野球

明治大学が85年ぶりの3連覇! 苦戦の後、監督から言われなくても行動した選手たち

3季連続となる優勝を決め、マウンドに集まる明治大の選手たち(撮影・安藤仙一朗)

東京六大学野球2023春季リーグ戦

4月8日~@明治神宮野球場(東京)
優勝 明治大学(3季連続43回目)
4月8日   ○3-2 東京大学
4月9日   ○6-3 〃
4月22日 △0-0 慶應義塾大学
4月23日 ○5-1 〃
4月24日 ●4-5 〃
4月25日 ○5-2 〃
4月29日 ○5-4 法政大学
5月1日   ○3-0 〃
5月13日 ○15-4 早稲田大学
5月14日 ○6-3 〃

東京六大学野球の春季リーグ戦は、明治大学が3季連続43度目の優勝を決めた。明大の3連覇は1937年春~38年秋の4連覇以来、85年ぶり。圧倒的な強さで2週を残して頂点に立った「猪軍団」。強さを裏打ちしていたのが、熾烈(しれつ)なチーム内競争だった。

チーム打率・チーム防御率ともに1位

シーズン通して盤石な戦いぶりだった。それは数字が示している。明大はチーム打率が1位なら、チーム防御率も1位の成績を残している(残り1カードを残した第6週終了時点。以下の成績も同様)。

これは投打ともに軸となる選手が活躍した証しとも言えよう。攻撃陣では、主将で4番の上田希由翔(きゅうと、4年、愛産大三河)が打率4割、打点10をマーク。1、2番コンビの堀内祐我(4年、愛工大名電)と飯森太滋(3年、佼成学園)はいずれも高打率を記録し、打線に流れをもたらした。中でも特筆すべきは現在首位打者の飯森で、短く持ったバットからしぶとくヒットを放つ一方、50m5秒9の快足を活かし、リーグトップの7盗塁を決めている。

投手では、今年から明大のエース番号「11」を背負った村田賢一(4年、春日部共栄)が、安定感のある投球を続けた。打線との絡みで勝ち星こそ2勝にとどまるが、引き分けに終わった慶應義塾大学との1回戦では9回を無失点、法政大学との2回戦では完封している。0点台の防御率もさることながら、37回を投げて与えた四死球が4という制球力こそ、村田の真骨頂だ。ベンチからすれば、これほど計算が立つ投手はいないだろう。フィールディングの良さにも定評があり、投手ながら打撃力も高い。

明大のエース番号「11」をつけた村田(撮影・井上翔太)

代打や初スタメンの選手が大仕事

一方で、週末を中心に試合が行われるリーグ戦は期間が長く、中心選手やレギュラーの状態がいつもいいとは限らない。層が厚い明大にはそこを埋められる選手がいた。2カード目の慶大との1回戦では、代打に起用されたルーキーの内海優太(1年、広陵)が、試合を決める勝ち越し2ランで応えた。すると3カード目となる法政大学戦でも、1回戦で代打策が的中。木本圭一(2年、桐蔭学園)が決勝点となる逆転2ランを飛ばした。

代打に起用された選手が大仕事をやってのける。田中武宏監督によると、2月のキャンプから故障者が出ておらず、全ての選手がいつか来る出番に向けて「準備」をしていることが、こうした結果につながっているという。

めぐってきた出場機会で「大仕事」をしたのは、代打で起用された選手だけではない。「初スタメン」の選手がヒーローになったのが、連勝すれば優勝が決まる早稲田大学とのカードだ。1回戦では今井英寿(2年、松商学園)が本塁打を含む4安打4打点と大暴れ。2回戦は杉崎成(3年、東海大菅生)が3安打3打点と快音を響かせた。

つまり8勝のうち4勝は、「代打」と「初スタメン」の選手が大きく貢献したことになる。

開幕戦に神宮デビューを飾ったルーキーの内海(撮影・井上翔太)

実績のある選手にも代役はいる

代打や初スタメンの選手が活躍できるのは、それだけチーム内の競争が激しいからだ。田中監督は「明大に入りたい、という高校生と面談する時は、ウチはレギュラー争いが熾烈だけど、それでも大丈夫? と念を押すんです」と言う。

もちろん代役や抜擢(ばってき)した選手が結果を出す裏には、選手の状態を見極める田中監督の目もある。内海、木本、今井、杉崎と、彼らは出せばやってくれるはずという信頼があったのだろう。「朝の5時半から選手の練習を見てますからね。よくわかっているつもりです」と田中監督は笑う。

一方で、レギュラーや実績がある選手は安穏としていられない。背後には常にポジションを奪おうとする選手の影があるからだ。結果を出さなければ、代わりの候補は何人もいる。

そこに例外はない。昨春4勝を挙げて優勝の立役者となった蒔田稔(4年、九州学院)も同様だ。東京大学との2回戦で2回2失点と先発の役割を果たせず、田中監督の信頼を失いかけたという。

優勝インタビューを受ける田中監督(撮影・大宮慎次朗)

危機感を感じた蒔田は、これまでにないほど追い込んだ練習をするなど、田中監督に猛アピール。なんとか慶大との2回戦で先発のチャンスを得ると、6回1失点の好投を見せた。蒔田は法政大学戦の前も、田中監督が根負けするほどアピールを重ね、1回戦の先発投手になっている。早大戦での先発はなかったが、田中監督いわく「相変わらず無言の主張をしてくるから(苦笑)」と、2回戦の締めを任せ、蒔田は「優勝投手」になっている。

「毎試合、死に物狂いでした」

明大の強さを裏打ちしているものが、もう一つある。それが見られたのが、東大との開幕カードだ。1回戦、明大は延長10回の末に辛くも競り勝った。開幕戦特有の硬さもあり、先勝にも田中武宏監督の表情はさえなかった。「引き分けに持ち込まれた昨秋の開幕戦が脳裏に浮かびました」。2回戦も苦戦したが、九回に3点を勝ち越し、勝ち点1を獲得した。

2回戦の試合後、田中監督はこんな話を披露した。

「1回戦の戦い方が不本意だったので、合宿所に帰ったら檄(げき)を飛ばそうと思っていたんです(笑)。その必要はありませんでした。選手たちは言われなくてもわかってましたから。今朝(2回戦の朝)も上田、宗山といった主力は、朝6時の起床前から練習をしてましたし。2連覇した昨年の先輩たちの姿をよく見ていたのでしょう」

チームの状態が上がらない時に何をすべきか。明大には代々の先輩から引き継がれているものが範になっているようだ。その姿勢は当然、プレーにも反映される。この場面で、自分はどうすればいいのか。それが理解できているから、好機をものにすることができ、ピンチを防ぐこともできるのだろう。

通常8週まである東京六大学リーグで、第6週で優勝が決まるのは珍しい。それだけ明大の強さが際立っていた。ただ、主将の上田はこう言う。

「スムーズに優勝したと思われているかもしれませんが、毎試合、死に物狂いでした。楽な試合などなく、1戦1戦、必死でした」

「1戦1戦、必死でした」と振り返る上田(撮影・井上翔太)

この言葉の裏には、漫然とプレーしていたら、相手ばかりか、自チームの選手にも勝てない。そんなこともうかがえる。選手層が厚いだけでは優勝には届かない。明大にとって85年ぶりの快挙は、ハイレベルのチーム内競争を制した選手たちが成し遂げた。

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