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特集:New Leaders2023

法政大学・吉尾虹樹 立候補で主将に就任、「結心」を掲げ44年ぶりリーグ優勝を狙う

横浜F・マリノスの吉男海夏を兄に持つ法政大の吉尾虹樹主将(撮影・杉園昌之)

法政大学体育会サッカー部は今季、1979年以来4度目となる関東大学リーグ制覇を目標に掲げ、その先に「日本一」を見据えている。44年ぶりのリーグ優勝を狙う名門の新キャプテンを務めるのは、物静かな雰囲気を漂わせる小柄な4年生だ。練習から声を張り上げて、全体を引き締めるようなタイプではない。横浜F・マリノスの下部組織で育ち、Jリーグで活躍する吉尾海夏(横浜F・マリノス)を兄に持つ吉尾虹樹(新栄)とは、どのような人物なのか。

1年生の頃は、うまくまとめられなかった

キャプテン就任が決まったのは昨年末。吉尾の思いはすでに固まっていた。

「新しい役割分担について、僕がみんなの意見を集めていたので、一番に『キャプテン・吉尾虹樹』と自分の名前を書きました」

書き込みを見た同期からは「なんで、もう決まっているの?」と冗談交じりに冷やかされたが、疑問視する声はなかった。最後まで他の立候補者は現れず、大学1年時から学年のまとめ役を務めてきた吉尾が、当たり前のように信任された。今でこそキャプテンの自覚を持っているが、昔はまったく違ったという。

「正直に話すと、入学して最初は学年リーダーをやりたくなかったんです。高校時代(横浜F・マリノスユース)にキャプテン経験があるという理由だけで、半ばやらされるような形で役職に就きましたから」

1年生のときは学年を統率できずに苦労した(撮影・杉園昌之)

雑務が多かった1年生の頃はうまく学年を統率できず、先輩たちから「この学年は誰がまとめているの?」「大丈夫なのか?」と言われることもあった。性に合わない役割に嫌気がさした時期もあったが、リーダーシップを持った年上のキャプテンたちと話していく中で心境が変化していった。3学年上の関口正大(現・ヴァンフォーレ甲府)、2学年上の田部井涼(現・ファジアーノ岡山)から「お前がしっかりやらないとダメだよ」と直接言われたことは大きかった。

「学年をまとめられない自分がだんだん悔しくなってきて……。年齢を重ねるごとにリーダーとしての責任感が出てきました」

【2022年1月公開記事】法政大・田部井涼主将「自分らしさ」を胸に横浜FCへ、5年後には日本代表へ

田部井涼からのアドバイス

「涼君」と慕う田部井は良いお手本だった。同期や後輩たちと自然体で接し、知らず知らずのうちに人を巻き込み、チームの雰囲気を作っていた。明確な目的を持って練習に取り組む姿勢は、多くの選手たちに良い影響を与えていた。自主トレーニングも1人で黙々とこなすのではなく、後輩たちをさりげなく誘う気配りがあった。

「2年前の総理大臣杯で涼君がケガで出場できなくなったとき、チームは『涼君のためにも勝とう』という空気になり、実際に優勝しました。それくらい、みんなから愛され、慕われる先輩でした。これがキャプテンなんだなと」

田部井とはひざを突き合わせて、話す機会も多かった。ポジションは同じボランチ。一人のサッカー選手としても尊敬している。大学生とプロの関係になった今でも付き合いが続いており、吉尾がキャプテンを務める際もアドバイスをもらった。

「誰かのまねではなく、自分らしく、自分がやれる形で周りを巻き込んで、自分なりのキャプテン像を作っていけばいい」

田部井のことは「涼君」と呼び、兄のように慕う(提供・法政大学サッカー部)

吉尾は先輩の助言通り、今まさに自分らしいキャプテン像を作り上げているところだ。もともと大きな声を出して、チームの士気を高めるタイプではない。言葉の数は少なくても、真摯(しんし)に取り組む姿勢を見せ続け、模範になろうとしている。

「僕は背中で引っ張っていくつもりです。練習に全力で打ち込む僕の姿を見て、周りのチームメートたちも『俺もやらないといけない』と思ってもらえればいい。少しでも思いが伝わるように、あえてアクションは大きくするようにしています(笑)」

忘れたことがない古巣・マリノスへの恩

ピッチ内では3年時から主力のボランチとして活躍し、攻守両面において存在感を示している。今春には関東大学選抜Bのメンバーに選出され、デンソーチャレンジカップではゴールもマークした。今季はゲームを組み立てながら、点を取りに行くことを意識している。

「大学では今の自分には何が足りなくて、何をしないといけないのかを分析し、取り組めるようになりました。細かい部分にも疑問を持ち、改善策を考える力がついたと思います」

自らのプレー映像を見返し、今年3月からはランニングフォームの修正にも着手。ボールホルダーに寄せる速さ、ドリブルスピードの向上に精を出す。Jリーグで通用するボランチを目指し、レベルアップに余念がない。

Jリーグで通用するボランチを目指し、日々練習している(撮影・杉園昌之)

卒業後はプロの世界を志望している。ユース(高校年代)からトップチームに昇格できなかったが、横浜F・マリノスへの思いは今も昔も変わらないという。小学校4年生から高校3年生まで9年間在籍し、自らのサッカーの土台を築いたという古巣への恩を忘れたことはない。まだどのクラブからも内定をもらっていないものの、今の自分ができることに集中している。

「下級生の頃は同学年の活躍を見るたびに『俺は何をやっているんだ』と焦り、空回りしていました。そのせいでケガをしたこともあります。でも、最近はSNSなどで他人の内定情報が目に入ってきても、昔ほど気にしなくなりました。周りに惑わされず、自分にフォーカスして、プロ入りした(田部井)涼君をはじめとする先輩たちを見てきましたから。周囲から刺激は受けても、動じずに僕なりに進んで行こうと思います」

周りに惑わされることなく、自分のできることだけにフォーカスする(提供・法政大学サッカー部)

まずは「仲間同士で深い信頼関係を築く」

キャプテンとして迎えるラストイヤーに懸ける思いは強い。同期の仲間たちと話し合って決めたスローガンは「結心(けっしん)」。半世紀ほど遠ざかっている関東大学リーグのタイトルに向け、心と心を結び、全員で勝利を目指す。近年は2018年度にインカレを制し、2021年度には総理大臣杯で優勝しているが、年間を通した戦いでは結果を残せていない。

「大学最後のシーズンは笑顔で終わりたい。カタール・ワールドカップでベスト16に入った日本代表を見て、改めて感じました。対戦相手よりも、結果よりも、まずは仲間同士で深い信頼関係を築くことが重要なんだと。一体感を大事にして戦っていきたいです」

関東大学リーグは4月1日に開幕したばかり。熱いハートを持つ静かな主将は、心でつながるチームワークを築き、一つずつ勝利を重ねていくことを誓う。

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