野球

バント嫌がるスラッガー 強豪ゆえの悩み乗り越え、健大高崎が頂点に

優勝を決め、アルプス席へ駆け出す健大高崎の選手たち(撮影・田辺拓也)

(31日、第96回選抜高校野球大会決勝 健大高崎3―2報徳学園)

昨年の甲子園を沸かせた選手に、佐々木朗希の弟も! 東都1部に進む予定の新入生たち

 2012年春、ダイヤモンドを疾走し、鮮烈な印象を残した初出場チームがあった。

 4強入りを果たした健大高崎(群馬)だ。

 1回戦で天理(奈良)を7盗塁でかき乱すと、神村学園(鹿児島)との2回戦で4盗塁、鳴門(徳島)との準々決勝でも5盗塁。

 準決勝で藤浪晋太郎(メッツ)らを擁する大阪桐蔭に敗れたが、積極的な走塁で相手を揺さぶる攻撃スタイルは「機動破壊」のフレーズで健大高崎の代名詞となった。

 青柳博文監督(51)は、まだ創部10年ほどだった当時をこう振り返る。

 「選手自体のレベルが高くなかった。何かに特化して、一つ攻撃パターンを作るしかなかった」

 14年夏、15年春は2季連続で甲子園8強入りするなど、全国屈指の強豪となった。だが、4強の壁を破ることはなく、19年夏は群馬大会で14年ぶりの初戦敗退。盗塁数が少しずつ減り、「機動破壊は終わった」との声も出始めた。

 壁を破れない時期、青柳監督の胸には、こんなジレンマがあった。

 「甲子園に出て以来、入ってくる選手のレベルが上がった。でも、スラッガーの選手にバントやバスターをやらせると嫌がる。小さくまとまっちゃうんじゃないかなと思うようになった。機動破壊をやりきれない、中途半端な時期があった」

 22年春、そんな葛藤をかき消してくれる選手たちが入学してきた。

 中学時代に全国大会で実績を残した捕手の箱山遥人や森山竜之輔ら、いまの3年生たちだ。

 長打を生み出すスイングスピード、華のあるグラブさばき。青柳監督は「勝てなければ監督が悪いって言われる」と苦笑いするほど能力の高い選手たちを見て青写真を描いた。

 「スケールを大きく育てたい。機動破壊を教えながらも、思い切った野球をやらせたい」

 ただ、そんな選手たちでも、最初はうまくいかなかった。

 新チームがスタートした昨夏は、練習試合で負けが続いた。秋の地区大会では東農大二に敗れ、群馬県大会のシード権を逃した。「どん底だった」と、誰もが振り返る。長打を狙ってのフライアウトや三振が多く、守備で細かなミスも多かった。

 そんなチームをまとめあげたのが、前チームから4番を担う箱山だった。練習前に必ず行うミーティング。仲間一人ひとりの目を見て、口癖のように言った。

 「俺たちは弱い」

 まずは慢心を捨てることが必要だった。当初は箱山ばかりが話していたが、司会者を毎回変えることで、徐々に色んな選手から意見が出るようになった。

 主に7番を打つ横道周悟は、意識が変わった一人だ。当初は「ホームラン打ちたい」とばかり考えていたが、「きれいなヒットじゃなくていいから塁に出よう」と考えるようになった。

 遊撃手の田中陽翔は「僕らは『そんなことの徹底』を大事にしている。イニング間のダッシュとか、『そんなこと?』と思われるようなことを徹底する」

 機動破壊も突き詰めた。ウォーミングアップ後に行う走塁練習で、スライディングやリードを取る幅など、細かいところまで確認するようになった。

 能力の高い個性派集団は、心を一つに束になること、チームのために送りバントを決める大切さを覚えた。

 箱山は大会前、「これで日本一を取れなきゃしょうがない」と思えるほどチームのまとまりに手応えを感じた。

 打線の調子が上がらなかった大会序盤は犠打で好機を広げつつ、「ゴロゴー」などの機動力で勝利をもぎ取り、山梨学院との準々決勝、星稜(石川)との準決勝は打ち勝った。

 打撃と走塁の「ハイブリッド攻撃」が、健大高崎の新たなスタイルとなった。

 初の決勝進出を決めた30日の試合後、選手や控え部員は泣いていた。勝った側なのに、だ。

 箱山は言う。「ここで満足っていう涙じゃなくて、一戦一戦をしっかりやり切ったからこそのうれし涙です」

 その一方で、青柳監督はどこかおだやかな表情を浮かべる。

 「入学したときから、選手的には全国屈指のチーム。その子たちが真面目に一生懸命やってきた結果と思うんですよね」

 泥臭さとハイブリッド攻撃で、群馬県勢初の頂点に立った。

(大宮慎次朗)

=朝日新聞デジタル2024年03月31日掲載

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