明治大学サッカー部、築30年の寮が生んだ「チームワーク」、新寮へつなげる伝統
16人部屋が一つ、8人部屋が三つ。そこで全部員が暮らす。そんな生活が3月末まで続いてきた。明治大学体育会サッカー部。今春、選手らが新しく完成した寮に移った。取材にうかがったところ、明治大の強さの要因の一つが、寮で培った「コミュニケ-ション能力」にあることがわかった。
2022年度、大学サッカー界で明治大学の躍進が目立った。コロナ禍で変則日程となった昨年の関東大学リーグで2年連続6度目の優勝。アミノバイタルカップ準優勝、総理大臣杯ベスト8、インカレベスト16と好成績を残し、チームから6人が、Jリーグに進んだ。勝利の要因の一つが、全寮制で生活を共にしてきた部員が培ってきた「一体感」だ。
どんな暮らしをしてきて、今新たな寮で何を思うのか。旧寮で3年を過ごした主力の4年生4人に聞いた。
伝統の16人部屋・8人部屋、そこで培われた力
明治大学八幡山グラウンドのそばに2階建ての旧寮がある。3月末まで約40人が大部屋で暮らしてきた。1990年8月、同じ場所にあったサッカー部の寮が漏電で全焼。94年に寮が建て直された。
2階には16人部屋と8人部屋。それぞれの大部屋に1-4年生がバランスよく配置され、集団生活を営んだ。部屋には寝台列車のような2段ベッドが並び、個人の空間はベッド周りだけだった。1階にあった食堂には、壁には古く色あせた年ごとのシーズンインの写真が並べてあった。
「みんなでワイワイっていうのがすごいプラスに」
3年間ずっと16人部屋で過ごしてきた佐藤恵允(けいん)副主将は「最初は本当に驚きました。入った時はすごい緊張したことを、今でも覚えています。でも、16人が一緒に生活しているとコミュニケーションとかもういっぱい取れてすごい有意義だった。一体感を作るっていう意味ではすごい。みんなでワイワイっていうのはすごいプラスでした」と振り返る。
井上樹(みき)主将も「下級生と上級生が一緒になって生活していたことが一体感を生んでチーム力につながりました。例えば試合に勝った時はみんな元気だし、負けて帰ってきた時も、やっぱりみんながいるわけで、寮母さんたちが作ってくれる温かい食事をみんなでたべるわけです。それが励みになってまた次頑張るって感じがある」という。
「引っ越しの時は、本当に移るんだなとちょっと切なかった」
村上陽介副主将は8人部屋。食堂での部内の仕事、下級生の時にみんなで毎日掃除をしたことが印象深いという。
「部屋でみんなで盛り上がった『人生ゲーム』や、ワールドカップをみんなで応援した食堂。思い出がすごく詰まっている寮なんです。やっぱり8人もいると、たわいもない話がいろいろなところで始まって盛り上がりました。だんだん愛着が湧いて。3月末に引っ越した時は、寂しさがありました。空になったベッドと部屋見た時に、あー、本当に移るんだなと実感が湧いてきて、ちょっと切なかった」
久保賢也寮長も「食事を作ってくれる寮母さんのところにいって、今日は何かなとわくわくしていました。グラタンが好きで、たまにステーキなんかでるとテンションあがりましたね。あと、大部屋なので上下関係が薄くなって相談しやすい。私はゴールキーパーですが、1年時には4年生の先輩に色々と相談しました。仲がよくなって、横を通ると話しかけてくれたりしました。一緒に暮らした16人は一生の貴重な仲間です」。
ミーティングルーム新設・トレーニングルーム…新寮は最高の環境
築30年の旧寮に代わり、新たなに整備された新寮は、今春完成。3月末に引っ越しをした。
旧寮から歩いて数分。3階建てでこれまでの大部屋とは違って2人部屋が基本。学習スペースもある。風呂も大きく、水風呂もあり、温かいお湯との交代浴もできる。旧寮にはなかったミーティングルームでは、全部員が集まることができる。マネージャー室も新たにできた。
