早稲田大・栗田文介 一般受験から花開いた能力「夢にも思わなかった」桜のジャージー
5月27日、東京・秩父宮ラグビー場で、大学生1~3年生だけで編成されたラグビーU20日本代表が10年ぶりにニュージーランド学生代表(NZU)と対戦した。10年前は19-61で完敗した相手。ヤングジャパンにとっては6月24日から南アフリカで開催される「ワールドラグビーU20チャンピオンシップ」を控え、セレクションを兼ねた強化試合となった。
昨シーズン、インパクトを与えたルーキー
夏を感じさせる天候の中、互いに点を取り合うシーソーゲームとなった。U20日本代表はFWのスクラムでプレッシャーをかけ、ラインアウトも安定。いいボールをBK陣に供給できたことが功を奏し、8トライを挙げて52-46で勝利を収めた。
5月上旬に行われたサモア遠征に参加できず、この試合で初めて桜のエンブレムがついたジャージーに袖を通して50分間、動き回った選手がいる。早稲田大学のFL(フランカー)栗田文介(2年、千種)だ。
「U20日本代表として戦えたことは誇らしかったです。最初、緊張して体が硬かったが、コンタクトしたら動けるようになって楽しめました。ずっと桜のジャージーに憧れていたので、良い経験になった!」と破顔した。
栗田といえば、当初はまったく無印の存在ながら、昨季の大学ラグビーシーンで最もインパクトを与えたルーキーの一人となった。関東大学ラグビー対抗戦の初戦、青山学院大学戦でLO(ロック)として途中出場を果たして「初めてアカクロジャージーを着られたときはうれしかった」。
その後は「自分よりも大きな選手がいるので低いプレーを心がけた」という通り、力強いボールキャリーとタックルでFLのレギュラーの座を射止め、国立競技場で行われた大学選手権決勝(帝京大学戦)の舞台にも立った。そして直後にU20日本代表候補に選ばれるなど、世代トップの選手と渡り合っていた。
高校時代は「花園」をかけた戦いで初戦敗退
高校時代は愛知県の強豪校・中部大春日丘のメンバーが中心となった国体代表に選ばれたものの、コロナ禍で大会自体が行われなかった。「花園」出場をかけた戦いで千種は初戦敗退。このときの花園を制したCTB(センター)で、現在は早稲田大とU20日本代表でともにプレーする野中健吾(2年、東海大大阪仰星)は栗田について「高校時代はまったく知らなかった」と正直に明かした。
栗田は小学校6年生のとき、愛知・名古屋ラグビースクールで競技を始め、当初から早稲田大のラグビーに魅力を感じていたという。中学時代に大学選手権で優勝した早稲田大のアカクロジャージーを目の当たりにし、「早稲田大に進学するために千種を選びました」と振り返る。
千種から早稲田大ラグビー部に進んだOBには後藤彰友(現・トヨタヴェルブリッツGM)やPR(プロップ)の瀧澤直(NECグリーンロケッツ東葛)らがいた。また1年時から活躍しているNO8村田陣悟(4年、京都成章)に憧れていた。
ただ、競技実績が乏しくスポーツ推薦には応募できず、評定平均が基準に達していなかったため指定校推薦も得ることができなかった。浪人覚悟で一般受験に臨み、見事にスポーツ科学部に合格した。
受験で体重が増え、体重110kgで入部したという。Dチームからスタートしたが、徐々に体を鍛えて103~104kgほどに絞ると「1年生らしいがむしゃらさとパワフルさが評価されたのかな」と本人が言うとおり、Aチームのメンバーに絡むことができるようになった。
早稲田大の大田尾竜彦監督は「(一般受験で入って来てくれて)最高です! 文介の強みは(ランで)ゲインラインを越えることができる。プレーの継続性など、もう一つ上のプレーをしてほしい」とさらなる成長に期待を寄せている。
「高いレベルで高め合うことができている」
栗田は2月にあったU20日本代表候補の活動で左足を負傷し、5月のサモア遠征には参加することができなかった。その間、昨季後半には100kgを切ってしまった体重を、フィジカルを鍛え直して再び104kgまで増やした。4月にけがから復帰し、春季大会で好調を維持していたことから、再びU20日本代表に招集された。NZUとの試合で、先発のチャンスを得たというわけだ。
南アフリカ遠征に参加できるメンバーは30人で、6月上旬の合宿を経て発表される予定だ。今年、フランスで行われるラグビーワールドカップに向けた日本代表、代表候補選手の中にも、U20日本代表で活躍した選手は多い。
1年前には「夢にも思っていなかった」という桜のジャージー。栗田は「高いレベルで高め合うことができている。体重が増えても意外と走れていて、自分の強みであるボールキャリー、低いタックルにもっと力強さが出てきた。アピールしてしっかり(メンバー入りを)つかみたい。もし選ばれたら、自分の仕事をまっとうしたい」と語気を強めた。
無名だったが、憧れの早稲田大で花開いたラガーマンが、世界の舞台でさらなる飛躍を遂げようとしている。