フィギュアスケート

社会人スケーター・大庭雅が12回目の全日本 「特別な場所」に魅せられ続けて

12回目の全日本選手権出場を決めた大庭雅(撮影・浅野有美)

12月21日に開幕する全日本フィギュアスケート選手権に、28歳の大庭雅(東海東京FH、中京大学卒)が出場する。混戦となった西日本選手権を総合5位で勝ち抜き、12回目の舞台への切符をつかんだ。長く競技を続けられる理由やファンへの感謝の気持ちを語った。

器械体操が好きだった子ども時代

大庭が初めて全日本選手権に出場したのは、中学3年生だった2010年だ。当時最年長女子選手であった村主章枝さんは1995年から全日本に出場しており、1995年生まれの大庭と同じ舞台に立っていると、テレビ実況で紹介されたことを覚えているという。そして今年、大庭にとって12回目の全日本出場が決まり、同じ愛知県出身で2010年生まれの中学1年生、上薗恋奈(れな、LYS)と同じ舞台に立つことになる。

長い間モチベーションを高く保つことは難しい時期もあったが、あの広いリンクで自分だけが演技をして、その様子を観客全員が見ているという空間に憧れ、ここまで競技を続けてきている。

子どもの頃は器械体操を習っており、週6回の練習に欠かさず行っていた。しかし両親は大庭にフィギュアスケートをしてほしいと願っており、あの手この手で誘ってはみるが、いつも器械体操を選んでいたのだという。

「フィギュアスケートを始めるのであれば、これが最後のチャンスだよ」。10歳の時、両親にかけられた言葉をきっかけに、器械体操が休みの日にスケートを習うようになった。

当初は週1回の練習であったが、習い始めて半年が過ぎた頃、器械体操とフィギュアスケートの回転方向が左右逆であることから両立が難しくなり、どちらかを選ばないといけなくなった。器械体操は長期間習っているからこそ、伸び悩みの時期に差し掛かっていた。一方、フィギュアスケートは伸び盛りでどんどん新しいことができるようになり、楽しい時期だったことから、後者を選択した。

大学時代は学業と両立し、卒業後は社会人スケーターとして競技を続けることを決めた(撮影・浅野有美)

浅田真央さんたちから毎日吸収

ノービス時代はダブルアクセル(2回転半)ジャンプまではすぐに跳べたものの、トリプル(3回転)が1つも跳べず、全日本ノービス選手権への出場は叶(かな)わなかった。しかし、ジュニアのシーズンが始まる頃には5種類のトリプルを習得し、ジュニア1年目より全日本ジュニア選手権に出場することができた。

始めた年齢も周りに比べると遅い上に、全日本ノービスに出場していなかったことから、「あの5種類のトリプルを跳ぶ選手は誰?」と注目を浴びるようになった。中学3年生の時、初めて国際大会に出場。そして全日本ジュニアで3位となり、晴れて全日本の出場権を獲得。さらに世界ジュニア選手権の代表に選ばれるなど、まさに順風満帆な選手生活を送っていた。

フィギュアスケートと学業の両立のため、高校は中京大中京高校へ進学。高校生も中京大学のリンクを使用できる恵まれた環境であった。また当時は、1学年上の村上佳菜子さん、大学生の浅田真央さん、小塚崇彦さんといった世界のトップ選手と一緒に練習でき、毎日吸収するものが多くあった。

高校時代はジュニアグランプリシリーズで表彰台に乗るなど、輝かしい成績も残し、中京大学に進学した。かねてより大学4年生で選手生活を終えると決めていたこともあり、学業とスケートの両立は徹底していた。授業は目いっぱい履修し、1コマでも空き時間があるとリンクで練習した。3年生の頃には選手生活を終えた後のことを考え、企業のインターンシップに参加し、本格的に就職活動を始めようと思っていた。

しかし、そのシーズンの全日本選手権で総合13位と結果を残し、「このままやめるのはもったいないのではないか」と思い始めるようになった。そこから、就職して働きながら選手を続ける方法を模索し、縁があって東海東京FHのサポートが受けられることが決まった。

2010年の全日本選手権での大庭(左)と筆者(提供・澤田亜紀)

プロではなく、競技者として続ける理由

社会人スケーターとしてスタートを切り、今年で6年目になった。大学時代と同じ中京大学などを拠点に練習している。多くの選手の引退を見送ってきたが、特に大学卒業と同時に競技から離れる選手を見ると、「まだできるのにもったいない」と感じるようになった。大庭は、続ける気持ち・動ける身体・環境が整えられるうちは競技を続けたいと思い、今日も練習に取り組んでいる。

過去に「スケートと関わる手段として、プロになる道もあるが、なぜ競技を続けるのでしょうか?」と聞かれた際に即答できず、改めて自分に問いかけた。そして、「全日本という特別な場所で演技をしたい」という思いがあることに気付いた。

練習をすることが大好きで、「いつまででも練習していられる」と笑顔で話してくれるが、今年度より出社日数が増えており、氷上練習の時間が減ってきている。それでも陸上トレーニングといったオフアイスのトレーニング時間を増やし、けがをしない体作りを心がけている。

げんさんサマーカップ2023女子SPの演技後、観客に笑顔を見せた(撮影・浅野有美)

自分の代名詞になるような曲を

今シーズン、フリーは昨シーズンから継続の「医龍」。そしてショートプログラム(SP)は最初から最後まで踊り続ける「情熱大陸」だ。競技生活の終わりが少しずつ見え始め、「今までやってきたことがない曲にチャレンジし、今後の自分の代名詞になるようにしたい」「観客の方と一緒にノリノリになって踊りたい」と思って選んだ曲だ。振り付けはSP、フリーともに安藤美姫コーチが担当した。

実は大庭にとって安藤美姫コーチはずっと憧れていた存在で、キレのあるジャンプや表現力など、何度映像で見たかわからないほど。そんな憧れのスケーターに振り付けをしてもらえることに喜びを感じている。

全日本では、安藤コーチと作り上げたプログラムで質の高いエレメンツを行い、ベテランならではの表現力を武器に、昨年のSP13位より上位に入り、後半の2グループでフリーを滑るのが目標だ。

所属企業のサポートやファンの応援があり、競技を続けられている(撮影・浅野有美)

今シーズンも競技としてスケートができるのは、所属会社のサポートはもちろん、ファンの方の声援があったからこそ、と感じている。

たくさんのファンレターやSNSへの応援コメント、地方大会にも足を運んで名前入りのバナーを振ってくれたり、会社宛てにサポートのお礼を伝える連絡があったり。大庭の演技を見たいというファンの気持ちが目に見えて伝わったからこそ、今年も全日本の舞台に立つことができるという。

感謝の気持ちを持って挑む12回目の全日本で、たくさんの声援に応えながら演技をする大庭の姿を見られるのが楽しみだ。

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