監督に「私は遊びたい」 そして5連覇の立役者は帰ってきた
「陸上一本じゃなくて女の子として遊びたい」
名城大の山本有真(3年)は今年1月、米田勝朗監督にこう言った。
あれから9カ月。
31日の第39回全日本大学女子駅伝で、1区区間賞をつかんだ。史上最多タイ5連覇の立役者として帰ってきた。
山本は1年時に全日本で区間トップ。2年でも区間2位で走ったチームの中心選手だ。
だが昨年末、突然気持ちの糸が切れた。
「メンバーに選ばれていない選手の頑張りを考えると、私は全然練習していなくて。走るのが申し訳なくなって、モチベーションが落ちていきました」
陸上から離れたい。気持ちが抑えられず、「遊びたい」と正直に言った。
米田監督は、その気持ちを尊重した。
「10年前なら許していないですけど、強制する陸上はしたくないので。違う世界を一度見て判断したら良いと。正直、戻ってくるとは思いませんでした」
おしゃれをしたり、友達と遊んだり。山本は実家に帰り、寮生活ではできなかった遊びを思う存分楽しんだ。
監督から電話があっても「嫌です」と取り合わなかった。
また走り出すきっかけをくれたのは、同期の活躍だった。
3月の日本学生ハーフマラソンで、小林成美(同)が1位、荒井優奈(同)が3位をつかんだ。夏に開催予定だったワールドユニバーシティゲームズ(延期)の日本代表に選ばれた。
「おめでとうもあったけど、やっぱり悔しくて。『あー走りたい』って素直に思いました」
その月に練習に復帰してからの成長はめざましかった。
2カ月のブランクがあるにもかかわらず、6月に1500メートルで自己ベスト。初めて日本選手権の標準記録を突破した。
9月の日本学生対校選手権は2位。全日本大学女子駅伝直前の記録会では、5000メートルでチームトップの15分33秒45をたたき出した。
「こんな性格なので、コツコツタイプじゃなくて短期集中型です。夏合宿はチーム練習以外でも走って、それが実りました」
そして、この全日本で快走した。残り1キロ付近から力を振り絞り、昨年1秒差で逃した区間トップも獲得した。
米田監督は言う。「うまくいく可能性も失敗の可能性もあったけど、見違えるように真剣になったので。あの走りがチームに勇気を与えました」
山本もレース後、感謝の思いがこみ上げた。
「名城大に戻してくれて、信じて1区を任せてくれてありがとうございました」
(加藤秀彬)=朝日新聞デジタル2021年10月31日掲載