陸上・駅伝

名城大学・山本有真 レース後に流した涙、国内トップと世界を見据えるきっかけに

エディオンディスタンスチャレンジin京都で力走する山本有真(すべて撮影・加藤秀彬)

名城大学の山本有真(4年、光ヶ丘女子)は本気で学生新記録を狙っていた。12月10日にあった「エディオンディスタンスチャレンジin京都」の女子5000m。15分13秒09の学生記録をクリアすれば、14年ぶりの更新だった。

レース1週間前から調子上がらず、前夜は「怖い」

スタートから、果敢に先頭集団に付いて行った。日本選手で集団にいるのは、東京オリンピック代表の田中希実(豊田自動織機)、廣中璃梨佳(日本郵政グループ)、萩谷楓(エディオン)らトップ選手ばかり。山本の自己ベスト15分16秒71に対し、3選手は全員が14分台のタイムを持っている。1km3分のハイペースは山本にとってチャレンジだったが、学生記録を狙うために行くしかなかった。

今季は7月のホクレンディスタンスチャレンジで3000mの日本学生新記録を樹立。日本学生個人選手権、日本学生対校選手権、国体ではいずれも5000mで優勝するなどシーズンを通して結果を残す、飛躍の年になった。

ただ、このレースの1週間前から調子が上がらなかったという。前夜には「怖い」という感情にも襲われていた。これまでにない注目を浴びるようになり、「それまでの、ワクワクしてレースを迎える心境とは少し違った」。気負いもあったのか、レースが始まると、最後までもつのか自分に対して疑心暗鬼になった。2500m付近から徐々に離された。

田中(中央)や廣中(右から2番目)らオリンピアンに挑んだ

結果は、日本人選手4位の15分25秒92。決して、悪いタイムではない。それでも山本はゴール後、トラックの脇に座り込んだ。体操座りのまま、顔を覆う。しばらく、その場を動くことができなかった。心配したのか、一緒にレースを走った後輩たちも自然と山本のそばに集まった。米田勝朗監督に声をかけられると、涙が止まらなかった。

大学4年間で「理想の伸び方をした選手」

1年前の山本なら、ここまでの悔しがり方はしなかっただろう。2年生の終わりに2カ月ほど陸上から離れ、日本選手権に出場したのも昨年が初めてだった。昨年10月の全日本大学女子駅伝では、「日本代表はまだまだ考えられない」と話していた。優勝した今年9月の日本学生対校選手権で「14分台も狙えそう」と尋ねた際にも驚いた表情を見せ、日本代表クラスと勝負することを思い描いていないように思えた。

意識が変わったのは、10月の国体で廣中に競り勝って優勝したあたりか。「周りから期待されていることも分かっていて、自分自身も学生記録を出せると思っていた」。大きな結果が出たことで、上のレベルで勝負できる手応えをつかんでいた。

山本の成長は名城大のスタッフたちも絶賛している。米田監督は、4年間で着実にタイムを上げてきた山本を「理想の伸び方をした選手。こういう選手は将来、日本代表として活躍できる」と話す。中尾真理子コーチも「有真は本当に素直。私たちが言っていることを素直に受け入れてくれる」。5000mのタイムは、大学1年時から40秒以上更新した。

レース後、落ち込む山本に米澤(左)が寄り添った

初めて聞いた、世界への思い

エディオンディスタンスチャレンジの結果は、今季初めてと言って良いほどの悔しさがあったはずだ。だが、決して無駄な経験ではない。山本は言う。

「廣中さんや、田中さん、萩谷さんの背中を見て走っているときに、成長を感じることができた。1年前は思ってもいない光景だった」

廣中と萩谷は同学年、田中は一つ上の世代だ。この世代は、早くから世界で勝負している選手が多い。その選手たちと肩を並べて走ったことで、一つ上のレベルに近づいたことも実感できた。

「まだまだ私は下っ端ですけど、実業団では同世代のみんなと同じステージで、14分57秒00(世界選手権ブタペスト大会参加標準記録)もめざして行きたいと思います」

山本から世界の舞台への思いを聞いたのは、これが初めてだった。

米田監督に声をかけられると、涙が止まらなくなった

全日本大学女子駅伝でも史上初の6連覇に貢献し、この1年はレース後に充実した表情をすることの方が多かった。だが、それまでの道のりでは、悔し涙を流すこともたくさんあったという。そんな経験を経て、今や学生トップの選手になることができた。

今回のレースが、いずれ日本のトップへ上り詰めるきっかけになるのかもしれない。ゴール後に流した涙と悔しそうな表情からは、そう予感させるほど熱いものが伝わってきた。

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