NFLを目指す元アマ横綱・花田秀虎 初のアメフト実戦が国際試合も「自信あります」
アメリカンフットボールの国際親善試合「ドリームボウル2023」が1月22日、東京・国立競技場でキックオフを迎える。全日本選抜とアイビーリーグ選抜の対戦。全日本選抜は過去の国際試合とは違って社会人Xリーグに所属する外国籍選手も含めて構成された。1月3日のライスボウルで戦った富士通とパナソニックの選手たちを中心にXリーグ勢54人、大学生6人で構成。大学生の中にはなんと、これが初めてのアメフトの試合という男がいる。2020年に相撲のアマチュア横綱になった日本体育大学のDL花田秀虎(3年、和歌山商)だ。
100%のパワーを出せないもどかしさ
花田は昨年3月、Xリーグの合同トライアウトに参加して話題になった。「NFLを目指す」と表明し、相撲との「二刀流」生活を始めた。そして昨夏にアメフトに専念すると決め、昨年10月に大学を休学してトレーニングに励んでいた。そして「クロスオーバーアスリート枠」でドリームボウルの全日本選抜チームの第一次候補選手に選ばれ、3日間の練習を経て、学生6人の枠に残った。
いま身長185cm、体重130kg。太ももの筋肉の盛り上がりには驚かされた。さすがに1対1のまっすぐの当たりは強いが、まだ複雑なブロックには対応しきれない。「相撲にはサインがなくて個々の力で勝つことに重きを置いてますけど、アメフトは横のDLとの連携もとって、絶対にサインを間違えちゃいけないし、柔軟な対応も求められます。自分はまだ迷っちゃって本来の力を出せない。もっとフットボールに慣れて100%の力を出せたら、もっともっとアグレッシブにいけるのに、と思う。だからすごくやりきれない気持ちというか、悔しい気持ちがある。いまは成長段階です」
高3春にハンドボール投げで57m
花田は和歌山市内で生まれ育った。小1で柔道とレスリングを始め、小2のときに出た子どもの相撲大会で優勝したのをきっかけに、相撲も始めた。中学生になると本格的に相撲に取り組み、高校時代には世界ジュニア選手権個人無差別級で連覇するなど、数々のタイトルを獲得した。高3春の体力テストのハンドボール投げで学年トップの57mをマーク。末恐ろしい運動能力の持ち主で、その夏の高校野球和歌山大会では、まわし姿で開幕試合の始球式を務めた。
2019年春に日体大に入った。その年の12月の全日本選手権で優勝し、アマチュア横綱となる。大学1年でのアマ横綱は同じ和歌山県出身で、高3から2連覇した日大の久嶋啓太さん(大相撲の元幕内久島海=故人)以来36年ぶり2人目の快挙だった。
注目を浴びながら相撲に打ち込む一方で、アメフトへの思いも持ち続けていた。和歌山にいた中学、高校のころからずっと、テレビでNFLの試合を見ていた。「レスリングと柔道、相撲をごちゃ混ぜにしたようなライン戦にひかれました。カッコよかった」。大相撲の横綱になるという夢を持ちながら、アメフトへの気持ちもなくならなかった。
そして昨年3月、Xリーグの合同トライアウトを受けた。1対1の当たりではアメフト経験者を圧倒。そこから相撲とアメフトの「二刀流」に取り組みながら、いろんな人に会って意見を聞き、考えた。約4カ月後、日体大相撲部の斎藤一雄監督とも相談し、まずはアメフトに専念することを決定。10月に大学を休学した。「相撲では照ノ富士関が29歳で横綱になった。一方で29歳でNFL選手になれるかというと、難しいと思う。だからまずアメフトをやる。若くて脂がのっているところで自分がどれぐらいできるか挑戦したいと思いました」
アメフトだけでなく、英語にも本気
NFLを目指す日々が始まった。週3回、強豪の富士通フロンティアーズの練習に参加させてもらった。かつてNFLに挑戦していた河口正史さんのジムに通い、栗原嵩さんのアカデミーでもトレーニング。法政大学、早稲田大学、東京大学の練習にも入らせてもらった。DLとして初めてトラップブロックを受けたときは衝撃的だった。目の前の敵がいなくなった瞬間、横から来た別の敵に当たられるなんて、相撲ではあり得ない状況だ。「あれは怖かった。『ウワッ』と思いましたけど、当たる寸前に『グッ』と踏ん張って、ぶっ飛ばされずに済みました」。このあたりはさすがと言うしかない。
一方で英語の勉強にも力を入れてきた。「勉強するだけじゃなくて、富士通の外国人選手に積極的に話しかけました。今回の全日本選抜チームの練習でも積極的にコミュニケーションをとって、結構成長しているのを実感しました」。ドリームボウルのレセプションでは、生まれて初めて英語でスピーチした。堂々たるものだった。
全日本選抜の練習では、前々の当たりでは圧倒的な強さを誇った一方、前述のようにさまざまなサインが入ってくると、思いきって動けないシーンもあった。選抜チームでDLコーチを務めるエレコム神戸の時本昌樹ヘッドコーチは花田について、「DLはただ突っ込めばいいというわけじゃないので、一瞬の判断力とスキルの向上が急務だと思います。ただ前々の当たりは非常に強いし、足がよく動くので、ドリームボウルでもチャンスがあれば投入していけると思います」と話した。花田自身は「1プレーでも出られたら、しっかりチャンスをつかめるように準備します。相撲では体重200kgの人ともぶつかってきたので、アメリカの選手にも当たり勝つ自信はあります」と話している。
千代の富士さんが「永遠の目標」
花田は今秋、NFLのIPPプログラム(アメリカ以外の国の優秀なアスリートをNFL入りに導くプログラム)に参加することを第一に考えているが、ほかにもアメリカの大学に編入してNFLを目指す道も視野に入れている。アメリカの4大プロスポーツで、NFLだけは日本人選手が誕生していない。そこも花田にとっては魅力だという。「自分がどこまでやれるのか、自分の限界を見てみたい」
花田が「永遠の目標」と言うのが、元横綱の千代の富士さんだ。「僕が小学生のときに亡くなったので会ったことはないんですけど、めちゃくちゃカッコいい。もしNFLに行ってたら、LBで通用したんじゃないかと言われてますよね。スピード感とか体つきとか、ずっと千代の富士さんを目指しています」
1月22日、異色のフットボールプレーヤーが国立競技場で“初土俵”に臨む。