野球

龍谷大学・内倉一冴 今でも生きる履正社時代の教えを後輩たちへ「知識を広めたい」

大学4年間を「何とかやり切れた」と振り返る内倉一冴(撮影・沢井史)

2年春から中軸を任され、「ホットコーナー」を任されてきた巧打者の4年間の大学野球生活に、この秋ピリオドが打たれた。龍谷大学の内倉一冴(かずさ、4年、履正社)は「色んな期待をされる中で、リーグ戦にいい状態で持ってこられるように常に調整はしてきたつもりです。調整が難しかったことや、継続して良い形を持続することの大変さもありましたが(4年間)何とかやり切れたと思います」と振り返った。

奥川恭伸も「一番嫌な打者だった」相手

高校時代の輝かしい成績は、4年間の“名刺”ともなっていた。

履正社(大阪)高校時代は「5番・ファースト」でレギュラーとなり、3年春夏の甲子園に出場。夏は初戦から好投手を立て続けに攻略し、初の全国制覇を成し遂げた。全6試合でヒットを放ち、3割8厘の打率を残した。4番の井上広大(現・阪神タイガース)、1番の桃谷惟吹(現・立命館大4年)ら打線に強打者が並ぶ中、決勝で対戦した世代ナンバーワン投手の星稜(石川)・奥川恭伸(現・東京ヤクルトスワローズ)は「一番嫌な打者だった」という相手に内倉の名前を挙げた。それほど脅威な存在だった。

高い打率で履正社高時代には世代ナンバーワンからも脅威の存在だと言われていた(撮影・朝日新聞社)

功績を引っさげて進学した龍谷大。周囲の期待値も当然高かった。

入学直後の2020年は新型コロナウイルス感染拡大の影響で春のリーグ戦が中止に。翌春のリーグ戦では主に「3番・サード」で全11試合に出場し45打数14安打。打率3割1分1厘と下級生ながら上々の成績を残し、中軸打者となった。

2年の秋のシーズンが終わると、滋賀県大津市内にある野球部の寮を出て、大阪市内の自宅から通うようになった。通学には電車を乗り継いで1時間半ほどかかるが、それでも自宅で自分の好きな時間に納得がいくだけ練習ができた。特にシーズン中は少しでも気になることがあれば、なりふり構わずバットを振った。

「自分の思う形が崩された時は、家に帰ったら素振りなどで形を戻すことをずっと意識していました。(通学時間の長さは)特にしんどいとは思わなかったです。調子がどうであっても、しっかり声を出して(ベンチを)盛り上げることも心掛けてきました」

上級生になるにつれて、膨らんだ思い

もともと明るい性格で、学年に関係なく上級生や下級生に対しても、元気に振る舞ってきた。ただ、学年が上がるにつれて下級生が増えていく中、徐々に感じてきたことがある。

喜びを全身で表現する履正社高時代の内倉一冴(撮影・朝日新聞社)

「履正社で教えてもらった野球が今に生きているなと思いました。細かいことは(戦術的なことが多く)ここでは言えないですが、走塁の心構えや、バッティングの考え方などですかね。そういう今までの経験や考え方を『できるだけ下(後輩)に下ろしていかないと』と思うようになったんです。でも、みんなに押しつけているわけではないですよ。話していて意欲的というか、理解してくれる後輩に話すようになりました」

内倉が履正社に在籍していた当時は、岡田龍生監督(現・東洋大姫路高校監督)の厳しい教えの下で鍛錬を重ねてきた。自主性も重んじる履正社の練習スタイルは、「本気で上達したい、うまくなりたい」という強い意欲を持たないとついていくことができない。近畿圏を中心に西日本や、東海地区の強豪校から選手が集まる龍谷大で、技術論で熱く語りあった時に、履正社で何度も指摘を受けたことや、徹底してきたことを明かすと、そのことを知らない選手が多いことに驚いたという。

「だから、そういう知識をできるだけ広めて、自分が学生野球を終えることができればいいかなと思いました。履正社で野球をやってきて良かったなと、今改めて思いますね」

社会人野球でも「大きな声でベンチ盛り上げる」

リーグ優勝、個人タイトル獲得など、目標はたくさんあった。だが、たとえそれが果たせなくても、何らかの形で残していくべきものもある。4年生になってからは特にそういった意識が強くなった。

4年春、秋とベストナインを獲得し、自身の地位も作り上げることはできたが、9月24日の大阪商業大学戦では、代打を送られ悔しい思いをした場面もあった。それでも、下を見ずにリーグ戦を完走できたことは何よりの誇りだ。

大学では結果だけでなく、後輩への指導にも力を注いできた(撮影・沢井史)

卒業後も社会人野球で野球を続ける。学生としての野球は一区切りとなるが、現役選手としてまだまだ元気は有り余っている。「打って、大きな声でベンチを盛り上げたい。それしか自分はできないので」

ラストシーズンも笑顔で終われた。自分が残したものが、これからチームにどう生かされていくのか。今は後輩たちの躍動を誰よりも楽しみに待ちながら、来春から立つ新たな世界に胸を膨らませている。

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