陸上・駅伝

特集:第92回日本学生陸上競技対校選手権大会

國學院大主将・伊地知賢造が日本インカレ日本人1位 駅伝シーズンに勢いつける快走

勝ち切って日本人トップをとり、ゴール後にガッツポーズを見せる伊地知(すべて撮影・藤井みさ)

第92回日本学生陸上競技対校選手権大会 男子10000m決勝

9月14日@熊谷スポーツ文化公園陸上競技場(埼玉)

1位 リチャード・エティーリ(東京国際大1年) 28分15秒75
2位 シャドラック・キップケメイ(日本大1年) 28分17秒38
3位 スティーブン・ムチーニ(創価大1年)   28分22秒31
4位 スティーブン・レマイヤン(駿河台大1年) 28分25秒95 
5位 ビリアン・キビエゴン(山梨学院大1年)  28分53秒54
6位 ジョセフ・ムイガイ(平成国際大1年)   29分03秒96
7位 ムサンガ・ゴッドフリー(駿河台大2年)  29分05秒47
8位 伊地知賢造(國學院大4年)        29分31秒20
9位 小暮栄輝(創価大3年)          29分33秒08

日本インカレ1日目の10000m決勝で、國學院大學の主将・伊地知賢造(4年、松山)が日本人トップになった。「駅伝シーズンに向けて弾みをつけたかった」という言葉通りの快走だった。

日本人トップを目標に、狙い通りの走り

レースには東京国際大学のリチャード・エティーリ(1年)、日本大のシャドラック・キップケメイ(1年)ら力のある留学生が集結。スピードレースになることが予想された。ただこの日は午後7時の時点で気温31度、湿度55%と長距離には厳しいコンディションだった。

レースがスタートすると留学生は先頭で集団を形成。全体が縦長になって進んだが、2000m手前で早くも集団が割れはじめた。先頭集団には中央大の白川陽大(2年、大塚)らがついていったが離され、留学生7人の集団と日本勢の第2集団という形で進んだ。伊地知は第2集団の後方で、積極的に給水も取りながら周回を重ねた。

先頭集団も徐々にばらけ、4000m手前では先頭はエティーリとキップケメイの2人に。日本勢トップ集団は創価大の小暮栄輝(3年、樹徳)が引っ張り、伊地知は5000mを過ぎてから集団の中で徐々に位置を前にあげた。7000mをすぎると東洋大の小林亮太(3年、豊川)がギアを上げて前に出たが、ほどなくして吸収されると、また小暮が前に。その後も細かく集団の先頭が入れ替わったが、伊地知はラスト1周手前で一気にペースアップ。続く小暮を引き離し、「1」を掲げてゴールすると、大きくガッツポーズを見せた。

この結果でチームに勢いをつけ、駅伝シーズンを戦っていきたい

伊地知ははじめから駅伝シーズンに向けて勢いをつけるために、自分がこの大会で確実に流れを作ろうという意図でエントリーした。日本人トップは絶対目標。はじめは前に出るとマークされるため、5000mぐらいまでは落ち着いて走り、ラスト勝負だと考えていたという。

「本当にその予定通り走れたと思います」とまずはレースを振り返った。蒸し暑く厳しい気候だったが、埼玉出身の伊地知にとってこの熊谷の競技場は一番走ったと言っても過言ではない場所だ。「そこは熊谷が味方してくれたのかなと思います」という通り、地元の友人も応援に来てくれており、伊地知の力になった。

確実に日本人トップを取るために、臨機応変に走れたと話す伊地知。ラスト1周でのスパートについてたずねると「行けるところで行こう、と決めていて、『ここだ!』と思ったところが9600m地点だったというだけです。本当はもうちょっと余裕をもって(残り)1000mぐらいで仕掛けたかったんですが、勝つことができたのでよかったです」と意図を説明してくれた。

「スタート前から負ける気がしなかった」と、強気の走りを貫いた

けがで「陸上をやめたい」と悩んだ時期も

伊地知は昨年副主将を務めたのちに今シーズンの主将となったが、箱根駅伝後に疲労が取りきれていない中でマラソン挑戦のために走り込みをしたところ、1月末に右の後脛骨筋(こうけいこつきん、足首の少し上)を痛めてしまった。大学に入ってはじめての大きなけが。主将として「走りで引っ張ろう」と思っていた矢先に、まったく走れなくなってしまったことにもどかしさを感じた。思い悩み「陸上をやめたい」と思うことすらあったと口にする。

そんなつらい中でも地元の方や同期、チームのみんなに支えてもらった。周りの支えがあることを感じ、落ち着いてけがを治し、自分の体を見つめ直す期間となっていった。「結果的にしっかり戻ってくることができて、こうやって大きな結果を出すことができたので、心も体も成長できた期間だったと思います」

大学に入ってから初めての大きなけがで、陸上を辞めたいとすら思ったこともあったと話す

4月下旬ぐらいから徐々に走り出し、レースに復帰したのは7月の網走学連記録会の5000m。13分40秒51の走りで自己ベストを更新し、スピードに自信を感じ、いい流れで夏合宿に入った。夏合宿ではしっかりと走り込むことができ、8月の月間走行距離は1000kmを超えたという。そして今回のこの結果を受けて、駅伝でも前半区間で戦える力がついてきたのでは、と話す。

駅伝シーズン、目指すは「てっぺん」

今のチームの雰囲気は、「自分が入学してから一番いい雰囲気」だと話す伊地知。Bチームが走っている時はAチームが応援し、Aチームが走ればBチームが応援し……と、「みんなで強くなっていきたい」という意識が感じられるチームになっているという。戦力的にはどの選手が特別強いということはなく、だからこそメンバーをいろんな区間に配置できるのが強みだとも話す。

「お互い認め合って、頑張っていることを『頑張ってるね』って言えるようなチームになる、というのをすごく意識しています。コミュニケーションを取ったり、ジョグを一緒に連れていったりとか、一人ひとりを引っ張っていくという形で取り組んできました」。伊地知の細やかな取り組みがチーム全体を徐々に変えていった。

秋の駅伝シーズンの目標は「三大駅伝表彰台」だが、スローガンの「てっぺん〜まだ見ぬ赤紫の快進撃」にある通り、チームが目指しているところは優勝だ。昨年は出雲駅伝、全日本大学駅伝で準優勝、箱根駅伝では表彰台に乗れず4位。その悔しさを1回も忘れずにここまできた。「最高の思い出で終わらせたい」と話す伊地知は、駅伝シーズンを前に國學院大にとって最高のスタートを切ってみせた。

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