フィギュアスケート

特集:フィギュアスケート×ギフティング

関西大学・須本光希、キャリアに迷い悩みながらも前へ「1試合1試合満足する演技を」

環境変化の大きかった昨季。全日本選手権フリーで演技する須本光希(代表撮影)

学生アスリートにとって、大学卒業後のキャリアを考えることは避けて通れない道だ。卒業後も競技を続けるのか、引退して社会人として働くのか。関西大学政策創造学部3年のフィギュアスケート選手、須本光希(浪速)も悩んでいた。北京オリンピックシーズンに入り競技力向上を目指す一方、就職活動中の周りの声も気になる。そんな複雑な胸の内を明かしてくれた。

スケートをやめていたかも

須本は焦り、迷っていた。

「自分はスケートしかやってこなかった。社会人になるのが心配です」

大阪府泉大津市出身で、オリンピック2大会連続金メダルの羽生結弦(ANA)に憧れて本格的にスケートを始めた。めきめきと上達し、高校2年の2017年全日本ジュニア選手権で初優勝、ジュニアグランプリ(GP)ファイナルで銅メダルを獲得した。フィギュアスケートの名門、関西大学に通いながらトップ選手を目指す一方、来年度に迫る卒業と引退時期について考え始めている。

2年くらい前からスケートに対してネガティブな気持ちが生まれていた。「少なくとも1年間はスケートをやめたいという気持ちのほうが強かったですね。つらかった。自分ひとりで練習している状況で、調子が落ちてスケートをやめるのも時間の問題でした」と明かす。

「もう1回立て直せれば」。心機一転、環境を変える決心をした。昨季、長光歌子コーチ、本田武史コーチ、吉野晃平コーチのところに完全移籍した。抱えていた孤独感は少しずつ和らいだ。「西日本選手権フリーで本田コーチに『練習どおりやってこい』と直前に声をかけてもらえて、演技が始まる前から泣きそうになりました。結果はよくなかったですが、気持ちの面でいい演技ができました。一人じゃないと感じたフリーでした」

初出場のGPシリーズNHK杯は体調不良で欠場してしまったが、全日本選手権が終わると、「いろいろあった中でほっとした気持ちにはなりました」と振り返った。

2017年ジュニアグランプリファイナルで銅メダルを獲得した(右、撮影・細川卓)

羽生結弦という偉大な存在

須本のスケート人生を変えたのが羽生だ。2012年世界選手権男子フリーで羽生が演じた「ロミオとジュリエット」に心を奪われた。「いまは軽くジャンプを跳んでいますが、あのときのプログラムは迫力、気力、がむしゃらな感じ。必死に上を目指している姿が好きでした」。それまで趣味でやっていたスケートに対し、「この競技を頑張りたい」と心に火が付いた。

「羽生選手のプログラムなら3曲くらい完コピで踊れるくらい覚えた」と言うほど羽生の演技をまねしていた。当時、同じリンクには友野一希(セントラルスポーツ)や田中刑事(国際学園)、2014年ソチオリンピック5位でスポーツ科学者の町田樹さんらトップ選手がいて、モチベーションが上がった。

「町田さんは朝6時から1時間以上コンパルソリーの練習をしていて、基礎って大事やなと思いました。4回転も何回壁にぶつかるのというくらいやっていました。自分もこれくらいやらないといけないという気持ちはありました」。他の選手に追いつきたくて必死に練習すると結果もついてきた。2回転アクセルでさえ跳べなかったが、わずか1年で5種類の3回転ジャンプを習得、高校2年で出場したジュニアグランプリファイナルの銅メダルに結実した。

羽生選手のようになりたい。羽生選手と同じ試合で滑りたい。その純粋にスケートを楽しむ気持ちは年齢とともに試合のプレッシャーと戦う中で失われていった。

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就活をするべきなのか…

昨季はコロナ禍で練習が制限され、自分の将来について考える時間が増えた。周りからインターンシップや面接といった就職活動の話題が嫌でも耳に入ってくる。地元には高校を卒業して働いている人もいる。

「競技と同じくらい就職のことも考えないといけません。スポーツをやっている人はセカンドキャリアに苦労することが多いと聞きます。就職している自分が想像できず、だんだん焦るようになりました」。自分はこの先どこを目指せばいいのか。セカンドキャリアをどう築けばいいのか、答えは見つからない。

最近は社会のことを少しでも知りたいという思いに駆られている。今季はスポンサーから競技活動のサポートを受けることができたが、それも社会とつながるきっかけにしている。

コロナ禍でセカンドキャリアをについて考える時間ができた

フリーは「ロミオとジュリエット」

試合に向けてプログラム作りは進めている。ショートプログラム(SP)は男性歌手ローナン・キーティングの「Forever Aint Enough」を選曲。振り付けはアイスショーなどで活動する小平渓介さんと初めてタッグを組んだ。「国体で小平さんの演技を見て、見せ方が上手やなと思い、いずれ振り付けを頼んでみたいと思っていました。この曲は今までにやったことのないジャンルで最後のステップで盛り上がります」

フリーは「ロミオとジュリエット」。自分のスケート人生を変えてくれた曲だ。振り付けは羽生を育て、伝説となったその曲を振り付けした阿部奈々美さんに依頼した。「どこで引退するかは決めていませんが、(続けるとしても)あと1、2年。引退の最後の曲はこの曲と決めていました」と強い思いを語った。

あの会場でガッツポーズを

須本は8月6日に開幕する「北九州オープンフィギュアスケート競技会〜飯塚アイスパレス杯争奪大会(飯塚杯)」で今季初戦を迎える。北京オリンピック代表選考を兼ねる全日本選手権は12月にさいたまスーパーアリーナで行われる。過去にその会場で開催された世界選手権の光景が須本の目に焼き付いている。「あの広い会場でガッツポーズをしたい。今季は1試合1試合満足する演技、やりきったと思える演技をしたいです」

「楽しむ」ことを目標に演じる

いずれは区切りをつける競技生活。セカンドキャリアを見据えながら日々の練習にも向き合わないといけない。今季の目標を色紙に書いてもらうと「楽しむ!!」と綴(つづ)った。「考える時間があってよかった。将来の計画も競技もうまく両立したい」。悩みながらも前に進もうとしている。

焦らなくていい。スケートを楽しむ気持ちを取り戻しながら、自分とじっくり向き合って進みたい道を見つけてほしい。そう思った。

【動画】須本光希、憧れの羽生結弦に「スケートをちゃんと始めさせてもらった」

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