近畿大学・能勢涼太郎 公立高校から競技を始めた「ビッグマン」、ついに世界の舞台へ
決して強豪ではない公立高校からラグビーを始めた選手が、ついに世界の舞台でデビューを飾った。
6月末から南アフリカで開催されるU20世代の世界大会を控え、大学2年生を中心としたラグビーU20日本代表は5月、「ジュニア・ジャパン」としてサモアに遠征。「ワールドラグビー パシフィック・チャレンジ2023」で格上のU23世代のフィジー代表、トンガ代表、サモア代表と対戦した。
日本ラグビー協会のプロジェクトで発掘された才能
初戦のフィジー・ウォーリアーズ戦こそは控えからの出場だったが、2戦目のトンガA代表戦では「4」を背負って先発し、52-17での勝利に貢献したのが身長197cmで近畿大学のLO(ロック)能勢涼太郎(2年、川西北陵)だ。3試合目のマヌマ・サモア戦は逆転負けを喫したが、能勢は再び先発して気を吐いていた。
「桜のジャージーを背負って、世界で戦うことを目標にしていたので(遠征メンバーに選ばれて)うれしいです!ラインアウトキャッチは武器ですが、見た目よりも足が速いのでボールキャリーでもチームに貢献したい」と語った。
兵庫県南東部の猪名川町出身。父、母、弟と家族の中にラグビー経験者はいなかった。本人も中学までサッカーをしていた。ただ川西北陵高校に入学したとき、「楽しい部活に入れたらいいな」と思い、すでに身長が190cm近くあったことから、ラグビー部から熱心な勧誘を受けて入部した。
川西北陵高校のラグビー部は「花園」に出場したことはなく、兵庫県でベスト4にもなかなか入れない、決して全国的な強豪とは言えない高校だった。そんな能勢に転機が訪れたのは、高校1年生だった2019年12月のことだった。
日本ラグビー協会の才能発掘プロジェクト「TID(Talent Identification/人材発掘・育成)ユースキャンプ」の一環として、2018年から始まった「Bigman & Fastman Camp(ビッグマン&ファストマンキャンプ)」に呼ばれた。所属高校に関わらず、大きい、高い、速いといった将来有望な選手で合宿を行い、強化と育成が目的のプロジェクトだ。
周りは「花園」経験者ばかりの合宿
リソースコーチとして、このプロジェクトの先頭に立って引っ張ってきた元日本代表の野澤武史氏は、たまたま神戸村野工業ラグビー部の平位篤志監督と花園の兵庫県予選のパンフレットを見ていたという。「ものすごい大きな選手がいて、しかも動画を見ると動ける。(日本ラグビー界の)宝だと思いました」と野澤氏は懐かしそうに振り返る。
能勢は野澤コーチらから「絶対に高校日本代表になれるよ!」と励まされながら、プロジェクトに参加しつつ、ラグビーに打ち込んだ。
チームとして全国大会に出場することはできなかったものの、能勢は高校日本代表候補合宿に参加。周りはほとんどが花園に出場した強豪校出身者ばかりの中、U19エキシビジョンマッチにも出場した。
高校日本代表の合宿を通して、当時はまだラグビー経験が3年に満たなかった能勢は「自分としては一生懸命やっていたが、(強豪校の選手は)ラグビーへの取り組む姿勢が違った。ラグビー以外で学ぶことが多かった」と振り返った。
二つの大きな将来の夢
大学はFWの強さで知られる近畿大学に進学した。「高さの強みじゃ試合に出られない。低さやハンドリング技術、基礎的なところを向上させていきたい。またコンタクトレベルもまだまだなので、1、2年ではフィジカルを強化して3年生から活躍できればいいかな」というプランを立ててラグビー部に入部した。
体重93kgで入学した能勢は、寮生活を送る中、この1年間で104kgまで増やした。控えからだったが1年生ながら2試合、関西大学Aリーグにも出場を果たした。さらに2月から、5回にわたるU20日本代表候補合宿に参加し、成長した姿を見せて「ジュニア・ジャパン」に選出。サモア遠征に向かった。
能勢は将来について「リーグワンのチームでプレーし、日本代表に選ばれてワールドカップで活躍したい」と意気込む。若干20歳。伸びしろしかないが、今から明確にセカンドキャリアのことも意識している。
「少し偉そうに見えるかもしれませんが、『Bigman & Fastman Camp』で野澤さんに見ていただいたからこそ、僕は今、ここにいます。日本代表でプレーして選手として満足したら、野澤さんの下で自分も見つける側になって指導したい。僕の経験を伝えて、もっと日本ラグビーが成長できるように貢献したい」
最近、身長197cmを超えたという〝ビッグマン〟は、二つの大きな夢を抱きながら、今日もラグビーに打ち込んでいる。