陸上・駅伝

特集:第99回箱根駅伝

「3大駅伝表彰台」の目標を達成しさらに上へ 國學院大が100%の力で挑む箱根駅伝

笑顔でガッツポーズを取る前田監督と選手たち(すべて撮影・藤井みさ)

國學院大學は2022年の駅伝シーズン、出雲駅伝で2位、全日本大学駅伝も過去最高の2位と好成績をおさめている。だが、選手たちから聞かれるのは「2位では満足できない」の声。16日に行われた合同取材会で、前田康弘監督と選手たちに箱根に向けた意気込みを聞いた。

チームの強さを発揮し、目標達成を

今年の國學院大のスローガンは「変革〜新時代を切り拓け」。「新たな道を切り開く、意志あるところに道は開ける、という思いでやってきました」と前田監督。その通り、2月に山本歩夢(2年、自由ケ丘)が実業団ハーフマラソンで1時間00分43秒と、日本人学生歴代2位の好走。続く3月の学生ハーフマラソンでは、平林清澄(2年、美方)が優勝、主将・中西大翔(4年、金沢龍谷)が2位になり、幻とはなってしまったがユニバーシアードの代表に内定した。前半シーズンの山場である関東インカレでは、男子2部ハーフマラソンで副将の伊地知賢造(3年、松山)が駒澤大学、青山学院大学などの選手を抑えて優勝。「スローガンを体現できる走りを見せてくれた」と評価する。

学生ハーフでワンツーフィニッシュし、笑顔で抱き合う平林と中西

今シーズンの目標は「3大駅伝表彰台」。出雲駅伝、全日本大学駅伝では達成できたが、「箱根で結果を出さなければ全てが覆ってしまう」と前田監督は言う。しかし「今年のチームは強さがあり、逆境を跳ね返す努力をしてきました。今回の第99回箱根駅伝で、自分たちの力を100出したいなと思います。それができれば必ず目標である表彰台を達成できると信じていますし、確信しています。チーム一体となってこの1年間やってきたことを形にするべく、前を向いて堂々と1月2日、3日を迎えたいと思っています」と意気込みを語った。

昨年は壮行会の2日前に前主将の木付琳(現・九電工)が足を故障、さらにけが人が複数出るなど不安を抱えた状態でこの時期を過ごしていた。だが今年はここまでトラブルなく、順調に来られていると前田監督は言う。

主将の自覚で「外さない走り」を続ける中西大翔

シーズンが始まった当初から前田監督は、中西、伊地知、平林、山本の4人を「4本柱」として指名した。「自覚と責任を植え付けたい」という思いだった。4人はそれぞれ、この1年間力をつけてきた。

チームの先頭に立って結果を出し続けてきたのが主将の中西だ。現部員の中で唯一、19年の出雲駅伝の優勝を知るメンバーでもあること、中西の違う意味での良さを引き出せればチームとして面白いことができるのではないかということ、さらに選手として結果で示せて、まだまだ伸びしろもあるというのが、前田監督が中西を指名した理由だ。

主将としての立場が中西の力をさらに引き出した

中西も主将になったことで「自分の走りでチームの評価が左右される」と考え、「絶対に試合で結果を出す」という強い思いを持ってスタートラインに立つようになったと話す。その結果、前述の学生ハーフ2位、全日本インカレ5000m2位、出雲駅伝4区区間賞、全日本大学駅伝3区6位と結果を出し続けてきた。

箱根駅伝ではこれまで4区区間3位、2区区間15位、4区区間4位。最後の箱根駅伝では「4区を走って区間新記録を更新したい」という思いもあるが、「チームのためにどこを走ってもいい準備はしていきたい」と話す。4年間で一番いい状態を作れているという今。「確実に3番以内を意識しながら、笑顔で終わりたいなと思っています」。間違いなく、これまでで過去最高の強さになっていると実感できるチーム。優勝も意識しつつ最後の箱根路に臨む。

副将・伊地知賢造 攻めかつ冷静な走りを

伊地知は山本、平林、中西が着々と結果を出す中、学生ハーフでは気持ちが先走り8位。「置いて行かれてしまっている」という焦りがあった。関東インカレのハーフマラソンを走った際に、自分の体を把握した上でのレースプランを立てられるきっかけをつかんだ。「以前より賢く走れるようになった、とも言えると思います」。15km過ぎでロングスパートし、相手の流れを壊すというレースの進め方は、学生ハーフの時に自らが平林にされたことでもあった。「一つひとつがつながって、今の走り方というか戦い方が確立されてきているのかなという感じです」

前回大会では2年生ながら2区に抜擢(ばってき)され、区間12位。「ボコボコにされた」と振り返る。「自分の中では落ち着いて、持てる100%の力は出せたと思ったんですが、本当に力負けだったと思います。他のランナーとの差を感じました」。しっかりと力をつけてきた今、攻めの姿勢で、かつ大事なところは冷静にさばいていくというレースができれば、おのずと結果が出てくるのではないかと感じている。

