野球

明治大学・宗山塁 世代トップランナーが初めて本音を漏らした日

今春は苦しみながらもチームの優勝に貢献した宗山(すべて撮影・明大スポーツ新聞部)

今春、東京六大学リーグで戦後初の3連覇を果たした明治大学。黄金期の到来を予感させる優勝は、宗山塁(3年、広陵)を抜きにして語ることはできない。1年秋から正遊撃手に定着した宗山は、2年春に打率4割2分9厘をマークして首位打者のタイトルを獲得。続く秋も全試合に3番打者として出場し、チームの顔となった。

華麗な守備でも観客を魅了し「(ボールの)握り替えはどうしたら速くなるか、と聞かれることがあるんですけど、自分はもともと速かったので分からないんですよね」と笑う。大学日本代表でも正遊撃手を務め、来年のドラフト1位候補とも目されている。しかし上級生として迎えたこの春のシーズンは、苦しい道のりが続いた。

チームは首位を走る中、試行錯誤が続いた春

51打数15安打で、打率2割9分4厘――。3番打者としては及第点に思えるこの数字。しかし、宗山は歯がゆい思いをしていただろう。規定打席に到達しながら打率3割に届かなかったのは初めてのことで、2年のときは春秋合わせて7本を放った本塁打は、1本も出なかった。シーズンを振り返った宗山が、反省点として真っ先に挙げたのは開幕週の東京大学戦だった。

相手投手陣の直球に詰まり、低めの変化球にバットが空を切った。象徴的だったのは2回戦の第4打席。同点の八回、一塁に俊足の飯森太慈(3年、佼成学園)を置き、飯森は初球で二盗を成功させた。一打勝ち越しのチャンス。しかし宗山は2球目を打ち上げ、力のない二飛に倒れた。ピンチを脱し笑顔を見せる東大ナインと、わずかにうつむいた宗山のコントラストは、これまで見たことがない光景だった。

「もちろん相手も崩しに来るんですけど、結果が出ないことの直接的な原因は自分にある割合の方が高いと思うんです。打つのはほんの少しのきっかけで良くなるので、それを探し続けるだけです」。首位を独走したリーグ戦期間中も、試行錯誤の日々が続いた。

世代を代表する遊撃手として「来年のドラフト1位候補」の声も挙がる

不調でも、勝負どころで見せた集中力は昨年以上

では不振に陥った宗山は、チームの足を引っ張ったのか。答えはノーだ。苦しみながらも、勝負どころで見せる集中力は昨年以上のものが見えた。今春唯一敗れた慶應義塾大学との3回戦。明大は序盤に2点を先行したが、中継ぎ陣がつかまり終盤に計5失点。3点を追う九回、宗山は無死一、二塁の好機で打席に立った。点差を考えれば、犠打ではなく強攻策で走者をためたい場面。初球ファウルの後、落ちる変化球を3球連続で選球しカウント3ボール1ストライク。ここで直球に狙いを絞り、中前に打球を運んだ。点差は追いつけずとも、彼の類いまれな野球センスや状況判断力が発揮された打席だった。

「正直今までは自分勝手で、不満が態度に出てしまうことがよくありました。でも今は立場的にも、試合中の表情とか結果が出ない時の様子を絶対に見られていると思うので、苦しくても我慢するようにしているんです」。今春、宗山にとって最大の変化は、この言葉が表している通り、チームを背負うリーダーとしての自覚が見られるようになったことだろう。シーズン中は自身の凡打を嘆くより、チームの勝利を喜び、次戦への不安より自信を語った。常に隙のないこの男のテンプレートのような「答弁」も、それこそが彼のスタイルであり、たとえ人間味に欠けつまらなくとも、その一言一言が野球選手としての覚悟である。

ここ一番の集中力は昨年以上のものがあった

リーグ最終週となった立教大学戦。首位打者のタイトルがかかっていた飯森が田中武宏監督から交代を打診された際も、逃げずに出場し続けることを求めた。「タイトルを取ることが全てではないですし、そこで逃げて首位打者になっても意味がないと思ったので、太慈(飯森)にはそう伝えました」。調子が上がらずとも弱みを見せず、仲間を鼓舞する姿は、まさにチームリーダーだった。

あくまで「1球を大事に」がスタイル

昨年度からの主軸が残り、新戦力も台頭した今季の明大は、見事に春のリーグ戦を制した。宗山もシーズンが終盤へと進むにつれて少しずつ状態を上げ、チームは全日本大学野球選手権に進んだ。

初戦となる2回戦の相手は首都大学リーグの覇者・日本体育大学だった。投打にタレントがそろう難敵にも、二回に上田希由翔(きゅうと、4年、愛産大三河)の3点本塁打などで6点を挙げた明大が、7回コールド勝ちを収めた。宗山も適時打を放ち、勝利に貢献。危なげない試合運びだったが、忘れられないのは試合後の取材会見場での宗山の姿だった。

記者の質問に一通り応じた後、「この春はシーズンを通じて思うような打撃ができていなかったと思うが」という少し意地悪な質問が飛んできた。この質問に彼は、いつものような模範解答ではなく、心に秘めてきた等身大の本音を語った。「そう……ですね。バッティングって昨日今日で一気に悪くなるものではないと思うんです。だとすると、ここまでやってきたことだったり、自分の意識の中にどこか間違いがあったんじゃないかと」。ほんの一瞬、表情が曇った。「去年は長打が増えて、ホームランも打てたんですけど、それで自分もそういう当たりを打てるんだと勘違いして、少しずつスイングが大きくなってしまっていたんです。あくまで『1球を大事に』っていうのが自分のスタイルで、その結果が長打になっていただけなのに、今思えばそこの捉え方が間違っていました」

普段は決して弱音を吐かない宗山の言葉はより重く、「なぜこれまで気づけなかったんだ」と悔しげな語り口には真実味があった。

大学日本代表でも正遊撃手を務めた

黄金期のチームの中心に座る宗山からにじんだ覚悟と本音。苦しかったこの春も、きっと全てが財産になる。仮に数字のみを見て今季の彼を不調と評するならば、それは大きな間違いだ。

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