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特集:2024年 大学球界のドラフト候補たち

関大・金丸夢斗 侍ジャパントップチーム選出の世代ナンバー1左腕、2年秋からの無双

今秋のドラフト1位候補として注目を集める関西大の金丸(撮影・室田賢)

1年秋に関西学生リーグ戦でデビュー登板を果たすと、2年秋から無敗のまま勝利数を積み上げ、3年間で挙げた勝ち星は計19勝。関西大学の金丸夢斗(3年、神港橘)は最速153キロのストレートに加え、切れ味鋭いスプリット、カーブなどを駆使し、今秋のプロ野球ドラフト会議の1位指名候補に挙げられている。今年は年始の練習からキャンプまで、多くのメディアから注目を集めている。

【特集】2024年 大学球界のドラフト候補たち

父は甲子園で何試合もジャッジを重ねたベテラン審判員

「初めの頃は気になることもありましたけれど、今はもう割り切っています。特にプレッシャーにはなっていないですし、自分はプレッシャーには強い方なのかもしれません」

涼しげな表情を浮かべ、金丸は現状をそう明かす。昨季から関大エースの風格を漂わせ、打者を圧倒するピッチングを見せてきたが、グラウンドを離れれば穏やかな笑顔を見せる21歳の大学生だ。

幼い頃から野球は身近な存在だった。父の雄一さんは甲子園で何試合もジャッジを重ねてきたベテラン審判員で、野球経験者。小学生の時から父と一緒に練習し、中学時代は学校の軟式野球部でプレーした。その後、神港橘高校に進学したが「当時はストレートもそこまで速くなかったし、本当に普通のピッチャーでした」と本人は振り返る。

高校では1年秋から公式戦のマウンドに立つようになったが、県内では決して目立った存在ではなかった。ただ「速いストレート」に憧れていた金丸は、2年秋のオフから本格的に体作りに着手。筋力トレーニングに励み、食事量も増やして体を大きくすることに努め、3年春の大会に臨むはずだったが、よもやの事態が待ち受けていた。新型コロナウイルス感染拡大による休校、そして様々な大会の中止だ。

「プレッシャーには強い方なのかもしれません」(撮影・沢井史)

コロナ禍でも自分を追い込めた

2月下旬からグラウンドに行くことができず、全体練習もできなくなった。休校で自宅待機となり、外に出ることすら許されず、限られた環境下で自主練習をするしかなかった。

「人と練習することができなかったので、あの頃は近くに走りにいったり、自宅にある器具を使ってトレーニングをしたり、父とキャッチボールをしていました。ただ、『どれくらいやればいいのか』という基準が分からなかったので不安はありました」

暖かくなるにつれて団体行動の制限が少しずつ解かれても、これまで行ってきた通常の練習には程遠かった。それでも秋から地道に続けてきたトレーニングのおかげで、練習着がパツパツになるほど体が大きくなっていることは自覚していた。「確か、年明けから夏までで体重が7kg増えていました。例年より運動量は減っていましたけれど、地道に体作りができたことが良かったです」

最後の夏の大会も中止になったが、各都道府県で行われた独自大会でチームは8強まで進出した(県高野連の方針により5回戦で打ち切り)。球速も140キロを超えるようになっており、例年通りに大会が行われていたら、勝ち進むたびに高校野球界で金丸の名が広まっていたかもしれない。多くの「たられば」が頭の中をよぎりそうになる中、金丸はむしろ窮地を力に変えていた。

「コロナがあったから自分で考えて練習できるようになって身についたことも多かったと思いますし、自分を追い込めたことで140キロまで投げられたのかもしれないです」

高校最後の夏、兵庫独自大会で力投を見せた(撮影・滝坪潤一)

速球とスプリットのコンビネーションを武器に

高校3年間で成長できたから、大学4年間でもっと成長してプロに行きたいという明確な目標もできた。関大では1年秋の近畿大学戦でリーグ戦デビューを果たし、「こんなに早く試合で投げさせてもらえるとは思わなかったです」と驚いていた。いきなり151キロを計測。周囲が驚く一方、本人が気にしたのは変化球だった。

「ストレートは良い感じで投げられたけれど、あの時の自分の変化球では大学レベルでは通用しないと感じました。いつでもカウントが取れる変化球と、速い変化球、スライダーも武器にしたいと思うようになりました」

その後は変化球の精度が上がったことで、三振を奪える場面も増えた。コースのギリギリに刺さるストレートで相手打者に圧を与え、鋭く落ちるスプリットを決めれば、もう敵なしだ。2年秋から無双状態を続けられているのは、そういった投球技術の高さが何よりの武器となっている。

「負けられないプレッシャーは正直ありますが、やるべきことをしっかりやった積み重ねが勝ちにつながっているので、春のシーズンも余計なことは考えすぎずにやっていきたいです」

速球とスプリットのコンビネーションを武器に打者を仕留める(撮影・室田賢)

勝てるピッチャーへ、プロ野球選手から吸収

金丸が理想とする姿は「勝てるピッチャー」だ。

「単に抑えるだけでなく、チームに流れを持ってくるピッチャーです。自分の武器はストレートと奪三振率。三振を取ることで次の打者や相手チームを圧倒できますし、試合を有利に進められます。そういうインパクトを与えることも大事ですが、一方で打たせて取って流れを呼び込むことも意識していきたいと思います」

2月14日に野球日本代表「侍ジャパン」のメンバーに選出され、金丸を含む4人の大学生も名を連ねた。井端弘和監督は、7日に京セラドームで行われる欧州代表戦で金丸に先発マウンドを任せることも明言した。

「プロ野球選手と一緒にプレーすることは目標にしていたことなので、すごくうれしいです。今までにない経験ができるということで、(選出後は)緊張感のある時間を過ごしてきました。同じ左投手の隅田(知一郎、西武)投手や宮城(大弥、オリックス)投手に色んなことを聞いてみたいです」と笑顔を浮かべる。

トップチームの日の丸を背負った金丸が、一体どんなピッチングを披露してくれるのか。大学球界の世代ナンバーワン左腕は、さらなる舞台へ向け胸を高鳴らせている。

プロ野球選手から吸収し、自身の成長へとつなげる(撮影・大坂尚子)

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