早稲田大副将・永嶋仁 チームのため泥臭く、競技生活の最後に「オールアウトする」
11月23日、関東大学ラグビー対抗戦の伝統の一戦、早稲田大学対慶應義塾大学の「早慶戦」が行われる。両校の対戦は1922年に始まり、100回目を迎える今年は東京・国立競技場で開催される。定期戦の対戦成績は早稲田72勝、慶應20勝、引き分け7で、最近は1引き分けを挟んで早稲田が11連勝中だ。節目の試合を前に、キーマンである両校の副キャプテンに話を聞いた。早稲田大の副将の1人はFL(フランカー)永嶋仁(ひとし・4年、東福岡)。1、2年こそ公式戦に出場できなかったが、泥臭いプレーで3年時からアカクロをつかんだ身長179cm、体重96kgのフランカーだ。
帝京大に敗れるも、強化に手応え
副将のFL永嶋が引っ張る早稲田大FW陣は、春からスクラム・モールにこだわって強化してきた。春シーズンの途中から、OBであり横浜イーグルスのコーチだった佐々木隆道コーチも加わり、細かく指導を受けたという。
永嶋は「昨季は、秋までモールを磨いてきたのに、大学選手権の決勝は、モールと見せかけてサインプレーをして……。真っ向勝負ではなかった。だから今季は、春からスクラム、ラインアウトモールは絶対負けない、最悪でもイーブン、という気持ちで取り組んできた」という。
昨季の大学選手権決勝で20-73と大敗した帝京大学と、11月5日に対戦。敗れはしたものの、後半最後の10分まで3点差と善戦。スクラムでは課題が出たものの、後半、モールからトライを挙げるなど、最終スコアは21-36。一定の成果の見えた試合となった。
心掛けたのは「明るさとエナジー」
昨春はケガの影響でチャンスをものにできなかった永嶋だが、「外からチームを見ていて、明るさ・エナジーが足らないと感じた」。そのため、秋は練習から声やエナジーを出してプレーすることを心掛けたという。それが大田尾竜彦監督の評価につながり、10月の日本体育大学戦で初めてアカクロを背負い、早明戦では初先発を果たした。
大学4年となり、「何かしらのリーダーになるのでは?」と思っていると、伊藤大祐主将(桐蔭学園)と大田尾監督から「副将になってほしい」と言われた。「同期にはLO/NO8村田陣悟(京都成章)もいたし、正直、不安もありました。プレーで打開できる選手ではないとわかっていましたが、自分にできることを精いっぱいやることがチームのためになるかな」と考え、引き受けた。「昨季同様、明るさ、エナジーを出していきたい」という。
高校は東福岡 黒衣役に徹し共同主将に
福岡県出身の永嶋は、水泳やピアノなど習い事をしており、5歳のとき草ヶ江ヤングラガーズで、「本当に健康のために」ラグビーを始めたという。中学時代、スクールは県内3位が最高成績だったものの、永嶋は、現早稲田大主将・伊藤、現明治大主将・廣瀬雄也(東福岡)、現筑波大主将・谷山隼大(福岡)らと県選抜に選ばれ、全国大会に出場。京都選抜に敗れて惜しくも準優勝だった。
高校は、早稲田大でもプレーした4つ上の兄・一光と同じ修猷館高校への進学も考えたという。ただ、高校3年時の「花園」こと全国高校ラグビーは99回目の大会にあたり、記念大会ではないため福岡県からは2校出場はできない。「どうしても一度は花園を経験してみたい」と考え、全国的強豪の東福岡へと進学した。
しかし、先輩には現日本代表FL福井翔大(埼玉ワイルドナイツ)らがおり、1~2年時は1試合も公式戦に出ることはかなわなかった。しかし3年時、廣瀬とともに共同主将に指名される。「2年間、公式戦に出られず悔しかったですが、練習など普段の姿勢が評価されて選ばれたのだと思います。130~140人部員がいる中で、組織への関わり方を学ばせてもらいました」
東福岡には毎年、福岡県を中心にタレントが入部してくる。そんな中で永嶋は、「個性、才能を持った選手が多かったので、そういう人がおろそかにする、下に落ちたボールへの働きかけなどを自分がやろう」と黒衣役に徹した。3年時はレギュラーとなったが、春の選抜大会は準々決勝、自身初の花園も準決勝で、伊藤が率いていた桐蔭学園に敗れて、頂点には立てなかった。
フィジカル鍛え、3年でレギュラーに
大学は、「小さいころから憧れていたし、ラグビー以外でも評価される大学に行きたかった」と早稲田大学を志望した。兄・一光が一浪で入部しており「兄と一緒にプレーしたい気持ちもあった」と話す。高校の成績はオール5に近かったという永嶋は、AO入試で早稲田大学の社会科学部に見事合格した。
1年生の新人練習までに体重を80kgから88kgに増やすなど、1~2年時は、何とかジュニア選手権には出場できたが、「(Aチームの)試合に出られるような立ち位置でもなかったし、自分が試合に出る姿を想像できなかった」と振り返る。「高校までは周りのキャラがすごかったので、自分が、彼らの見えないところを頑張っていれば良かったが、大学では、1人のプレーヤーとしてキャリーしたりタックルしたり、戦えるようにならないといけない」。フィジカルトレーニングにも精を出して、現在では96kgへと増やし、大学3年時からはAチームのレギュラーに絡むことができるようになった。
卒業後は就職 競技生活最後に「荒ぶる」を
ただ永嶋には悔しい思い出がある。昨年、初めて先発で出場した早明戦、ファーストプレーで明治大のFL福田大晟(3年、中部大春日丘)にタックルをはじかれて、トライにつながってしまったのだ。「このシーンは今でも覚えています。同じような場面があったら絶対止めたい!」
永嶋は大学で競技をやめて、広告関係の会社に就職する。本気でラグビーに取り組む時間は、あと2カ月を切った。「今季の目標は、大学選手権で優勝して『荒ぶる(※優勝した時にしか歌うことができない第二部歌)』を歌うことです。高校時代も日本一になれなかったし、大学1年時は準優勝、昨季も準優勝だったので、今季は絶対に優勝したいという気持ちが強い。チームのために最後、オールアウトしたい」と自分に言い聞かせるように言った。
「誰よりも体を張るタックルを見せたい」
関東大学対抗戦は残り2試合。11月23日の100回目の「早慶戦」、そして12月3日の「早明戦」だ。ともに国立競技場で行われる。
早稲田大を応援するファンにどういった姿を見てほしいかと聞くと、永嶋は「チームとしては、FWがしっかりスクラムを押して、ラインアウトモールでトライを取る姿を見てほしい。個人としては、誰よりも体を張るタックルや泥臭いところをやりたい」と意気込んだ。
日本一へのラストチャンスとなった大学選手権に勢いをつけて挑むため、アカクロの副将はチームの先頭に立って声を出して引っ張り、ライバル2校からの勝利を目指す。