らのミスをずっと責めていた。そんな姿から、真面目で謙虚だな、という印象が強い。

主将の重圧を吹き飛ばした同級生の一言

佐藤は100回大会の後、主将になったが、2年秋の東京都大会は初戦で敗退。春の大会も結果を残せなかった。佐藤が追い求めた主将像は、間近で見てきた日置航(現・明治大学4年)や桜井周斗(現・横浜DeNAベイスターズ)など、プレーでチームを引っ張る姿だった。悩みが深い佐藤に、同級生の石田拓海(現・日本大学3年)が声をかけた。

「英雄は、英雄らしいやり方をすればいいじゃん」

この一言で、佐藤は吹っ切れた。「自分らしくやろう」と、それまで以上に選手に声をかけ、コミュニケーションを大事にした。石田は100回大会の西東京大会で背番号17をつけてベンチ入りしたが、甲子園ではベンチ外に。最後の夏はベンチ入りを果たしたが、足を骨折した影響で試合に出られなかった。佐藤には石田の悔しさがよく分かるだけに、チームメートに「石田を甲子園へ連れて行こう」と声をかけていた。

高2の夏は、甲子園でベスト4まで進んだ(撮影・朝日新聞社)

この年の日大三は、井上、広沢優(現・JFE東日本)と、前年の甲子園で活躍した2人の右腕を擁し、優勝候補筆頭だった。しかし、西東京大会は準々決勝で桜美林に序盤からリードを許し、敗れた。試合後、佐藤はずっと下をうつむきながら、淡々と記者たちの質問に応じていた。石田に関する質問では、「石田を甲子園に連れて行ってあげようと思っていたのに……」と声を詰まらせた。

高校時代から、まったく変わらない姿

青山学院大に進学後、1年のときからスタメンの座を獲得した。入学当初、青学大は東都大学野球リーグの2部に所属していたが、2年春のとき、1部に昇格した。

福島で久々の再会に、佐藤がどう変わったか楽しみにしていた。開会式で各校の入場行進の様子を撮影していると、高校生時代とまったく同じ佐藤の姿があった。周りの学生は、髪を伸ばし、染めている選手もいる中、短髪で、変わらない表情に、なんだか一安心した。

福島での開幕戦は、8番捕手として出場した。青学大の攻撃中、佐藤の姿はブルペンにあり、投手陣と話し合っていた。高校時代も何度もマウンドに駆け寄っていた。そんなことを思い出していたら、佐藤から声を掛けられた。「お久しぶりです」。試合中にもかかわらず、声を掛けてくれたことに驚いたのと同時に、4年も経っているのに私を覚えてくれていることに、うれしくなった。

下村(左)とタッチを交わす佐藤(撮影・滝口信之)

開幕戦は試合途中で代打を送られ、ベンチに下がった。その夜、LINEが来た。

「お久しぶりです!今日はちゃんとあいさつが出来なかったので連絡させていただきました!明日は取材してもらえるように頑張ります!」

どこまでも律義な性格は、今も変わっていなかった。

高校時代に逃した日本一を大学で

翌日の第2戦は、延長までもつれ込む大接戦となった。無死一、二塁から始まるタイブレークの延長十回、先頭で佐藤が打席に立つと、見事に送りバントを決め、ベンチに戻ってきたときに、ホッとした表情を浮かべた。

私が取材した2試合で、佐藤は無安打だった。高校時代から「打撃は苦手」と話していたが、それも大学生になっても変わっていなかった。

今季は第3週を終え、毎試合捕手としてスタメンで出場している佐藤。苦手な打撃も徐々に改善し、日大との第1戦では、本塁打を放った。連絡をしてみると、「めちゃくちゃうれしかったです」と返信が来た。「また、取材してもらえるようにこれからも頑張ります」

リード面と肩の強さには、高校時代から定評がある(撮影・滝口信之)

強肩とリード面には、高校時代から定評がある。課題である打撃を克服し、高校時代に逃した日本一を、大学の舞台で目指している。

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