立命館大・瀧野未来 ケガで知った「走れる幸せ」と周囲の支え、負けん気の強さも武器
臙脂(えんじ)に白の「R」のユニホームを着たルーキーが、全国の舞台で輝きを放った。9月19日~22日に開催された陸上の日本インカレで、立命館大学の瀧野未来(1年、京都橘)が女子400mハードルで準優勝。4×400m(マイル)リレーではアンカーを務め、立命館として2年ぶりの優勝に貢献した。
大会新記録を出した矢先に……
女子400mハードルの高校記録を持ち、昨年のインターハイでは4×100mリレーとマイルリレーでも日本一に輝いた。大学デビュー戦となった4月の京都インカレでは、400mを54秒68の大会新記録で制し、大学陸上界に新女王の誕生を予感させた。しかしその後、思わぬ事態に見舞われた。
鮮烈デビュー直後の4月中旬、練習中に左足首外側の靭帯(じんたい)損傷と骨挫傷という大ケガを起こした。5月に入ってギプスは取れたが、そこから2度も足をくじき、完治までには時間がかかった。7月の京都選手権で復帰するまで約3カ月間、走れない時期が続いた。これほど長期的なケガは、瀧野にとって初めて。関西インカレやU20アジア選手権、日本選手権を欠場し、悔しさと不安でいっぱいになった。
「最初はケガをして『わぁわぁ』なってたんですけど、どんなに嘆いても自分の靭帯はくっつかないし、なんとか自分が今できることをしようと思いました」と当時を振り返る。スムーズに復帰できるよう、補強や低酸素室でのトレーニングに取り組んだ。「心肺機能と筋肉を落とせない状況やったんで、低酸素ルームでゆっくりバイクをこいだり、補強をしたりしてました。補強は普段やらない上半身の筋肉を刺激するメニューを主にこなして、これまでとは違う視点からトレーニングできたことは良かったなと思います」
勝ちへのこだわりや思いが強いチーム
復帰当初は感覚に違和感があった。「体が重たくて、あまりスピードが乗らへんなぁと。『こんな感じやったっけ』という違和感は1カ月くらいありましたね。7月の京都選手権では『全然ダメやな』という感覚やったんですけど、8月に入ってから戻ってきて、スピードも上がるようになってきて。9月に入ってやっと完全に戻ってきた感じでした」
9月初めにインカレ400mハードルへの出場権を手にした。立命館には日本選手権で4連覇中の山本亜美(4年、京都橘)を筆頭に、全国有数のハードラーがおり、出場権争いは「日本一」と言えるほど熾烈(しれつ)だ。「一人ひとりの勝ちに対するこだわりや、思いが強いチームだと思います。TT(タイムトライアル)は全員本気で、みんなめっちゃ強いんです。練習から質の高いレベルを積めているので、本番でも強さを発揮できるんだと思います」
日本インカレには400mハードルとマイルリレー、4×100mリレーに出場した。予選を含めると400mを4本、100mを2本走った。「自分自身初めてのインカレだったので挑戦者の気持ちで挑みました。ケガ明けで『やっと走れるようになった』という思いも強かったので、後悔しいひんように今ある力を出し切ろうと思いました」
先輩の強さを改めて実感したインカレ決勝
400mハードル決勝は、瀧野と山本の初対決となった。高校の先輩後輩対決でもあり、「異常に注目されていると感じていました。特集が組まれて、至るところで『直接対決』と言われ続けてきたので、正直プレッシャーはありました」と瀧野は言う。
レースはスタート直後から山本が飛び出し、終始攻めた走りで先頭をひた走った。瀧野は最後のハードルを跳ぶまで3番手だったが、最後の直線でラストスパートをかけ2番手に滑り込んだ。4レーンの瀧野はレース前、6レーンの山本の背中についてリズムを刻もうと考えていたが、「5レーンの選手に気を取られてしまって、気づいたら亜美先輩は先を行ってしまっていた。前半もうちょっと食らいつきたかったですね」と山本の走りに圧倒された。「立命館でワンツーを取れたことはうれしいんですが、もうちょっと優勝争いを演じたかったなぁと。亜美先輩に差をかなり付けられてしまいました」と悔しそうに笑った。
初の直接対決で、山本の強さを改めて実感した。「映像で何度も亜美先輩が勝つ姿を見てきましたが、実際に戦って強さを感じました。亜美先輩も同じくらいプレッシャーがあったと聞いていましたが、それでも勝ち切るメンタルの強さは本当にすごいと思いました。アップも一緒にさせてもらって、自分の世界に集中しはる瞬間を目の当たりにして、切り替えのすごさ、集中力のすごさを感じました。やっぱり自分よりはるかに強いなあと感じました」と見上げる一方、闘争心も。「一緒に走ったことで、亜美先輩にもっと近づきたいという思いが強くなったので、インカレは自分の中でターニングポイントになりました」
ゴール手前で優勝を確信したマイルリレー
マイルリレーでは1回生ながらアンカーを務めた。「マイルで日本一になることはチーム目標の一つでした。1回生で走らせてもらえることは光栄なことやと思いましたし、アンカーを走ると決まったので腹くくって走りました」と振り返る。レースは瀧野が予想していた通り、立命館が1走から1位でバトンをつないできた。「私の仕事は『差を保ってこのままゴールするだけ』やったんで、追いつかれんように必死に走りました」
優勝を確信したのは、ゴールの手前10m。「電光掲示板が正面に見えて、勝ったと思いました。前にチームメートや一緒に走った先輩方が、笑ったり泣いたりされている姿が見えて、『自分1回生やのに、こんな良い景色を見させてもらって良いんかなあ』とも思ったんですが、4回生がこのレースにどれだけかけていたか知っていたので、最後自分が優勝を決めきれてすごいうれしかったです」
瀧野は初のインカレを素晴らしい結果で終えた。4×100mリレーにも急きょ出場し、2年ぶりの入賞に貢献。「応援がすごくて、とにかく楽しい4日間でした。来年もマイルでも4継(4×100mリレー)でも活躍できるようになりたいです」と闘志を燃やしている。
ラストスパート勝負は負けない
京都府八幡市出身。長距離選手だった母の影響で、小学4年生から陸上を始めた。幼少期からかけっこが得意で、「走ることが楽しい!」と練習に取り組んできた。
瀧野の強みは100mを11秒83で駆け抜けるスピードだ。「ラストスパート勝負になったら、負けない自信があります。負けん気も強いので、ラストの意地だけは自信があります」と笑顔で話す。
「地元の関西からリレーでも日本一を目指したい」という理由で立命館進学を決めた彼女の今後は、可能性に満ちあふれている。「来シーズンの大きな目標はユニバーシティゲームズに出場して結果を残すことと、今年は出場できなかった日本選手権で亜美先輩に食らいついて上位で走ることです。前半シーズンを走れなかったので、冬季にしっかり力を蓄えて、ケガ無く来シーズンを迎えたいと思います」
ケガを経て「走れる幸せ」と「支えてくれる人の大切さ」を感じた。彼女はこれからも持ち前の明るさで、苦しい時も乗り越えていく。