ラグビー

早稲田大学に女子部が誕生 「女子もラグビーが当たり前」の時代へ、全員でスクラム

早大ラグビー部女子部の発足会見。後列左が栁澤ダイレクター、後列右がラグビー部の恩蔵部長(撮影・西田哲)

創部107年目の早稲田大学ラグビー部に、初めて「女子部」が誕生した。ラグビー経験者の女子学生4人が、「なぜ男子は部に入れて、女子には部がないのか」という素朴な思いを、ラグビー部関係者、大学側に訴えたことがきっかけだった。発足した4月1日に4人だけだった部員は、発足会見を行った18日までに11人に増えた。将来的には「日本一」とオリンピアンの輩出を目指しているが、当面は日本最高峰の女子7人制大会「太陽生命ウィメンズセブンズシリーズ」への昇格を狙う。

日本代表は五輪出場、学校の部活動としては低調

日本の女子ラグビーは、オリンピックに7人制が採用されたリオ大会から今夏のパリ大会まで3回連続で五輪出場権を獲得している。ただ、女子選手の活動はクラブチームが主体となっており、学校の部活動としての裾野は広がっていない。関東の大学では、日本体育大学・流通経済大学・立正大学などに女子部があるものの、早稲田大・慶應義塾大学・明治大学・帝京大学などにはなかった。

大隈講堂の前で。前列のユニホーム姿が創設メンバー4人、前列中央は横尾HC(撮影・西田哲)

創設メンバーとなった4人も、小中学生までは男子と一緒のラグビースクールでプレーし、高校や大学入学後は女子のクラブチームで競技を続けてきた。高校年代以降は女子の受け皿が少なく、國谷蘭(3年、桐蔭学園)は「女子ラグビーは界隈(かいわい)が狭い」と自嘲気味に語る。ただ、界隈が狭いおかげで早稲田大入学前から4人が知り合いだったことが、今回の行動につながった。

「なぜ部がない?」学生の進言が、大学を動かす

4人が「大学でラグビーをやりたい」という思いを、男子のラグビー部OBなどに伝えていたところ、栁澤眞さん(2003年卒、今回女子部ダイレクターに就任)に話が届いた。「女子ラグビーへの思い入れは特になかった」という栁澤さんだったが、昨年5月に4人と面会して話を聞いていくうちに、「大学で勉強もラグビーも両方やるという、男子選手には当たり前の選択肢が、女子選手にはない」ということに気付き、ラグビー部、大学側と、女子部立ち上げに向けた交渉を始めたという。

千北主将(左)と横尾HC。女子の道を切り開いてきた同志でもある(撮影・西田哲)

8月から始まった交渉は、態勢をどうするか、グラウンドは、設備は、予算は、と多岐にわたったが、ラグビー部の中に男子と並立して女子部を設置することでまとまった。ラグビー蹴球部部長の恩蔵直人教授は「早稲田大学としても女子アスリートの強化が掲げられているが、ラグビー部に女子選手はいなかった。その中で彼女たちから声が上がった」と背景を説明。オックスフォード大学やケンブリッジ大学、ハーバード大学など海外の大学では1980年代から女子ラグビー部が発足していることを挙げ、「女子部を作ることで男子も活性化してほしいし、早稲田にとどまらず日本全体のラグビーの活性化・底上げにつなげたい」と、女子部設立の意義を語る。

HC「創部にこぎつけた選手たちを尊敬」

選手たちも、早稲田大に女子部が発足することの意味を、強く意識している。初代主将の千北佳英(3年、田園調布雙葉)は、「大学の教育活動の中で、部として(女子ラグビーが)行われるのは意義が大きい。伝統ある早稲田で女子部ができるというのは、女子ラグビーの裾野を広げるという意味でも大きな役割があると思った」。寺谷芽生(3年、関東学院六浦)も「歴史ある早稲田のラグビー部に女子部が設置されたことに感謝し、恵まれた環境と仲間とともに日本一を目指したい」と語った。

会見には海外含め多くのメディアが集まった。「『女子部スタート』とHPに出したら、問い合わせがたくさん来た」と恩蔵部長(撮影・西田哲)

今回就任した横尾千里ヘッドコーチは早稲田大学出身。リオ五輪など日本代表歴は長いが、競技は学外のクラブチームに所属していた。横尾HCも在学当時、女子部設立を願って「門をたたいていた」というが、実現には至らなかった。その経験もあり、今回の創部を「正直、すごくうらやましいと思っている。同時に、ここまでこぎ着けた全員の努力に、尊敬の気持ちを持っている」と、連帯感を感じている。男子の中に入って環境をやりくりしながらプレーする道を切り開いてきた自身の経験を生かし、選手たちとともに、部を育てていく覚悟だ。

SNSでの宣伝と友だちを誘って部員集め

部員数が懸念されていたが、創設メンバー4人がラグビーの授業を受けた友だちに声を掛けたり、SNSを開設して宣伝したりした結果、すでに選手として5人、マネージャー・トレーナーとして2人が入部。ほかにも入部希望の連絡が来ているという。新規入部者にラグビー経験者は少ないが、会見では「未経験を言い訳にするつもりは一切ない」「気合は人一倍ある」などと、未経験者からも力強い言葉が続いた。

男子と同じ早大上井草グラウンドでの練習風景。練習は早朝や夕方・夜間が中心(早稲田大学ラグビー蹴球部女子部提供)

練習は4月11日から、男子が拠点とする上井草グラウンドで始動した。横尾HCは「経験者と未経験者が一緒に切磋琢磨(せっさたくま)して練習をやっている。レベルの差は大きいが、未経験の選手から、私たちには考えられないような(発想の)プレーが出たりしている」と、手応えを感じている。

来月の「昇格大会」がいきなりの大一番

来年の太陽生命ウィメンズセブンズシリーズへの出場権を争う「昇格大会」は、来月開催される。創設メンバーのうち、3年生の千北、國谷、寺谷にとっては、学生最後の来シーズンに大舞台に立てるかどうかの大一番が、いきなりやってきた形だ。昇格条件は「優勝」と、かなりハードルが高いが、横尾HCは「優勝を狙っている。選手たちにも『優勝を目標に掲げない理由はない』と伝えている」と鼓舞している。

栁澤ダイレクターは、女子部創設をきっかけに「最終的に、日本で女子がラグビーをやるのが当たり前になるような状況が作れればいい」と語る。伝統校の新たな取り組みが、女子ラグビーにとどまらず、日本ラグビー界全体にどんな影響を与えるのか。この挑戦に、注目していきたい。

記者会見・撮影の終了後、船出を祝って選手らだけで自撮り(撮影・西田哲)

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