野球

特集:2024年 大学球界のドラフト候補たち

愛知工業大・中村優斗 「侍ジャパン」選出の157キロ右腕 中学時代は公務員志望

侍ジャパンに選出された、愛知工業大学の中村優斗(高校時代を除き、すべて撮影・辻健治)

最速157キロの右腕、愛知工業大学の中村優斗(3年、諫早農業)が野球日本代表「侍ジャパン」強化試合のメンバーに初めて選ばれた。全国大会出場は未経験の21歳。プロ選手とともに日の丸をつけるトップチームで3月6、7日にある欧州代表との国際試合へ臨む。

【特集】2024年 大学球界のドラフト候補たち

誕生日にちなんで、背番号は「28」

「選出されて非常に驚きもありますが、大変光栄。自分の持ち味であるストレートを生かして、打者を圧倒できるようなピッチングをしたい」

2月14日午後、中村は大学でメンバー発表の配信映像を見守った。侍ジャパンの井端弘和監督に名前を読み上げられても、表情は変えず落ち着いた様子だった。今回は大学生4人が選出され「4人の中でも一番目立ちたいです」。背番号は誕生日の2月8日にちなみ、自ら希望した「28」に決まった。

背番号は「28」。侍ジャパンに選ばれた大学生4人の中で「一番目立ちたい」と話す

中村が注目を集めたのは昨年12月、松山市での大学日本代表候補の合宿に参加したときのことだ。視察に訪れた井端監督の前で紅白戦に登板し、自己最速を更新する157キロをマークするなど好投した。身長176cm、体重85kg。変化球はスライダー、フォーク、カーブ、カットボール、チェンジアップを操る。

今秋のドラフト1位候補にも挙げられるようになったが、高校時代は全国的には無名の存在だった。

コロナ禍で知った「野球ができることは当たり前じゃない」

長崎県諫早市出身。小学2年から野球を始め、中学まで軟式でプレーした。

中学生の頃は「県庁で働いて地元に貢献したい」という将来を思い描いていた。そして、公務員への就職実績が高かった県立諫早農業高校の農業土木科へ進んだ。

進学を機に硬式野球へ移行すると、「ボールが指にかかる感じがあって、それが大きかった」。中学2年で120キロ台前半だった球速が、高校2年を迎える頃には140キロを超えるようになった。

「最低でも140キロは出ないと大学では野球を続けられないと思っていたので、もうちょっと頑張ろうと。大学へ行って150キロを出したいという気持ちが芽生えました」

高校最後の夏はコロナ禍で全国選手権大会が中止に。目標としていた甲子園への道がなくなったことで、チーム内には意欲を失うメンバーもいたという。長崎独自大会は1回戦で長崎日大高校に敗れた。

思うような形で高校野球を終えることができなかった。中村は「野球ができることは当たり前じゃないと気付かされた。公務員よりも、野球に対する気持ちが強くなりました」。

高校から硬式野球に移行し、高校2年には球速140キロを超えた(撮影・朝日新聞社)

そんな中村に最も早く声をかけたのが、愛工大だった。

2017年からチームを率いる平井光親監督は、元千葉ロッテマリーンズの選手で、パ・リーグの首位打者を獲得した経験がある。平井監督は中村について「4年間で力をつければプロへ行ける」と評価していた。

一方の中村は、平井監督がプロで活躍していたことは知らなかったという。「調べてみたり監督の話を聞いてみたりしたら、本当にすごい方だなと。そういう人に声をかけてもらって、自分もいずれはプロの世界に行ってみたいと思いました」

山本由伸の動画を参考にフォークを習得

愛工大では、1年春から先発マウンドを任された。

平井監督からはフォークを覚えるようにとアドバイスを受けた。「結局は球が速いだけ。(打者が)慣れてきちゃったら、やっぱり三振を取るためにはストレートも大事なんだけど、落ちる球がないと」と平井監督は考えた。

平井監督からのアドバイスを受け、フォークを習得した

中村は投球の幅を広げるため、山本由伸(現・ドジャース)の動画などを参考に様々なボールの握り方を試し、落差のある変化球を磨いた。また、苦手だった走り込みや本格的なウェートトレーニングにも取り組んだ。

中村は「みんな意識が高くて、疲れた時でも一緒にやろうと言い合った。周りのメンバーに恵まれたし、1年から試合で投げさせてもらえたのが成長につながった」と振り返る。

ベンチプレスは50kg程度だったのが110kgに、デッドリフトでは140kgから230kgまで持ち上げられるようになったという。鍛錬の結果、150キロを超える速球を投げ続けられる強い体ができた。「変化球をうまく使えるようになった。まだ伸びる」と平井監督は言う。「(中村は)反発することがない。まずは聞いて、やってみようとする。嫌なことはニヤッと笑いますけどね」

初めてのドーム球場、初めての大歓声

プロ野球選手になるという新たな夢も現実味を帯びてきた。しかし、中村自身は全国大会に出場した経験がまだない。チームも愛知大学リーグでの優勝は2019年春を最後に遠ざかっている。

「どれだけ力があっても『チームを勝たせられない』という評価につながる。自分が勝たせられるピッチングをすればいいだけなので、チームを全国へ連れていきたい」と話す。

記者会見後に平井監督(右)と握手

侍ジャパン入りが有力視されるようになると、体作りのギアを入れ替えた。「プロテインも1日2、3杯だったのを5杯くらいに増やした。結構きつかったですけど、侍ジャパンでいいパフォーマンスを見せたいので頑張りました」

3月6、7日に京セラドーム大阪である強化試合は、初めて大歓声を浴びながらのマウンドとなりそうだ。「ドームでは一度も投げたこともないので、どんなマウンドの硬さなのかとかワクワクします」と初々しさを見せつつ、「任されたポジションを全うするだけ。観客が多いほど燃えるタイプなので、どれくらいアドレナリンが出て、球速が出るのか楽しみ」。

侍ジャパン入りを自分の糧にするのはもちろんだが、「すごい選手がたくさんいるので、トレーニングとかについて聞きたい。チーム(愛工大)はみんな優勝をめざしているので、共有できることは共有して、いいところはチームに持って帰りたい」。トップレベルでの経験を仲間たちにも還元していくつもりだ。

in Additionあわせて読みたい