國學院大・青木瑠郁が学生ハーフ初優勝 平林清澄の大阪マラソンVから、もらった勇気
第27回 日本学生ハーフマラソン選手権大会
3月10日@陸上自衛隊立川駐屯地~国営昭和記念公園の21.0975km(東京)
優勝 青木瑠郁(國學院大2年) 1時間2分06秒
2位 近田陽路(中央学院大2年) 1時間2分19秒
3位 工藤慎作(早稲田大1年) 1時間2分29秒
4位 白川陽大(中央大2年) 1時間2分30秒
5位 辻原輝(國學院大1年) 1時間2分37秒
6位 塩出翔太(青山学院大2年) 1時間2分46秒
7位 小暮栄輝(創価大3年) 1時間2分48秒
8位 深堀優(東京農業大2年) 1時間2分50秒
第27回日本学生ハーフマラソン選手権大会が3月10日、東京都立川市内のコースであり、國學院大學の青木瑠郁(2年、健大高崎)が1時間2分06秒で初優勝を飾った。前々回は当時1年生だった平林清澄(3年、美方)が制しており、國學院大勢としては2年ぶりの優勝となった。「國學院の強さ、ハーフの強さを見せられれば」。そう考えていたレースで快勝し、青木は来年度の飛躍を誓って2023年度を締めくくった。
「國學院は平林さんや歩夢さんだけじゃない」
雄たけびを上げながらフィニッシュエリアに飛び込んだ青木だったが、いつまでも喜びに浸るようなそぶりは見せなかった。記者たちに囲まれ、「優勝がターゲットだったのか?」と問われると、「そこしか考えていませんでした」と、落ち着いた口調で話した。
「國學院が来年の箱根駅伝で優勝するためには、自分が今年1年、飛躍していかないといけないと考えています。國學院は平林さんや(山本)歩夢さん(3年、自由ケ丘)だけじゃないんだぞというのを見せられたと思います」
この日、細かいレースプランはなかった。前田康弘監督からの事前の指示も「行けるところでしっかり仕掛けてこい」という程度だった。「余裕を持って、アップみたいな感じで行った」という前半は、5kmを14分49秒、10kmを29分47秒で通過した先頭集団に身を潜めた。
12km地点で平林の声援を受けた後、14kmあたりでペースアップすると「誰もついてこなかったので、このまま行っちゃおう」と後続を徐々に引き離した。「後ろから追いついてきたとしても、振り払えるぐらいの余裕度は持ちながら押していきました。20kmのところでもう来ないなとわかったので、しっかりとスパートをかけて勝ち切れたのはよかったです」。終盤は独走態勢を築き、ライバルたちを寄せつけない完勝だった。
「意識している」他校の同学年実力者たち
青木はルーキーだった2022年度から学生3大駅伝にフル出場してきた。5位に終わった今年の箱根駅伝で、強く感じたことがあったという。
「今年度は駒澤さんが出雲駅伝と全日本大学駅伝を取りましたが、最後の箱根で勝った青学さんの年になったような印象です。出雲や全日本で勝ったところで、箱根で負けたら結局、その年は箱根で勝ったチームの年になってしまう。そう考えると、やはり箱根一本で勝負していかなければいけないなと。箱根で勝たないと意味がありません」
青木個人としても各駅伝で安定した走りを見せたが、納得はしていない。とくに今年度の出雲2区や箱根3区で「ボロボロにやられた」という駒澤大学の佐藤圭汰(2年、洛南)や、早稲田大学の山口智規(2年、学法石川)といった同学年の実力者たちを「意識している」と話す。
箱根後は「右足裏を少し痛めてしまった」ものの、すぐに回復し、学生ハーフに向けて始動した。「1月後半からは距離を重視してしっかり練習に取り組んで、2月は860km以上走り込めました。それも余裕を持ってこなせていましたし、距離の不安はありませんでした。今年度で調子が一番いいんじゃないかというぐらいの状況で、今大会を迎えることができました」
青木は自信を持って、学生ハーフのスタートラインに立っていた。
上級生になる自分が取らなかったら、格好つかない
各大会におけるチームメートの奮闘も大きな刺激になっていた。中でも2月25日の大阪マラソンを日本歴代7位、初マラソン日本最高、学生新記録となる2時間6分18秒で優勝したエース・平林の走りは、青木に勇気を与えるものだった。
「あの走りを見たら燃えますし、平林さんからは『日本一を取ってこいよ』と言われました。自分はここでやるんだという気持ちを持って勝負しました」
新チームが始動した際の全体ミーティングでは、「それぞれが出るレースで勝ち切り、記録会でもその組でトップを取るような走りをしていこう」という趣旨の話し合いがなされたという。新たな主将となった平林が自ら実践し、他の選手にも影響を与えている。
2月11日の宮古島大学駅伝では、箱根駅伝に近い距離設定の5区間で、風やアップダウンの激しいタフなコースだったにもかかわらず、國學院大は全区間区間賞の完全優勝を果たした。
「ADIDAS TOKYO CITY RUNの5kmでは、原秀寿さん(3年、新居浜東)が箱根で区間賞を取った青学のメンバーに立ち向かっていましたし、玉名ハーフでは上原琉翔(2年、北山)もいい走りをしていました。平林さんが大阪で勝った翌日には野中恒亨(1年、浜松工業)も犬山ハーフで優勝を取ってきてくれた。4月から上級生になる自分が取らなかったら、格好がつかないと思っていました」
チームの勢いは確実に青木の背中を押していた。
各校のエースたちと勝負するために
今回の学生ハーフは、FISUワールドユニバーシティゲームズの代表選考レースでなかったこともあり、各大学の超エース級が勢ぞろいしたわけではなかった。だからこそ前田監督は、青木の優勝を高く評価しつつも、「青木が競り合うべき相手は、駒大の篠原倖太朗君(3年、富里)や佐藤君、青学大の太田蒼生君(3年、大牟田)、黒田朝日君(2年、玉野光南)ら学生トップレベル」と今大会に出場しなかった有力選手の名を挙げ、青木のさらなる飛躍を促した。
それは青木自身も十分に理解している。箱根後の全体練習ではマラソンに向けて別メニューだった平林や、故障明けだった山本がいないことが多く、「練習で引っ張ることが増えて、自分が一番上でやっていかないといけないという自覚にもなりました」と語る。
3年生となる新年度の個人目標を次のように掲げた。
「10000mで27分50秒を切って平林さんの記録を超えるのと、5000mは13分30秒を切りたいです。関東インカレは10000mで勝負して優勝できるようにここから準備していきたいと思っています」
それらを一つひとつクリアした先に、チームが最大目標とする箱根駅伝優勝が現実味を帯びてくる。今年の箱根で5区に課題を残した國學院大は、2区で好走した平林を山登りに起用するプランもある。それには青木クラスの主力が2区に入り、他校のエースたちと渡り合っていかなくてはならない。
「自分が2区を走りたいという気持ちもあります。その意味で、この立川のアップダウンが多いコースで実力を出せたことは良かったです」
箱根後のロードシーズンに存在感を発揮した國學院大。そのなかで学生ハーフのタイトルをつかんだ青木は、勢いのあるチームメートとともにトラックシーズンに入っていく。