筑波大学・樫原沙紀が女子1500m優勝 「一番のライバル」道下美槻の思いも背負い
第92回日本学生陸上競技対校選手権大会 女子1500m決勝
9月15日@熊谷スポーツ文化公園陸上競技場(埼玉)
1位 樫原沙紀(筑波大4年) 4分19秒54
2位 吉井優唯(大東文化大1年)4分20秒37
3位 田島愛理(順天堂大1年) 4分21秒24
4位 小林舞香(環太平洋大3年)4分22秒40
5位 原華澄(大阪体育大4年) 4分24秒86
6位 木下紗那(中央大2年) 4分25秒12
7位 小暮真緒(順天堂大3年) 4分26秒19
8位 兼子心晴(城西大2年) 4分26秒79
9月15日の日本インカレ2日目、女子1500mの予選と決勝が行われ、4月の日本学生個人選手権、5月の関東インカレをともに制した筑波大学の樫原(かたぎはら)沙紀(4年、呉三津田)が4分19秒54をマークして優勝を果たした。「確実に勝ちにこだわって、自信のあるレース展開を作ろうと思い、そこに乗せることができた」と振り返り、完勝だった。
途中棄権を知り「私も燃え尽きた」ところから立て直した
午前に行われた予選はスタートから800m付近まで集団の最後方につけながら、徐々に順位を上げて、ラスト1周を前に先頭に立った樫原。組1着で決勝進出を決めて「ゴロゴロしていた」ところ、思わぬ情報が舞い込んできた。その後の組に出場し、4分12秒72の日本学生記録を持つ立教大学の道下美槻(4年、順天)がラスト1周を前に途中棄権していたことを知った。
「一番のライバルだと思っていたので、ちょっと寂しいなと思って。『あー、そっかー』って私も燃え尽きてしまった感じがあったんですけど『いや、こんなところで終わってはいけない』と思い直して頑張りました」
迎えた決勝は盤石のレース運びだった。集団の中盤に身を潜め、先頭が最初の1周を通過したのは69秒。2周目のホームストレートでするすると前をうかがい、1000m付近で先頭に立った。「900mか1000mの通過で1回仕掛けて、1度他の選手の心を折って、ラスト300mで抜かれたとしても、ラスト100mで巻き返すプランでした」。狙い通りの樫原のスパートに、ついてきた選手はいなかった。「ラスト1周は自分の走りを最後まですることに集中しました」
ユニバを経験し、磨かれたレースへの対応
トラック種目の格闘技とも言われる中距離の1500mで、樫原は多くのレース展開を想像して臨む。この姿勢は8月に中国・成都で開催されたFISUワールドユニバーシティゲームズ(以下、ユニバ)に出場し、女子1500mで5位に入ってからさらに磨かれたという。「海外の選手や、同じようなレベルの選手と走ると、レース展開一つで順位が入れ替わることを痛感したんです。私自身、ユニバは資格記録が速かったわけではなく、なのに5番に入れたのは、自分のレース展開をうまく運べたからでした。それを考えると、基礎の力を上げるのもそうですけど、海外でもっとレース展開を磨かないと戦えないと感じました」
ユニバで結果を残し、その後も状態は良く「このままインカレで学生新まで行ってやろう!」と思っていた矢先、少し体調を崩したという。「(インカレ本番の)2週間ぐらい前です。1週間ぐらいは練習をちょっとストップさせて、1回ブレーキがかかってしまって『何だかなぁ……』と思っていたんですけど、ギリギリここまでは仕上げることができました」
道下美槻は「刺激し合える仲間」
前回の日本インカレは決勝で13位に沈むなど、自身の中では「大事な大会で落としまくっている」という感覚が強かった。大きな大会に向けた気持ちの作り方は、筑波大で4年間を過ごす中で徐々に身につけ、動き作りの面でも「自分の中でしっくりくるものが、できはじめている」と手応えをつかみつつある。アスリートとしての経験が少しずつ蓄積されたことで、今年は安定した成績につながっている。加えて最後のインカレは、さまざまな感情が湧いたという。
「今回は、道下さんという本当のライバルが不在だったことで『必ず私が道下さんの思いも含めて』とか『筑波の思いも含めて』とか、いろんな思いがあって『私が勝たなきゃいけない』と思ってました。そのおかげで、こういう走りができたと思っています」
学生界の女子1500mは今季、樫原と道下の2人が中心だった。ラストスパート勝負となった学生個人選手権を樫原が制し、5月の関東インカレはラスト勝負に持ち込まれると分が悪いと踏んだ道下が、序盤から飛び出す作戦に出た。この勝負も樫原が勝ったものの、4月の織田記念、6月の日本選手権決勝では道下が先着した。
改めて道下選手はどんな存在だったか、と尋ねると「同じ学生として、シニアの舞台でも高いレベルで戦ってきました。一緒に練習こそできていないですけど、試合で会うたび『もっと頑張ろう』と思えて、お互いに刺激し合える仲間です。また次の舞台でも切磋琢磨(せっさたくま)していけたらいいなって思います」と答えてくれた。これからも続くであろう、同世代2人のライバル物語を見届けたい。