陸上・駅伝

特集:第54回全日本大学駅伝

國學院大が全日本大学駅伝2位で初の表彰台 ルーキー青木瑠郁の区間賞もチームに弾み

「2」を掲げてゴールする伊地知(青木の写真を除き、すべて撮影・藤井みさ)

第54回全日本大学駅伝

11月6日@愛知・熱田神宮西門前~三重・伊勢神宮内宮宇治橋前の8区間106.8km
1位 駒澤大   5時間06分47秒(大会新)
2位 國學院大  5時間10分08秒(大会新)
3位 青山学院大 5時間10分45秒(大会新)
4位 順天堂大  5時間10分46秒(大会新)
5位 創価大   5時間12分10秒
6位 早稲田大  5時間12分53秒
7位 中央大   5時間13分03秒
8位 東洋大   5時間13分10秒
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9位 明治大   5時間15分29秒
10位 東海大   5時間16分01秒

11月6日に開催された第54回出雲駅伝で、國學院大學が昨年の過去最高4位を更新する2位でフィニッシュした。総合5時間10分08秒は従来の大会記録を更新するタイムでもあった。ゴール地点の選手たちは笑顔で、アンカーの伊地知賢造(3年、松山)を出迎えた。

前日会見で「師弟対決」が話題に

國學院大は10月の出雲駅伝で2位となったが、本気で優勝を狙いにいくという気持ちだった選手たちに笑顔はなかった。主将の中西大翔(4年、金沢龍谷)や主力の平林清澄(2年、美方)からは「誰も満足していない」という言葉が聞かれ、その悔しさを原動力に「全日本大学駅伝こそは優勝したい」と練習を積んできた。

前日会見でも前田康弘監督は「3位以内、それ以上を狙いたい。優勝も考えていないわけではないです」と明言。出雲駅伝からチーム全体を一段階上げられたと、チームの充実ぶりも伺わせていた。立ちはだかるのは、「学生3大駅伝三冠」を目標に掲げ、出雲でも盤石の強さを見せた駒澤大学。駒澤大出身の前田監督は、大八木弘明監督の「師弟対決」になりますねと問われ、「なんとかこう……邪魔したいじゃないですけど、3連覇と三冠を。なんとか一矢報いたい」と答えると、大八木監督は笑顔で「受けて立ちましょう!」と応えた。

経験者の島﨑が出遅れるも、徐々に巻き返し

今大会では特に2区にエース級の選手が多く配置され、各チームの監督も口々に「前半で出遅れないように」と話していた。迎えたレース当日、1区を担当したのは4年連続となる島﨑慎愛(よしのり、藤岡中央)。前回区間3位、前々回区間4位と好走している島﨑は、練習での調子もよく、経験も加味して起用された。

例年は大集団で進み、ラストスパートで抜け出す選手と勝負という形になるが、今回はスタートしてすぐ青山学院大の目片将大(4年、須磨学園)がいっきに飛び出した。1kmの通過2分41秒。目片は独走し、後ろの大集団から大東文化大のピーター・ワンジル(2年、仙台育英)が目片を追う。島﨑は3位集団の中で走ったが、8kmすぎての動きに対応できず、トップとは47秒差の区間17位で2区の山本歩夢(2年、自由ケ丘)につないだ。

山本は前を行くランナーを次々に抜き去り、8.5kmまでに10人抜きを達成し7位まで上がった。しかしトップを走る創価大学の葛西潤(4年、関西創価)と駒澤大の佐藤圭汰(1年、洛南)が区間新記録ペースで走り、3区の中西に渡った時点でトップとの差は1分14秒に広がった。

序盤の遅れを挽回する走りを見せた山本

中西は昨年も3区を担当したが、思うように調子が上がらず区間11位と苦しんだ。今年も気温が上がり、強い日差しが射(さ)す中での走りとなった。10km近く単独走となり、前を行く中央学院大を抜くと、明治大の櫛田佳希(4年、学法石川)の前に出るものの、また櫛田に抜き返される。最後は6位、トップとは1分25秒差での襷(たすき)リレーとなった。4区の藤本竜(4年、北海道栄)は10月の出雲駅伝が学生駅伝デビューだったが、このときは5区区間4位と好走。今回は明治大、創価大を抜き4位に浮上し、区間4位とまたも上位でまとめた。

5区で2位に浮上も、7区青学近藤の驚異の走りに離される

5区の青木瑠郁(るい、1年、健大高崎)は出雲駅伝で駅伝デビューを飾り、1区区間7位。力強い走りで前を追うと、前を行く順天堂大を抜き、さらに9.5km付近で早稲田大を抜いて2位に浮上。創価大の嶋津雄大(4年、若葉総合)や青山学院大の岸本大紀(4年、三条)などの実力者を抑えて区間賞を獲得。区間記録にもあと3秒と迫る走りだった。

6区坂本健悟(4年、藤沢翔陵)、7区平林、8区伊地知は昨年と同じ区間配置。昨年はこの3人で10位から4位へと順位を押し上げたこともあり、今年も後半区間での巻き返しに期待がかかった。坂本は区間新記録を更新した順天堂大の西澤侑真(4年、浜松日体)とほぼ同時の襷リレー。区間6位と粘り7区の平林へ。この時点でトップとの差は1分58秒となった。

