大商大・高太一 ノーヒッター上田大河との「両輪」、ドラフトに向けアピールの初完封
関西六大学野球 秋季リーグ戦
9月24日@わかさスタジアム京都
大阪商業大学 3-0 龍谷大学
大阪商業大学の左腕・高太一(4年、広陵)が挙げたリーグ通算11勝目は、記念すべき初完投初完封勝利だった。とは言っても「完勝」で飾ったわけではない。三者凡退のイニングはなく、毎回安打を許し、走者を背負いながら粘り強く相手の勢いを封じた。
「龍谷大の打線は前日の試合を見ていてもしっかり振れていることは分かっていたので、打たれてもホームにかえさない気持ちで投げられました。前の試合(10勝目を挙げた神戸学院大戦)は1本も打たれないようにいいところを見せようっていう気持ちでしたが、『完璧に』というより『ゼロで帰ってくる』というのを意識しました」
勝ち点奪取のため、負けられない2戦目で好投
目についたのは内角を攻め続ける強気な姿勢だ。
「真っすぐの内角の割合を増やしました。『厳しく攻めてデッドボールやフォアボールは仕方ない』くらいの気持ちを持って、そこで甘く入って打たれるくらいなら、しっかり攻め切って打たせて取ろうと思いました」
時折、右足の上げ方を変える場面もあった。「それはモチベーションを上げるためです。クイックで投げるとか、足の上げ方を変えると相手が嫌がる間ができると思ったんです」。普通に投げるだけでは、手ごわい打線を抑えられない。相手の目先を変えながら度重なるピンチを脱した。
前日は同学年で秋のドラフト候補と目されるエースの上田大河(4年、大阪商業大高)が中盤につかまり、点の取り合いとなった末、延長12回タイブレークでサヨナラ負けを喫した。勝ち点奪取のため、もう負けられない2戦目のマウンドを託された。
「まず先頭打者だけ出さないことに気を付けました。先頭を出すと、相手打線はそのまま勢いに乗ってどんどん打ってくると思ったので。あとは抜け球や大きく外れて意味のないフォアボールを出さないこと。それだけでした」
ただ連日、下半身に負荷をかけるトレーニングを積んできた影響もあり、約1週間前から右足の親指外側にできたマメに悩まされていた。登板時点では親指外側の皮がめくれた状態だったが、それは言い訳にできない。
「今は(マメは)もう大丈夫です。どの球種でもカウントが取れて、真っすぐで押し込めたことが良かったと思います。ランナーが出ても冷静に牽制(けんせい)などを入れて、1球目からしっかりストライクを取ることができたので、それが(通算10勝目を挙げた)神戸学院大戦より良かったところかなと思います」
龍谷大・伊藤岳斗との投手戦も刺激に
龍谷大先発の最速153キロ右腕・伊藤岳斗(4年、磐田東)も立ち上がりからキレのあるストレートを武器に、序盤から大商大打線を封じ、投手戦の様相となったことも、高にとっては刺激になった。「相手のピッチャーも良いピッチングをしていたので、自分が悪い流れを作ると(味方打線が)1点も2点も取れなくなる。僕は1点もやらない気持ちで投げました」
最大の山場は3点リードで迎えた九回に訪れた。この試合初めて1イニングに2本の安打を許し、1死一、二塁。一発が出れば同点に追いつかれる。大商大のブルペンでは上田が肩を作り始め、ベンチに向かって両手で大きく「マル」のサインを送り、いつでも救援できる準備を整えていた。
それでも高は、最後までマウンドを譲るつもりはなかった。
「翌日(の3回戦で上田には)万全の状態でいってもらいたいので、自分が最後まで投げるつもりでした。前回(神戸学院大戦)はストレートの調子が良くなくて、じゃあ変化球にしようという考え方もよぎったんですけれど、自分の持ち味はストレートなので。ストレートで押し込んでタイミングが合ってきたら変化球で外すというのはバッテリーで話し合っていたので、最後までその通りに投げられたと思います」。後続を二つの内野ゴロに仕留め、笑顔を見せた。
神戸学院大学戦は10球団、そしてこの日は6球団のスカウトが見つめる中での好投を見せた。「最近良いピッチングができてなかったので、絶対に抑えてやるという気持ちでした。このリーグ戦は、チームを勝たせるピッチングを一番に考えて、その結果が(ドラフトに)つながればいいと思っています」。
内倉一冴へ「打たれる気しかせんかった」
今年のドラフト候補は大学生投手が豊富と言われ、中でも目立つのは東都大学野球リーグを中心とする関東圏の投手だ。だが、高への期待値も日に日に上がっている。大学日本代表に選ばれ9月16日の大阪学院大戦でノーヒットノーランを達成した上田とともに、大商大の両輪として、さらに熱視線を浴びることになりそうだ。
高が球場を引き揚げる際、この日は3打数1安打だった龍谷大の中心打者・内倉一冴(4年、履正社)と目が合った。高は内倉に「打たれる気しかせんかったよ」と笑顔で声を掛けた。ふとしたやり取りのように見えて、警戒し続けた強力打線への「敬意」でもあるこの言葉が、10安打されながらもゼロを並べ続けた高の心の底からの本音だったようにも感じた。