他大学のエースとの力の差を感じた前回の2区。成長した姿で箱根に臨む

2区でリベンジしたいという思いはありますか? と問われると「それもしたい気持ちもありますが、本当に総合優勝したいと思っているので。どの区間でもいいので、自分が求められている仕事を求められている区間でやりきる、というのが今回の自分の走りのテーマだと思います」と思いを語る。

出雲駅伝、全日本大学駅伝ではともにアンカーを務めたが、総合2位でフィニッシュしたことが本当に悔しかった。「もう2番じゃ喜べないチームになったんだな、そのチームにいさせてもらえることのありがたさというのをすごく感じた1年でした」。来年度の主将として、すでに前田監督からも声をかけられている伊地知。全力で与えられた区間の責任をまっとうする。

平林清澄「100%の力を出せる準備を」

平林は学生ハーフで優勝し、5月にはドイツのアディダス本社に招待されて初の世界レースを経験。まったく自分はきついと感じていないうちから置いていかれるという初めての経験をした。「僕たちがスピードだと思っているものがペース走なんですよ。気づいたら前にいない、どんどん離されていくんです」とその時の驚きを語る。その後関東インカレ、7月のホクレン網走大会で立て続けに10000mの自己ベストを更新。さらに出雲駅伝では3区区間6位、全日本大学駅伝では7区区間4位と、他大学のエースとわたりあった。

特に全日本大学駅伝では、自らの調子は悪くなかったが、駒澤大の田澤廉(4年、青森山田)と青山学院大の近藤幸太郎(4年、豊川工)がともに史上初の49分台をたたき出すという異次元の走りをしたため、結果的に差をつけられる形になった。1年間さまざまな経験をしてきて、集大成としての箱根駅伝。「しっかり締めたいなと思っています。自分のやるべきことは変えずに、100%自分の力を出せる準備をしていくことが一番大事だと思っています」

全日本7区では異次元の走りを目の当たりにしたものの、冷静に走れたと振り返る

前回は9区を走り区間2位だった。「やっぱり往路で勝負したい」という気持ちはあるが、どこの区間でも前田監督が任せてくれた場所で力を発揮したいと話す。ちなみに学校でも声をかけられることが全然ないといい、「もうちょっと話しかけられたりしたいですね」と素直な気持ちも明かす。箱根の舞台で目立ち、声をかけられる存在となれるだろうか。

山本歩夢「箱根でしっかり力を証明したい」

山本は「4本柱」に指名された時、「みんなは自分より強かったので、プレッシャーがすごかったです」と振り返る。昨年度は箱根駅伝こそ往路の重要区間である3区を任され区間5位だったものの、前半シーズンはけがの影響で実績を残せていないという気持ちが山本の中にあった。実業団ハーフマラソンも、箱根駅伝までの調整が良かったためその延長で出せた記録だと話す。

ここまでのシーズン、出雲駅伝では2区区間6位、全日本大学駅伝では2区区間7位。特に全日本ではもらった位置が想像より後ろだったため、はじめに突っ込んでしまって後半失速してしまった。「10人を抜いて自分の仕事は果たせたかなとは思うんですが、『区間賞じゃないんだ』と言われることもあったりして悔しくて……。1人で走る難しさを実感しました。箱根ではしっかり力を証明したいと思います」。小学2年生から陸上をしている山本だが、ずっと1区にあこがれがあるのだと話す。「走ってみたいなという気持ちはすごくありますが、任された区間で区間賞を取れればいいなと思います」

1人で走る難しさを実感した全日本大学駅伝

山本と平林は、常に同級生として意識しあっている。練習の時も呼吸や走り方を見て、普段と違ったら「あれ、おかしいな」と思ったり、呼吸が乱れていれば「キツイんだな」とわかる。「でもたいていあいつの方が余裕なんですよ」。普段の生活でも平林が山本の部屋によく来て、陸上の話を熱く語られるのだと笑う。「1年目に故障した時になかなか走れなくて、平林の活躍を陰で見てるだけですごい悔しくて。『絶対あいつに勝ちたい』って思いでやってきた部分があったので、それが今に生きてるかなと思います」。強力なライバル同士が切磋琢磨することがチーム内にいい影響をもたらしている。

4本柱の活躍に加え、今年は4年生の藤本竜(北海道栄)、坂本健悟(藤沢翔陵)、川﨑康生(浜松工)もメンバー入り。力をつけてきた同級生に中西は「待ちわびたなという感じ」と顔をほころばせ、藤本は「待たせすぎましたね」とまた笑う。さらにルーキーながら全日本で5区区間賞を獲得した青木瑠郁(1年、健大高崎)など新しい力も台頭し始めている。目標の「3大駅伝表彰台」を達成し、さらにその先へ。新たな道を切り開く國學院の戦いぶりに注目だ。

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