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特集:あの夏があったから2023~甲子園の記憶

佛教大学・大橋大翔 山田陽翔と固い絆のバッテリー、経験を糧に再び輝く日を目指して

近江時代、西武の山田とバッテリーを組んだ佛教大の大橋(撮影・沢井史)

昨春の第94回選抜高校野球大会で準優勝を果たし、夏に目指すものは一つだけ。そう決意を固め、佛教大学の大橋大翔(1年、近江)は甲子園に乗り込んできた。「甲子園は……今、思うと負ける気がしなかったです」。春に5試合を戦っていただけでなく、バッテリーを組んだ不動のエース・山田陽翔(現・埼玉西武ライオンズ)の存在もあったからだろう。

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接戦も「しんどくない」と思えた手拍子

近江は初戦から難敵との対戦が続いた。1回戦の相手は、春の選抜で優勝した大阪桐蔭に善戦した徳島・鳴門。エース左腕の富田遼弥(現・國學院大1年)を攻略できず、四回まで1-2と劣勢だったが、五回に5番打者の横田悟(現・近江高校3年)に走者一掃の逆転適時三塁打が飛び出し、試合をひっくり返した。一方で大橋は四回のチャンスで三振を喫していた。七回に試合を決定づける適時打を放ったが「陽翔に『四回に打てよ』って言われました」と苦笑する。

2回戦は強打の山形・鶴岡東と激しい打撃戦を繰り広げ、3回戦は好投手・宮原明弥(現・専修大1年)を擁する長崎・海星(長崎)と終盤まで投手戦を演じた。好チームとの対戦ばかりが続いたが、近江には大きな味方がいた。

「攻撃の時、すごく手拍子が大きかったです。甲子園は近江への声援がすごかったので、接戦になってもそこまでしんどいというのはなかったんです」

甲子園では接戦が続いたが大声援が後押しした(撮影・柴田悠貴)

浅野翔吾には山田陽翔の全球種を打たれた

準々決勝で対戦したのは香川・高松商。注目の強打者・浅野翔吾(現・読売ジャイアンツ)には、とにかく圧倒されたという。「実は浅野君には、陽翔の全球種を打たれたんです」。特に今でも記憶に残っているのは三回、バックスクリーンに打たれたホームランの残像だ。

「真っすぐがシュートして中に入ってしまって、ドンピシャでとらえられたんです。陽翔はセンターライナーだと思ったみたいです。でも僕は完璧だと思いました。あんな打球は初めて見ました」

快音とともにセンター方向へ飛んだ打球は、マスク越しから見ても衝撃的だった。山田に限らず、左翼手の川元ひなた(現・神戸学院大1年)もセンターライナーだと思ったという。五回に許した左前安打も、大橋にとっては打ち取ったつもりだった。やはり浅野のスイングが強かったのだろう。打球音は今まで聞いたことのない音だったという。

「足も速いし、今まで対戦した打者では一番すごい選手でした。でも……」

大橋はふっと笑う。

「八回の途中に陽翔から星野(世那、現・大阪商業大1年)に継投したんですけれど、浅野君と対戦する場面で何となくスライダーのサインを出したら星野は抑えることができて(左飛)。分からないものですよね」

自身はこの試合で2本のタイムリーを含む、4打数3安打2打点とバットでチームに貢献した。「自分の時はなぜか真っすぐしか来なかったんですよ」と苦笑いするが、何よりうれしかったのは、盗塁を2度阻止して小森博之コーチに褒められたことだったという。

「勝てたのはお前が盗塁を刺したからやぞって言っていただいて。めったに褒めてもらうことはなかったので、それが一番うれしかったです」

下関国際戦で盗塁を阻止する大橋。強肩も武器だ(撮影・金居達朗)

滋賀に戻ってから夏休みは2日間だけ、でも……

何より、大会屈指の好右腕と言われた絶対的エースをリードするということは、相当なプレッシャーでもあっただろう。経験値でもはるかに上をいく山田をリードする上で、様々なジレンマがあった。

「入学した時から陽翔は僕らの学年の中心的存在でした。下級生の時から自分で『俺がキャプテンやらないと』みたいな話はしていましたね。だから、僕から強いことはあまり言えないです(苦笑)。ブルペンでいい球がなかったら陽翔の機嫌が悪くなることもあるのですが、それでも『今日はどうだった』とか色々言わなきゃいけないんですよ」と笑う。

普段の立場がどうであれ、バッテリーを組む以上は何らかのアクションを起こさなければならない。

「僕が対戦相手の映像を見てデータを取って、伝えるべきことは陽翔に伝えていました。聞いてはいたと思いますが、実際は軽く流されていたような……(苦笑)。でも、選手の特徴うんぬんは試合が始まって、ベンチで相手を見ながら情報を共有していました。(事前に)ガチガチに情報を手に入れても、頭には入らなかったと思うので」

試合になれば、ガッチリと絆で結ばれたバッテリーだった。夏は準決勝で敗れ、後一歩のところで日本一を成し遂げることはできなかったが、今でもあの経験は何にも代えがたい財産となっている。

「去年は春夏合わせて10度も甲子園で試合をさせてもらいましたけれど、甲子園で試合ができるのはうらやましいですね。今はもう、甲子園で試合をすることはあり得ないので。でも、甲子園が終わって帰ってきたら、夏休みが2日しかなくて、すぐに学校が始まったんですよ。それでも甲子園は毎試合、本当に楽しかったです」

高松商戦ではバットでもチームの勝利に貢献(撮影・金居達朗)

ブルペンで「山田に比べたらしょぼいけれど」

佛教大に進み、今は土台作りの日々だ。

「ブルペンでピッチングを受けるたびに、先輩から『山田に比べたらしょぼいけれど』ってよく言われます(苦笑)。それは気を遣います。大学では新人戦でもベンチに入れていないし、まだまだこれからです」

高校時代より体重が5、6kg減ってしまい、昨夏の姿から見るとややほっそりした印象を受ける。「食べているつもりなのですが、なかなか太らなくて。今、一人暮らしをしているので、食事の面が少し大変ですね。これからは、まずB戦の試合に出られるように、しっかり下地を作っていきたいです。そこからメンバーに入ることが目標です。関西の他のリーグにもチームメートがいるので、いつか対戦したいです」

高校時代の経験を糧に、再び輝く日を目指して奔走している。

昨春の選抜でサヨナラ本塁打を放ち、ガッツポーズ(撮影・金居達朗)

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