サッカー

インカレ初優勝!桐蔭横浜大の指導方針 安武亨監督「大学は育成、プロを育てる」

全日本大学サッカー選手権で初優勝を決めて喜ぶ桐蔭横浜大の安武亨監督(左端下)や選手、スタッフら(すべて撮影・勝見壮史)

第71回全日本大学サッカー選手権大会 決勝

1月1日@国立競技場(東京)
桐蔭横浜大学(関東第4代表)3-2 新潟医療福祉大学(北信越第1代表)

勝負どころで、勝てない――。

桐蔭横浜大学サッカー部の課題は明確だったという。安武亨監督(44)は笑う。「僕が(チームを)勝たす戦術を持っていたら、やってますけど。持ってないんで」

ただ、あくまでチームとしての課題だ。部の指導方針からしたら、当然のことだったとも言える。

「大学は、育成です」

プロ内定13人でつかんだ頂点

2023年1月1日に決勝があった全日本大学選手権。桐蔭横浜大としては最多となるプロ内定者13人を擁して挑み、初めて頂点に立った。

強いチームを作るための指導はしない。むしろ、発想は逆だ。「プロになる選手が10人以上も出たら、日本一を取りますよね。そういうチーム作りをしています」

これまで、勝負を捨ててきたわけではない。でも、直近の試合に勝つための対策は「二の次」だという。「相手に合わせた練習は、したことがない」。CKやFKの練習も最小限しかしないから、セットプレーからの得点は少ないという。それでも、意に介してこなかった。

安武監督の狙いは、はっきりしている。「個人がどう伸びるか。個を第一に考えている。プロを育てる。私たちはそれを売りにしている。プロ選手が出ないと、いいところはなくなっちゃうんで」

プロ内定者13人を擁して挑んだ

風間八宏さんが築いた礎

2013年に初めて関東大学リーグ1部に参戦した。歴史も実績もある大学がそろう関東大学リーグでは「新興勢」で、存在感を示すには独自色が必要となる。個の力を伸ばす。それが桐蔭横浜大の売り文句だった。

サッカー部の礎を築いたのは、元川崎フロンターレ監督の風間八宏さん(現・セレッソ大阪スポーツクラブ・アカデミー技術委員長)だ。1998年、監督に就任し、本格的に部の強化が始まった。安武監督は、教え子の一人だ。

風間さんと言えば、2012~16年まで川崎の監督を務め、今の常勝チームになる土台を作ったことで有名だ。「ボールを保持し続ければ、失点しない」。cm、mm単位まで意識して、ボールを扱う。止めて蹴る、正確な技術を徹底的に選手たちに求めた。

安武監督は学生時代、風間さんの薫陶を受けていた。

11人に個性があり、相手の11人を上回っていれば戦術なんていらない、負けるわけがない――。「私たちのときは個性がなくて、負けてしまいましたけどね。教わったことを、しっかり体現できればと思っています」

安武監督(右)は風間八宏さんから受けた教えを指導に生かしている

「個」を生かし切った決勝ゴール

OBのDF山根視来(29)やMF橘田健人(24)はいま、川崎で主力として活躍している。19年には全日本大学選手権で準優勝。桐蔭横浜大は今や、大学サッカー界で、きらりと光るチームになっている。

23年の元日に全日本大学選手権で初優勝できたのも、個を生かした上での成果だった。エースFW山田新(4年、川崎U-18)の抜群のスピードを生かした攻撃が、何よりも相手の脅威になった。

パスやドリブルが得意な選手が多く、丁寧にボールを保持して攻めてばかり。かつて桐蔭横浜大はそんなチームだったという。そこに縦への速い攻撃が加わった。「山田新を見逃すな」。安武監督は選手たちに、そう呼びかけた。あくまで、山田の持つ強い個の力を発揮させるためだ。

FW山田とピッチを見守る安武監督

点の取り合いとなった決勝。2-2で迎えた後半の追加時間に優勝を決めるゴールを決めたのは、その山田だった。速攻から、縦パスで抜け出したエースストライカーは、見事なミドルシュートをネットに突き刺した。

山田は誇った。「決勝という大一番で、ラストプレーに近いようなところで決めきる力、メンタリティーは成長したのかなと思う」。確かな手応えをつかみ、育成組織で所属していた川崎へ加入する。また一人、有望な「個」が、巣立っていった。

決勝ゴールを奪ったFW山田(左から2人目)を中心に喜ぶ桐蔭横浜大の選手たち

安武監督はいう。「出発点は、風間さんです。同じように出来てるかはわからないですし、風間さんがやったら、もっとすごいと思います。でも、風間さんがおっしゃっていることは間違いないだろうと、そう信じてやってます」

日本一という栄冠を手にしても、きっぱりと言った。

「勝つのは、プロでやればいい」

桐蔭横浜大のモットーは変わらない。

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