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東京六大学で春秋連覇の明治大学 優勝をたぐり寄せた立教大学戦、「1」へのこだわり

春秋連覇を果たした明治大。次は神宮大会での優勝をめざす(撮影・安藤仙一朗)

東京六大学の秋季リーグ戦を制したのは明治大学だった。慶應義塾大学が早慶戦で勝ち点を奪えば優勝という状況だった中、早稲田大学が意地を見せて連勝。この結果、慶大とともに優勝の可能性があった明大に果報が舞い込んだ。明大は2016年以来となる春秋連覇を達成。東京六大学野球連盟の代表として、18日から行われる明治神宮大会に出場する。

やるべきことはやった

人事を尽くして天命を待つ。やるべきことはやった。あとは待つしかない。そんな心境で早慶2回戦の行方を見守っていた明大。優勝が決まった瞬間、プレスルームで待機していた田中武宏監督はホッとした表情を見せた。

一方で戸惑いもあったという。

「待って優勝が決まるのはあまり例がないので……。早慶戦の後というと、山﨑福也(現・オリックス・バファローズ)がエースだった14年秋以来でしょうか。グラウンドで決まるのとは違い、どう喜んでいいものかと」

終わってみれば、9勝2敗1分、勝ち点4。秋もメイジは強かった。開幕から快調に白星を重ね、3カード連続負けなしで勝ち点3。だが次のカード、ともに優勝戦線を引っ張る慶大に負け越し、春秋連覇に黄色信号がともった。

今年は神宮球場で日本シリーズが開催されたため、そこから2週間空いて立教大学戦を迎えた。勝ち点を取れなければ、優勝の可能性は消滅する。

中日から2位指名を受けた主将の村松(以降の写真はすべて撮影・井上翔太)

追い詰められた明大に1回戦で立ちはだかったのが、立大のエース・荘司康成(4年、新潟明訓)だった。ドラフト会議で東北楽天ゴールデンイーグルスと千葉ロッテマリーンズが1巡目で指名。(抽選の結果、楽天が交渉権を獲得)。投手として今年の最高評価を受けた直後の登板だった。

明大が今年こだわっているのが「1」。主将の村松開人(4年、静岡)は「先攻なら初回の攻撃を、後攻なら初回の守りを重視していこうと。練習の時からそれを口に出し、入りを大事にしています」と話す。

その言葉通り、1回表の守りでは、1死一、二塁のピンチをダブルプレーで切り抜ける。するとその裏、荘司の立ち上がりをとらえた。四球で出塁した1番の村松が暴投で三進すると、3番の宗山塁(2年、広陵)が適時二塁打を飛ばし、先制点を奪った。

ただし、この試合での得点は1点だけ。安打も宗山の1本だけだったが、それでも負けなかった。田中監督は「こういうこと(ヒット1本で勝つ)もあるんですね」と不思議そうな顔をしていたが、明大は「勝負運」も味方につけた。

投げては、先発の村田賢一(3年、春日部共栄)が6回3安打無失点と好投。持ち味の、少ない球数で打たせて取るピッチングで貢献した。早大1回戦では、1奪三振ながら「マダックス」(投球数100球未満での完封)でリーグ戦初完封を飾った村田。今季はシーズンを通して安定感があり、防御率はリーグ2位(1.50)だった。「春より投球回は少なかったが、成績は残せた」。独自の投球術で勝負する右腕は胸を張った。

この秋は、安定感のある投球が光った村田

伝統に育まれた勝負強さ

2回戦では「新戦力」と「中心選手」が力を発揮した。新戦力は秋から2番打者に定着した飯盛太慈 (たいじ、2年、佼成学園)だ。走っては50メートルを5秒8で駆け抜け、打席では短く持ったバットでしぶとく食らいつく。明大の欠かせない戦力となった飯盛は、1点を追う八回、ヒットで出塁するとすかさずスチール。リーグ最多となる9個目の盗塁を決めた。

田中監督は「春は故障で出られなかった村松が帰ってきて、台頭してきた飯森との1、2番が組めるようになったのが大きかった」と口にする。2人の足(村松は6盗塁を記録)は他校の脅威だったに違いない。

2番打者に定着した飯盛(左)

飯森を置いて逆転本塁打を放ったのが、中心選手の宗山だった。早くも再来年のドラフト上位候補の呼び声が高い「明大のプリンス」。打率はリーグ4位の3割5分4厘、本塁打が同1位の4本、打点が同2位タイの好成績をマーク。満票で3度目のベストナイン(遊撃手部門)にも選出されたが、「ボール球に手を出すことが多かったですし、納得はしていません」と、どこまでも貪欲(どんよく)だ。

チームも常に現状より上を目指している。春は優勝できたが、そのままでは連覇はないと、夏の練習ではさらなる底上げを図ったという。その中で出てきたのが、飯森であり、1年生左腕の久野悠斗(報徳学園)だ。久野は負けられない立大2回戦の先発を託され、5回3分の1を2失点。8三振を奪った。

明大は立大に連勝し、勝ち点4。優勝戦線に残った。ここ一番での勝負強さは、明大に脈々と受け継がれている伝統でもある。「御大」と呼ばれ、明大野球部を37 年間率いた島岡吉郎元監督は、有名、無名に関わらず、平等にチャンスを与えた。そして、そこでチャンスをつかんだ者が、その後の野球人生を切り開いていった。公立校(兵庫・舞子高)の出身で、一般入試組だった田中監督も「ワンチャン」をものにした1人である。

この秋は4本塁打を放った明治大の中心選手・宗山

インチにこだわり、磨いた守備力

明大は、中日からドラフト2位で指名された村松(秋は二塁手で2度目のベストナイン)、宗山、そして満票で2度目のベストナイン(三塁手としては初)に選ばれた4番・上田希由翔(きゅうと、3年、愛知産大三河)と、攻撃陣に役者がそろっている。得点も1試合平均で5.75と高かった。

一方で、特筆されるのが守備力だ。チーム失策数はリーグ最少の3。取れるアウトは確実にアウトし、球際に強かった。
田中監督はこう言う。

「練習の時から戸塚俊美助監督が中心になって『インチにこだわろう』と指導しています。インチ、数センチ(1インチは2.54センチ)のわずかな差が、試合では勝敗を分けるのです」

球際に強かったのは、あと数センチに執着した結果である。レギュラーだけでなく、外野の守備固めとして起用されていた明新大地(4年、明大中野)も、難しい打球をグラブに収める場面があった。

守りでは、投手陣をよくリードした蓑尾海斗(4年、日南学園)も忘れてはいけない。投手陣からの信頼は厚く、エースの蒔田稔(3年、九州学院)が「ピンチの場面で蓑尾さんに怒られると気合が入る」と明かす。

打席では勝負強いバッティングを見せる蓑尾

春秋連覇した喜び、42度目のリーグ優勝ができたうれしさはあるが、やることは変わらない。明治神宮大会に向けての準備を最大限に積み上げるだけだ。春の大学選手権では準々決勝、延長10回タイブレークの末、佛教大学に敗れた。

報道陣から「タイブレークの練習はしますか?」と問われた田中監督。「好きではないんですが、今回はやろうと思います」と笑いながら答えていたが、目は笑っていなかった。大学野球を牽引(けんいん)するリーグの代表が、中日ドラゴンズの柳裕也投手を擁した16年以来の神宮大会制覇に挑む。

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