フィギュアスケート

中京大・荒木菜那「大人になった自分を見てほしい」、西日本Vで3年ぶりの全日本へ

荒木は西日本選手権を制し、3年ぶりとなる全日本選手権に出場する(撮影・浅野有美)

荒木菜那(中京大2年、中京大中京)は全日本選手権(12月23日開幕)の最終予選となった11月の西日本選手権で優勝し、自身3年ぶりとなる全日本選手権への切符を手に入れた。ただ今シーズンを振り返ると、中京大学内の選考も兼ねていた8月のサマーカップでは緊張がピークに達して力を出しきれず、インカレ(2022年1月4日開幕)のメンバーに入れなかった。翌9月に行われた中部ブロック大会でも調子が上がらず、予選落ちを覚悟するほど。チームメートにも何度も励まされ、その度に自分を奮い立たせ、ここまで戦ってきた。

平昌五輪シーズンに初の全日本出場

荒木は小学1年生の時、家族と遊びに行ったスケート場で「滑ることが楽しい」と感じ、競技としてスケートと向き合うことを決意した。多くの選手は、学校が終わると一般営業で練習をし、そこからリンクを貸し切って練習をしている。しかし、荒木は家から練習リンクまでが遠いこともあり、一般営業の時間に間に合わず、貸し切りの時間だけで練習をすることがほとんどだった。短時間で集中してコツコツ積み上げ、ノービスAの時から全国有望新人発掘合宿の選手に選ばれるようになった。

「滑ることが楽しい」という気持ちから、フィギュアスケートを始めた(写真は本人提供)

ジュニア1年目の時に全日本ジュニアに出場し、「今まで練習してきて良かったと思える大会だった」と振り返る。全国での自分の立ち位置が分かり、翌年は「結果を出したい」と思って取り組んでいたが、最終予選である西日本ジュニア選手権でまさかのショート落ちとなり、2年連続出場ならず。予想外の結果に一時は塞ぎ込んでしまったが、気持ちを切り替え取り組んだ同年度の全国中学生大会では7位入賞。初めて全国と名前がつく大会で表彰され、「スケートが楽しい」という気持ちとともに、「この勢いで頑張ろう」と一層フィギュアスケートへとのめり込んでいった。

高校は中京大中京(愛知)のスポーツクラスに進学し、同級生にスケーターがいるという今までにない新鮮な感覚を味わった。また他の競技で活躍する選手が多く在籍していたため、「クラスメートが違う競技で頑張っているから自分も頑張ろう」と思えるいいきっかけとなったという。その思いで練習していた成果が実り、ジュニアグランプリの選考会にも選ばれるようになるなど、自分が思っている以上の成績が出るようになった。

そして、平昌オリンピックのシーズンとなったジュニア3年目の時、全日本ジュニアで好成績を残し、推薦で全日本選手権への出場権を得た。独特の緊張感に飲まれそうになったが、「テレビで見ていた全日本に出られるのは光栄なこと」とただただ楽しく滑ることができたという。その後もエキシビションに出演するなど、貴重な経験を積み重ね、心からスケートが楽しいと思えた時期でもあった。

しかし高校3年生での全日本ジュニアでは思うような結果を残せず、全日本選手権への出場もできなかった。

高校3年間で、全日本選手権に出場できた喜びと出場できなかった悔しさをともに味わった(写真は本人提供)

スケーティングと向き合い、練習環境を一新

翌2020年には中京大に進学。シニア選手として挑んだ西日本選手権で力が入りすぎてうまくいかず、2年連続で全日本選手権に届かなかった。それまでは2年連続で出場していただけに家族も一緒に落ちこんでいたが、荒木自身はしっかりと前を向いて自分の滑りと向き合っていた。

ジャンプが得意な荒木は、ジュニア時代からスケーティングスキルに関して思ったよりも点数が伸びていないと感じていた。試行錯誤しながら練習をしてきたもののなかなか評価されていないのであれば、「残りの学生生活を考えた時にやるなら今しかない」と感じ、今年4月、思い切って練習環境を変えることを決断。かねてより一度滑ってみたかったという樋口美穂子コーチのプログラムができる、グランプリ東海クラブに移籍を決めた。

中京大には豊田キャンパス内にリンクがあり、体育学部に所属する荒木は授業と練習が同じキャンパス内で完結する。また中京大に所属する選手も多く、「上手な選手が長時間練習しているのが分かる分、自分の練習量が足りないかもと不安になることもあり、良くも悪くも自分を高められる環境」だという。もともと短時間で集中して練習に取り組んでここまできた経緯もあり、周りに流されず、練習量は自分自身でコントロールしている。高校生の時からそのリンクを利用しており、当時は高校からリンクへの場所の移動が気分転換の1つになっていた。しかし現在は同じ敷地内にリンクがあるため、オンとオフをうまく切り替える方法を模索している最中だ。

大学ではスポーツ系の勉強が多く、心理学や生理学などを学んでいる。その中で、呼吸法を学ぶ機会があった。自分なりにノートにまとめ、全日本選手権への最終予選にあたる西日本選手権で実戦してみたところ、いい結果に繋(つな)がり、大きな自信になった。

3年ぶりの全日本「できればトップテン入りはしたい」

3年ぶりに全日本選手権への出場が決まった瞬間、一番喜んでくれたのは家族だった。出場できなかった時は一緒に落ち込んでくれた家族に、「やっといいところが見せられるチャンスがきた」と荒木は嬉(うれ)しそうに話してくれた。

「一度滑ってみたかった」という樋口コーチのプログラムができることがモチベーションになっている(撮影・浅野有美)

今は樋口コーチが作ってくれたフリーを練習するのが、一番のモチベーションになっている。以前はジュニアからの推薦という形での全日本選手権出場だったが、今回はシニア選手としての出場となるため、多くの人たちに「大人になった自分を見てほしい」と意気込みを口にした。西日本選手権で優勝したため、全日本選手権のショートでは後半グループで滑ることが決まっている。驚きの方が大きいが、出るからにはショート・フリーを揃(そろ)えて笑顔で終わることが目標。でも本音としては「できればトップテン入りはしたい」と明かした。

今年の全日本選手権は北京オリンピックの最終予選ということもあり、会場の雰囲気は張り詰めていることだろう。しかし、得意のジャンプに加えて今年強化してきたスケーティング、そして笑顔で、たくさんの人々を魅了してほしい。

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