玄関を入ってすぐ右手には、近年の好成績を示すトロフィーや賞状が並ぶ。その奥にはガラス張りでさまざまな真新しい機器がならぶトレーニング室があり、選手が思い思いに体を動かしていた。
「新環境でいかにコミュニケーションをとっていくかがポイント」
誰が見ても最高の環境だ。一方で、選手も監督も新寮での課題は十分すぎるほどわかっている。今まで、わいわいいいながら大部屋で培った「一体感」をいかに新寮で作るかということだ。そのためのミーティングルーム新設でもある。
佐藤副主将は「新寮に移りガラッと変わって、本当にいい環境です。ここでは、コミュニケーションっていうのが一つの鍵。2人部屋で自分の時間が多くなった中で、同期との横のつながり、先輩後輩の縦のつながりのコミュニケーションをどうつくっていくか。今年のポイントです」と指摘する。
栗田大輔監督「新たな人づくりがここから始まる」
旧寮前の全焼した寮に住んでいた栗田大輔監督は「OBの人は全国にいるし、その時代その時代の人たちの思いと歴史が、寮には蓄積されてきました。旧寮から移ったことは、正直寂しい思いはあります。一方で、新寮は全国に誇れるようなすばらしい施設。ここから新たな人づくりが始まると思っています。人と人とのつながりから、他人のことを気遣えあえるような関係。それがピッチでも生きる。人づくりの大きなテーマです。新寮ではコミュニケーションをとるため、ガミガミおやじになります。気づいたことはどんどん言っていきます」と笑顔を見せた。
旧寮への思いを胸に、新寮での生活を始めた選手たち。新たなページを刻みはじめた彼らがどのように成長していくのか。取材を受けてくださった4選手の思いを改めて。
井上樹主将「新しい良き伝統を作っていきたい」
井上樹主将
「先輩方が築き上げてきた素晴らしいものを大切にした上で、今度は自分たちが新しい良き伝統を作っていきたい。新寮は2人部屋で自分の時間が増えるので、一体感を生み出すために定期的にミーティングをしたり、食堂でご飯たべながら会話を増やしていきたい。今季、チームはタイトル獲得を目標としています。チャレンジャー精神で思い切ってプレーし、勝利につなげたい。リーダーシップをとり、戦う姿勢を見せたい」
佐藤恵允副主将
「昨年に引き10番ですが、去年の自分を超えたい。ゴールで2桁得点、アシスト数も2桁が目標です。プラスやっぱり最高学年として、5冠に向けて、自分がもっと成長して引っ張っていきたい。将来の目標は、2024年のパリオリンピック、2026年のワールドカップに出場して活躍し、大卒プロの先駆者になれればうれしいです」
村上陽介副主将「今年は絶対に結果を残す」
村上陽介副主将
「タイトル取りたいです。個人としてはディフェンスなので失点数にこだわりたい。来季からJ2大宮アルディージャ加入が内定しています。J1昇格の原動力となる選手になることが、来期からの一番の目標。そのためにやっぱり今年は明治で絶対を結果残して、明治に恩返していきたいです。個人的な話ですが、ここが地元なんです。実家もここ(グラウンド)から数分。八幡山小学校の通学路で横を通っていて、よくサッカーやってるのを見ました。憧れみたいなのもあって。佐藤(副主将)も同じで小さいころから一緒です。今まさにここでサッカーやっていけるのはもう本当に幸せです」
久保賢也寮長
「旧寮は歴史もあり、明治をつくってくれてありがとうと言いたい。寮長には自分から立候補しました。新合宿所になって、環境が変わっていく中で、いかにサッカーに集中できる環境をつくるかが自分の仕事です。強い明治として、これからもチームとしての目標を達成していきたい。旧寮では、時間や物の管理といった規律や本当に細かいルールがたくさんあって、生活面でも隙がなかった。それがサッカーにも現れて、隙のないプレーにつながっていました。自分も厳しい規律のなかで、自分で考えて生活していた。いいところは受け継いで、改善するところはして、新たな環境をつくっていきたい」