國學院大は主将を欠く中、粘りの箱根駅伝4位 前田康弘監督「本当の意味での底力」
第99回箱根駅伝
1月2・3日@東京・大手町~箱根・芦ノ湖間往復の217.1km
総合優勝 駒澤大(2年ぶり8度目)10時間47分11秒
2位 中央大 10時間48分53秒
3位 青山学院大 10時間54分25秒
4位 國學院大 10時間55分01秒
5位 順天堂大 10時間55分18秒
6位 早稲田大 10時間55分21秒
7位 法政大 10時間55分28秒
8位 創価大 10時間55分55秒
9位 城西大 10時間58分22秒
10位 東洋大 10時間58分26秒
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11位 東京国際大 10時間59分58秒
「三大駅伝表彰台」を目標にかかげ、シーズンを戦ってきた國學院大學。出雲駅伝、全日本大学駅伝で準優勝し、勢いに乗る中で箱根駅伝を迎えた。主将の中西大翔(4年、金沢龍谷)を欠く逆境の中で4位となり、「目標には届かなかったが素晴らしい、粘り強い駅伝だった」と前田康弘監督は口にした。
中西大翔主将が故障、同級生の藤本竜が覚悟の走り
中西は今年、主将として名実ともにチームを引っ張ってきた。しかし、12月13日の壮行会が終わった後、16日に右アキレス腱(けん)の周囲炎が判明。絶好調がゆえにオーバーワークとなってしまった結果だった。当初の予定は昨年も走った4区。様子を見て復路の10区に配置することが決まったが、31日に痛みがひどくなり、「走らない」という決断をせざるを得なかった。中西と前田監督はともに。「その後はもう一切泣かずに、凛(りん)としていてくれたので、チームに張りと締まりが出て『中西のために』という気持ちに後輩たちがなってくれました」と前田監督は話す。
1区は学生連合の新田颯(育英大4年、千原台)が飛び出し独走したが、その後ろの集団は牽制(けんせい)してスローペースに。ルーキーの青木瑠郁(1年、健大高崎)がトップと32秒差の区間12位で走り、2区の平林清澄(2年、美方)へ。実は平林は12月の初旬に故障しており、急ピッチでここまで仕上げてきた。最後の練習も外し、前田監督は不安のある中での起用だったというが、6人を抜く見事な走り。1時間7分32秒の区間7位で6位に浮上し、同級生の山本歩夢(2年、自由ケ丘)に襷(たすき)をつないだ。
「平林と箱根で襷リレーできてうれしかった」という山本は、区間賞を取るつもりでハイペースで入ったが、後半失速。「昨年の全日本と同じレース展開をしてしまい、後半が課題だなと感じました」と反省を口にした。中継所手前では足が溝にはまりつまずくアクシデントもあったが、大事には至らず区間5位、4位で平塚中継所にたどり着いた。
4区の藤本竜(4年、北海道栄)は4年目にして出雲駅伝でデビューし、全日本大学駅伝、そして箱根駅伝でも出走。後ろから驚異的なペースで追ってきた東京国際大学のイェゴン・ヴィンセント(4年、チェビルベルク)に抜かれ、中盤から苦しい表情になりながらも、1時間1分48秒の区間4位でまとめた。このタイムは昨年の中西よりも2秒速い。前田監督も「最後の集大成というか覚悟を後ろで見ていて感じたので、うれしかったです。努力で積み上げた4番だと思うので、本当に素晴らしいです」と評価した。
5区の伊地知賢造(3年、松山)も実は不安を抱えていた。5区の候補は伊地知か平林で、全日本大学駅伝が終わった段階で、伊地知本人も「5区を走りたい」ということで想定していたが、11月中旬に左ひざを故障。ぶっつけ本番で山を上ることになった。宮ノ下までは自分のリズムで上れたというが、気温が下がってきて汗をかき、低体温症ぎみになってしまったという。「準備不足もそうですが、本当に攻略が難しいコースだと思いました」と話す。本来なら区間賞を獲得し、自分のところで往路優勝を決めたいと考えていたが、区間7位、芦ノ湖には4位フィニッシュとなった。前田監督も「彼らしい背中じゃなかったと思います。彼のパワーを引き出せなかった僕の采配ミスです」と反省の弁を口にする。
