東北大学・浅井圭三郎　選手から〝実況〟へ異色の転身、見つけた「自分が輝ける」場所

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「空振りの三振！仙台大学、2シーズンぶり10回目のリーグ戦優勝！マウンド上、歓喜の輪ができあがりました。最後は渡邉一生が魂の連投、リードを守り切りました！」

仙台六大学野球連盟の配信で実況を務める東北大学・浅井圭三郎による、明快かつ情熱的な実況が人気を集めている。昨春までは硬式野球部の選手としてプレーしていた浅井。ユニホームを脱ぎ、「声」で野球と携わることとなったのはなぜか。その経緯や思いを聞いた。

兄2人の影響で白球を追い、国立大の硬式野球部へ

浅井は埼玉県熊谷市出身。小学校低学年の頃にソフトボールを始め、野球をしていた2人の兄に影響を受け、小学5年から野球に移った。

中学時代は野球漬けの毎日を過ごしながら勉強にも精を出し、国立の進学校である筑波大附高に進学した。高校では野球部で捕手としてプレーしたが、3年間で公式戦出場はゼロ。最後の夏はベンチ入りし、代打での出場機会に備えてバットを振ったものの、打席に立つことはできず、チームも初戦で敗れた。

兄2人がともに国立大学で硬式野球を継続していたこともあり、浅井自身も大学で硬式野球部に入るつもりで受験に臨んだ。1浪の末、東北大薬学部に合格。合格した次の日にはSNS上で見つけた東北大硬式野球部の新歓アカウントに連絡し、キャンパスからグラウンドに通うための原付きバイクを購入するなど、入部に向けた準備を進めた。

練習中はマネージャー業務のほか、ノッカーや打撃投手も

待ち望んだ大学野球は想像以上にレベルが高く、捕手のレギュラー争いに絡むことができずにいた。打撃でアピールしようと練習に励んだが、出場機会は一向に増えず、2年春の新人戦で3打数無安打3三振に倒れてからは「選手としてやっていくのは厳しいかな」と心が折れかけた。

光が見えずに苦しんでいた3年春、転機が訪れた。仙台六大学野球連盟が配信を始めるにあたって各大学の選手が解説を担当することになり、東北大からは鈴木得央監督の推薦で浅井が送り込まれたのだ。その際に解説だけでなく、実況にもチャレンジした。

横浜DeNAベイスターズのファンで、幼少期からプロ野球の中継をよく目にしていたとはいえ、実況をするのは初めて。それでもそつなくこなし、周囲から高い評価を受けた。「実況の方が自分は輝けるのではないか」。そう直感した浅井は選手をやめる決断を下した。

硬式野球部では裏方に回り、マネージャー業務のほか、ノッカーや打撃投手を務めて選手の練習をサポートしている。また今夏の練習試合などでは、監督不在の際に監督代行も任された。浅井は「選手がほかのことに気をとらわれずに練習できたらいいなと思い、便利屋というか、やれることをやっています」と笑う。

心がけているのは「テンションの強弱」

実況のスキルを上げるため、昨冬からはアナウンス教室に通って現役アナウンサーから声の出し方や実況のコツを教わっている。また球場で指導を受けながら実況する機会もあるといい、経験を積みつつ着実に腕を上げてきた。

心がけているのは「テンションの強弱」。昨秋、自身が担当したサヨナラゲームの中継を聞き返した際、「（声が）うるさいな」と感じた。以降は「聞いている人が聞きやすいようなしゃべりをしよう」と肝に銘じ、本塁打や得点のシーンでは声を張り上げる一方、あえて声のトーンを下げたり、映像だけを見せて声を入れなかったりする場面もつくり、メリハリをつけている。

「野球は球場で見た方が面白いとは思うんですけど、目の前の試合の面白さを少しでも伝えられるよう、意識しています。配信を見て選手が頑張っている様子が伝わればうれしいですし、配信を入り口にして球場に見に来る人も増えてほしいです」

実況の仕事は、聞きやすい声を発するだけでは務まらない。試合にはタイトル争いの状況を把握するためのデータを作成するなど、万全の準備をして臨む。試合中はスコアをつけながら実況する傍ら、解説で隣に座る各大学の部員からイニング間を使って選手の特徴などを聞き出し、手元の情報を増やしていく。すべては有益かつ正確な実況を視聴者に届けるためだ。

実況は中立、でも「東北大の勝ち試合を実況したい」

東北大の試合を担当する時は自然と力が入る。劇的な場面では感情があらわになってしまうこともある。「実況である以上中立を意識している」と言いつつ、「東北大の勝ち試合を実況したい」と本心は隠さない。特に苦楽をともにした同期が活躍した場面では、湧き出る喜びと「自分もこうなれていたらな」という思いを抑えて言葉を紡いでいる。

大学に入学する前は製薬会社などへの就職を考えていたが、現在は「いずれはプロ野球の試合を実況してみたい」とアナウンサーの道に進む未来も思い描いている。

さらに自身の「後継者」も嘱望しており、「選手でなくてもこういうかたちで野球に携わる方法があるというのが広まって、選手をやめた人でも野球部以外の人でもいいので、挑戦してもらえたらうれしい」と期待を込める。仙台六大学野球秋季リーグ戦は31日に開幕。今秋も浅井が声で「仙六」を盛り上げる。