陸上・駅伝

國學院大・平林清澄 駅伝シーズンに向け、エースの自覚 三本柱から「突き抜けたい」

3月の学生ハーフに出場した國學院大の平林。エースとして今季の駅伝に挑む(撮影・藤井みさ)

いよいよ10月から大学駅伝シーズンが始まる。2022年度は駒澤大学が史上5校目となる三冠を達成した中、その陰であと一歩届かず、涙をのんだのが國學院大學だった。箱根駅伝こそ総合4位に終わったが、出雲駅伝と全日本大学駅伝はいずれも2位。今季「三本柱の一人」としてチームを引っ張る平林清澄(3年、美方)は、「昨年度の悔しさを晴らしたい」と意欲を燃やす。エースの自覚が芽生えた男に、駅伝シーズンへかける思いを聞いた。

國學院大主将・伊地知賢造が日本インカレ日本人1位 駅伝シーズンに勢いつける快走

ジョグ用のシューズは、あえて初心者向けを使用

真夏日が続く9月中旬、1カ月以上に及ぶ夏合宿を終えて、川崎市内の寮に戻ってきた平林は充実した表情を浮かべていた。

「故障もなく、良い流れできています。合宿では練習の質、量ともに求めて、自分の限界を少し見ることもできました。1日で限界を知ったわけではなく、1カ月を通して今の自分がどこまでやれるのかを確認できました。来年に向けての良い判断材料にもなったのかなと」

8月の月間走行距離は1200kmを超え、脚作りはできたという。昨年に比べると30kmほど増えた程度だが、その中身は違う。ジョグ用のシューズは、あえて負荷をかけるために反発力の少ない初心者用を使用。ポイント練習のインターバル走、ペース走でもハイレベルのタイム設定に挑戦し、一部の選手たちとともに追加で走ることも多かった。多少の疲労を感じながらも、最後まで質を落としていない。

「昨夏からは大きくは変わりませんが、走る本数を少し増やし、タイムも少し速くしていました。ちょっとした上積みができました。スタミナには自信を持っていましたが、走る『キャパ』が増えたと思います。夏は鍛錬期です。ここまで追い込むのは、レースのないこの時期しかできませんから」

8月の月間走行距離は1200km超。夏合宿を終え表情も充実(撮影・杉園昌之)

補強の重要性に気付かされ、10000m27分台に

厳しい目を持つ前田康弘監督も認める「陸上一直線」のストイックなランナーに、妥協の2文字はない。夏合宿中にどれだけ走ってもルーティンは変わらず、今年5月からより力を注ぐようになった補強トレーニングも、ほとんど同じようにこなした。

今春はけがの影響で関東インカレなどの主要レースを欠場。走れなかった期間に自らの体としっかり向き合い、意識が変わった。

「改めて補強の重要性に気づいたので、今も継続しています。補強の時間をただ増やすのではなく、効率を考えて取り組んでいるところです。メニューは体幹トレーニングよりも(股関節の)可動域を広げる目的のものが多くなっています」

効果はすぐに表れた。けが以前の映像と見比べると、動きが良くなり「(地面への)押し込みと推進力が上がった」と自らを分析する。周囲からは「フォームが力強くなった」と言われ、実際のレースでも結果を残した。7月8日に出場したホクレン・ディスタンスチャレンジ網走大会の10000mでは、これまでの課題だったラストで力を発揮し、國學院大歴代1位となる27分55秒15の記録で自己ベストを更新。エースとしての実力を結果で証明してみせた。

「前田さんとコミュニケーションを取りながら取り組んできたことが大きいです。強くなる上で、対話はすごく大事。まず自分の意見を伝えるところから始まると思っているので。前田さんは練習方法、フォームなど、自分自身では分からない点を指摘してくれます」

けがを経て、改めて補強の重要性に気付かされた(撮影・藤井みさ)

9月の日本インカレも前田監督と話し合った上で、自らの意志で出場を回避。10月から始まる3大駅伝に集中する。「ここからの準備が大事です。夏にどれだけ練習したかどうかではなく、駅伝シーズンで結果を残して初めて、この8月、9月が本当に良かったと言えると思います」

年始の箱根駅伝に刺激「自分も戦えるのかな」

2019年の出雲駅伝で初優勝を飾った國學院大に憧れて入学し、今年で3年目を迎えている。1年時から3大駅伝は皆勤賞。昨年度はすべてで主要区間を走ったが、他大学のエースに力負けしたことを痛感した。チームとしても出雲駅伝、全日本大学駅伝ではあと一歩及ばずに優勝を逃し、悔しさばかりが募った。今季は雪辱を誓う。

「自信満々ではないのですが、貪欲(どんよく)に勝ちにいきます。駒澤大の篠原倖太朗(3年)と鈴木芽吹さん(4年)、中央大の吉居大和さん(4年)に『負けたくない』というよりも、『勝ちたい』気持ちのほうが強い。一歩引くのではなく、ちゃんと一歩進んで戦いにいきます。エースとして勝たないといけない。たとえ、留学生であっても勝負したいです」

今年1月の箱根駅伝では、花の2区で区間7位。中央大の吉居、駒澤大の田澤廉(現・トヨタ自動車)、青山学院大の近藤幸太郎(現・SGホールディングス)ら日本人選手が上位を独占した結果に刺激を受けた。「日本人でも勝負できると思えましたし『自分も戦えるのかな』と思っています」

今年1月の箱根駅伝では「花の2区」を走り区間7位だった(撮影・藤井みさ)

チーム副キャプテンとしての立場もあり、前田監督からは「エースの自覚」を強く促されている。昨年度はあまり口にしなかった「エース」という言葉を発するようになってきた。「今は3人(主将の伊地知賢造、副将の山本歩夢)が中心となり、チームを引っ張っていますが、その中でも突き抜けたいんです」

たくましさが増した大黒柱の言葉には覚悟がにじむ。目標は3大駅伝すべてでの表彰台。ただ、寮の食堂では毎日、スローガンに掲げられた「てっぺん」の掛け軸を目にしている。

「意識はしますよ。今のチームで優勝を知っているのは前田監督だけです。僕らはまだ見たことのない世界。一つは取りに行きたい。今からできることはまだあるので、精いっぱいやります。今年のチームは強いので」

地に足をつける3年生エースは、最後の言葉にぐっと力を込めた。

スローガンの「てっぺん」をつかむため、エースとしての走りが期待される(撮影・杉園昌之)

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