坂本は粘りの走りを見せた

平林は順天堂大の伊豫田達弥(4年、舟入)と並走となるが、そこに後ろから青山学院大の近藤幸太郎(4年、豊川工)が猛烈な勢いで追いつき、3km近く3人での走りとなった。平林は近藤のペースにつけず、ふたたび伊豫田との2人旅になったが、その後伊豫田を引き離した。平林は区間4位、50分58秒で走りきったが、この区間を50分台で走った日本人選手は昨年の駒澤大学の田澤廉(4年、青森山田)と近藤の2人のみ。かなりの好記録だったが、今回田澤が49分38秒、近藤が49分52秒という異次元の記録で走ったため、トップとの差は3分18秒に開いた。平林はレース後「きつかったです。ちゃんと走っているのにどんどん差が開いちゃって……」と田澤、近藤の強さに驚きつつ、「まだまだです」とさらなる成長を誓った。

前田監督「箱根につながる価値ある2位」

アンカーの伊地知は前回大会で区間賞を獲得、今年は5月の関東インカレ2部ハーフマラソンでも優勝するなど着実に実力を高めている。襷をもらった時点では51秒あった青山学院大学との差を15.7km付近で追いつき、突き放した。伊地知は「2」を掲げてゴールし、待ち受けるチームメートに抱きとめられた。中西からは「ありがとう」と声をかけられた。

走り終わった伊地知(右)は中西と握手

優勝を目指していただけに悔しさがありますか? と問われた前田監督は、「今回本当に劣勢の中から巻き返したから、喜びの方が大きくなっちゃいましたね」と正直な感想を口にした。もちろん「勝ちたい」という気持ちはあったが、駒澤大学の戦力は頭一つ抜けているなという冷静な分析もあった。「青学さんといい勝負かなと。そう考えると見積もり的には正しいかなと思うので……あれだけ17位で出遅れてから巻き返したから、箱根にはつながる価値のある2位かなと思います」。出雲駅伝での2位がフロックではないと見せられた。出遅れても追いつける力があると改めて感じた。「やっぱり、強くなってるなと思いましたね」と選手たちをたたえた。

練習を積み、自信を深めた青木「國學院に来てよかった」

特に今回鮮烈な印象を残したのが、6区で区間賞を獲得した青木だ。「区間賞を取ったというのは自分が思い描いていた中ではありえなくて、ちょっとびっくりしています。昨年はテレビで見ていた嶋津さん、岸本さんに勝てたというのは、去年の自分からしたらありえないです。だからこそうれしいし、これからの大学陸上をやっていく上でも自信になると思います」と話す。

青木は出雲駅伝で1区を走り区間7位だったが、前田監督も「彼の実力からいうともっと走ってもいい」と期待していた選手。本人もこの結果に悔しさを感じ、スタミナを強化するためにジョグの時間を長くするなど、小さいことを積み重ねることで自信を深めてきた。12.4kmは、いままでレースで走った中では最長。出雲のあとに全日本を想定し、8kmの単独走を行った際に6〜7割の力で1km2分53秒で押していけていたため、プラス4kmぐらいならいけるのでは、という気持ちはあったという。

5区区間賞の走りを見せた青木(撮影・古沢孝樹)

区間新記録を狙うという気持ちがあり、あと3秒届かなかった。「前半は良かったですが、後半は足が動かずラップが落ちてしまいました。満足いく走りができませんでした」と好結果にも反省を口にする。前田監督からは「いい流れで来ていたらそれをキープし、悪い流れだったら断ち切って立て直す走りを」と言われており、「本当は先頭に近いところでというのが想定でしたけど、4位で来たので悪い流れに近いかなと思いました。それを断ち切って2位に押し上げられたのは、チームとしては良かったなと思います」。

健大高崎時代は5000mでインターハイに出場した実力者の青木だが、「1年目はしっかり積み上げて、2年目から勝負だと思っていた」という。だが國學院大に入学し、前田監督の指導を受けて練習を積み上げられたと話す。主務の村野裕次郎さんも青木のことを「練習でも下がらないし、はじめから戦いに来ているんだなという感じ」と評価する。

5月の日体大記録会で14分01秒14をマークすると、6月のU20日本選手権5000mでは13分59秒34で2位。7月の関東学生網走夏季記録挑戦競技会では13分48秒61と、めきめきと実力を伸ばした。高校時代は主に1500mがメインだったため、大学に入ってからは走り込みの量も格段にアップした。夏合宿での走り込みの距離は1000kmを超えた。けがをしないように食事やケアにも気を使い、練習を継続できている。

今回の結果を弾みに箱根駅伝へ向かう

今回前田監督が起用を迷った選手として、もう1人1年生の上原琉翔(1年、北山)がいた。捻挫をして走らない期間があったこともあり、今回は無理しての起用はしなかったが、「青木とほとんど遜色ないです。2人は中西大翔を超える逸材だと思います」と前田監督は高く評価している。さらにメンバー入りした嘉数純平(1年、北山)も箱根に向けて期待できると話す。

先輩たちが積み上げてきたものが着実に後輩たちに引き継がれ、大きく花開こうとしている國學院大。駒澤大の「三冠」を阻止する一番手として、箱根駅伝でも面白いレースを見せてくれそうだ。

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