粘りの走りで4位を確保
トップとの差は4分ちょうど。6区は昨年4日前に故障が判明し、急きょ走れなかった島崎慎愛(よしのり、4年、藤岡中央)。2年前には58分39秒で走ったが、今回は59分59秒の区間12位だった。それでも順位をキープし7区はルーキーの上原琉翔(1年、北山)。積極的な走りを展開し、38秒前にスタートした早稲田の鈴木創士(4年、浜松日体)をとらえて3位に浮上した。
ルーキー同士のリレーとなった8区は高山豪起(1年、高川学園)。ラスト1kmで早稲田大の伊福陽太(2年、洛南)に追いつかれるものの、競り勝って3位をキープしたまま9区へとつないだ。
9区の坂本健悟(4年、藤沢翔陵)も実は前日にけいれんを起こして倒れたといい、不安があったと前田監督。後ろから来た早稲田大学、法政大学、創価大学、順天堂大学と3位集団を形成して走った。坂本は中西から「自分のサングラスをつけて走ってほしい」と頼まれ、走れない中西の思いも背負っていた。後ろから来た青山学院大の岸本大紀(4年、三条)に抜かれ、他校にも最後のスパートで競り負けたものの、区間10位でまとめ7位でアンカーの佐藤快成(2年、埼玉栄)に託された。
佐藤はほぼ同時にスタートした早稲田大を離し、前を行く法政大、創価大もとらえて4位に浮上。そのままの勢いで大手町のゴールに飛び込んだ。ゴールでは中西と伊地知が佐藤を出迎えた。
中西は走れなかった悔しさを抱えながらも、頑張っている仲間の姿を見て「このチームで1年間やってきて、箱根を目指してきてよかったな」と改めて感じたという。自分が入学した年はシード争いをするところから始まり、「優勝を目指す」と口にできるだけのチームに成長できた。「自分自身も今年1年間特に成長を実感できて、チームの柱として戦って来られたことを本当にうれしく思っています」と話す。
副将の伊地知は新チームで主将を務める。3年間の経験をしっかり生かし、「みんながチームのために動けるし、自分がやってやるんだという気持ちになるチーム作り」をしていきたいと意気込みを語った。
課題を克服し、「101回目のプロポーズ大作戦」で総合優勝を
全日本大学駅伝が終わった時点では、本気で表彰台を狙い、総合優勝争いにからんでいけるほどチーム状況が充実していた。しかし度重なったアクシデント。「もう危険水域ギリギリのところでやってたという感じなんですが、その中でも最後にこうやって4番を取れたのは、本当の意味での底力がチームとしてついたんだと思います。あと若い子がビビらず走れるチームに変わったので、未来は明るいなっていう試合だったと思いますね」と前田監督は話す。
昨年も直前で主将の木付琳(現・九電工)と島崎の故障が判明し、思い描いた通りの戦力で戦えなかった。前田監督は「僕なんか悪いことしたんですかね」と苦笑するが、これも次のシーズンへの課題だと感じている。「全日本までは完璧に近く仕上げられる自信があるんですが、その後に自信をなくしちゃう自分がいて。また試行錯誤しながらしっかり修正してやっていきたいと思います」。箱根にこだわるのだったら、5区、6区の特殊区間のスペシャリストを育成することも視野に入れていきたいという。
「また出雲駅伝から仕掛けていきたいですし、最低一つは取るという強い覚悟を持って新チームをスタートしたいと思います」と話す前田監督。そして平林たちの学年が4年生になる101回大会で、箱根駅伝総合優勝を本気で狙っていきたいと考えている。「『101回目のプロポーズ大作戦』で頑張りたいなと」とすでに作戦名もおちゃめに明かした。
レース後、前田監督の恩師である駒澤大の大八木弘明監督が退任を表明した。「最後の最後で三冠はさすが、主役は違いますね。花がある人だと思いました」と恩師への言葉を口にする。駒澤大の次期監督は藤田敦史ヘッドコーチとなる見込みで、藤田コーチは前田監督の先輩でもある。「思いっきりアタックしていきたいなと思いますね」。毎年成長するチームとともに、新たなシーズンへと臨んでいく。